竜姫
「・・・メイリィ」
竜帝国城内でメイリィの行きそうな場所を探し、
探索範囲を城内全域、外に連れ出された可能性も加味し、
城下にも探索を広げているが、有力な情報もなく、
ディルは執務室で項垂れていた。
本当は、自らも探索に参加すると息巻いていたのだが、
少しは休憩するように、アナに言いくるめられ、
仕方なくアナが淹れてきた茶を口につける。
「・・・メイリィは、どこに・・・」
「絶対に、見つけますわよ」
「・・・アナは、強いな」
「あなたのほうが、魔力の量も、武術の腕も上ではないですか」
「確かに・・・だが・・・心の問題だ・・・
俺は、メイリィがいないと、本当に、
どうしていいのかわからなくなるくらい、
・・・弱くて、脆いんだ・・・」
「全く・・・しょうがない婚約者さまですこと」
「どうしたら、そんなに強くなれるんだ?」
「ひとには向き不向きというものがあります」
「・・・じゃぁ、俺は向いていないのか、そもそも・・・」
ずーんとディルの表情が沈んだのを見て、アルダが興ざめる。
「だから、あなたに足りないものは・・・
私たちが補います。だから、私たちを頼りにしてください」
「・・・メイリィも、そう言っていた」
「そうです。あなたには、いつも私たちがついているのですから。
だから、大丈夫ですわ。あなたがくじけそうになったのなら、
私がいくらでも背中に張り手を打ちこんで差し上げます」
「それは・・・その、どう言う意味があるんだ?
さっきも・・・その、そうやったな」
「気合いが入るのです。・・・入ったでしょう?
休憩も取らずにあちこち走り回るほどに」
「あぁ・・・確かにな」
そう言って、ディルは微笑む。
「アナ・・・」
「どうしました?」
「聞いても、いいだろうか」
「はい」
「・・・アナは、最初、俺を嫌っていなかったか」
「・・・そんなことはないと・・・思いますけど」
「・・・いつからか、俺に向ける視線が、鋭くなった。
さすがに・・・レオハルトも昔はやんちゃをしていたが、
そんな目で見られたことはなくて・・・驚いた」
「ディランさまはドMか何かですの?
別に・・・嫌ってはおりませんでしたが・・・」
「何か、俺に悪いところがあったのだろうか・・・
なら・・・言ってくれ・・・頼む・・・」
「・・・婚約者たちを放ったらかしていた時点で
悪いところだらけでしたね」
「うぅ・・・それは・・・その、すまん」
「わかっていらっしゃるのなら結構です。
少なくとも今は、違うでしょう?」
「まぁ・・・そうだな」
「しいて言えば・・・そうですね・・・
あなたが、ツェイロンから人族の姫を娶る、
正妃に迎えると言い出したこと・・・くらいでしょうか」
「・・・アナは、正妃に、なりたかったのか?
やはり、竜族の姫として、人族の姫が正妃におさまるのは・・・
嫌・・・だったのか・・・?」
「いいえ。私は一度捨てられましたから。
けれど、もう一度拾っていただいた時点で、
それだけで満足ですわ。どうせ傷物の私をもらう貴族なんて、
他には現れないでしょうから。
ですから、縁談を持ってきてくださった竜帝陛下にも、
承諾してくださったディランさまにも、感謝しておりました。
だから、その上正妃の座など、おこがましいです。
竜族の婚約者として、そのポストを与えられるかもしれない・・・
その、覚悟はいつもありましたが、望んではいませんでした」
「では、何故・・・?」
「・・・その、正妃に迎える婚約者というのが・・・
メイリィと言う名だと、知り・・・
ツェイロンの姫と聞いて・・・確信したからです」
「・・・それが、不満の種だったのか・・・?」
「・・・忘れたことなんて、ありません。
あの子は・・・私の竜姫ですから」
「・・・竜姫は、アナだろう」
「確かに、私は竜帝国でも歴史のある公爵家の娘・・・
竜族の姫・・・つまり、竜姫と呼ばれてもおかしくはありません。
そして、私は、竜姫のようにありたいと願いました」
「・・・竜姫のように・・・」
「恋愛小説のヒロインですわ」
「・・・恋愛小説?」
「昔、はまっていましたの。竜族の青年騎士と、
竜姫と呼ばれた、打たれ強くて、でも本当は泣き虫で、
・・・それでも前向きで明るくふるまい、周りを笑顔にする女の子。
そんな竜姫のようになりたくて・・・
竜姫のような雪のように白く美しい髪を持ちたかった・・・
美しい淡いアメジスト色の瞳を持ちたかった・・・
そんな時、私は、竜姫のような子に出会った・・・
そして、彼女のようにありたいと願ったのです」
「・・・」
「結果は、空回りの連続でしたが・・・
初日の晩餐会で、倒れたものだから・・・
翌日見舞いに行ったのに・・・素直になれなくて・・・」
「けれど、君は打たれ強い」
「そう・・・ですね。自分でも、ツンケンしているところは認めます。
私は、気が強いですから」
「だが、よく泣いている」
「んな・・・っ、泣いてなど・・・」
「あの夜会の夜、泣いていた」
「それは・・・その・・・」
「そして、俺がヘタレになっても、こうやって、明るく、笑顔にしてくれる」
ディルがそう微笑むと、アナが照れたように顔を背ける。
「私は・・・竜姫に・・・憧れの竜姫に・・・近づいたのでしょうか」
「・・・そうだな・・・確かに、似ている・・・とは思う
だが・・・アナは、アナだ。こうして、俺がダメになりそうな時も、
気を遣ってくれて、喝を入れてくれる。周りを明るくしてくれる。
君がいてくれて・・・感謝している」
「・・・っ!」
アナは、目を見開いて、ディルを見つめる。
「そ・・・その・・・っ、メイリィとルゼくんが見つかっても・・・
はしゃがないでくださいよ!みっともないので!」
「あぁ・・・君がそうして制してくれるから、助かる」
「・・・もう・・・」
そのふたりの様子を、アルダは不思議そうに見ながら微笑み、
部屋にもっふぃたちと一緒に軽食を届けに来たシアは、
何だかいつもと違う雰囲気にそっと微笑みをこぼした。




