メイリィのいない朝
「メイリィが・・・どこにもいない!」
朝起きるなり、隣に愛しい婚約者の姿が見えず、
魔力でつながっているから、大体の場所はわかるはずなのに、
この帝国城のどこにもメイリィの気配を感じられず、
ディルは焦って側近のもとに駆け込んだ。
「落ち着いてください、主・・・!
まずは着替えてください!寝巻じゃないですか!」
側近のアルダが落ち着かせようとする。
「そんな場合じゃない!メイリィが・・・メイリィがどこにもいないんだ!」
「ま・・・まずは、シンシアさまや、アナスタシアさまに
尋ねてみるべきではありませんか?」
「・・・そうだ!」
メイリィは、あのふたりとは仲良しで、
よく部屋に遊びに行くこともあった。
けれど、何も言わずに行ったとなれば、
ディルはどこか腑に落ちなかった。
だから、今いる場所から一番近い、
アナスタシアの部屋を訪ねた。
「アナ!メイリィが・・・」
そう、言いかけた時・・・
アナスタシアは・・・キャロルと仕度中だった・・・
・・・しかも、下着姿で・・・
そして、ディルは寝巻・・・
アナの顔が、真っ赤になる。
そしてふるふると震え出し・・・
「あ・・・あなたは一体、何を考えていらっしゃるのですかっ!!」
アナに怒られ、渋々着替えたディルは、
仕度を整えたアナと合流した。
「全く・・・まずは、私はシアの元へ向かいます。
あなたはルゼくんの元へ。影を放って私たちのことを
守護しているはずです。だから、急いで確認をなさってください!」
「わ・・・わかった」
アナの的確な指示を受け、ディルは早速アルダと共に、
ルゼの元へと向かう。
一方アナは、シアの元へと向かい、
仕度を整え、もっふぃたちを抱えてきたシアと合流した
ディルとアルダは、苦々しい表情を浮かべていた。
「・・・ディランさま、ルゼくんは」
「・・・いない・・・どこへ行ったかもわからない・・・
いつも名前を呼んだら影から抱き着いてくるのに・・・」
「兄弟で・・・抱き着いて・・・ぐはっ」
アナが吹いた。
「アナ!?どうした・・・!」
「アナ、しっかり!」
シアの声もあり、アナは正気を取り戻し、姿勢を正す。
「こちらも、メイリィの姿は見ていませんわ。
他の近衛騎士や、侍女たちにも、手分けして当たってみましょう」
「あ・・・あぁ・・・」
ディルはいつもの冷静さや覇気を全く感じさせず、
狼狽えるように声を震わせながら頷いた。
そんなディルを見て、アナは背中をバシンッと、叩く。
アルダとシアが呆然とそれを見ている中、
アナのきびきびとした声が響く。
「しっかりなさいませ。
どうせ、メイリィが自分で出ていったのではないかなど、
うじうじ考えていらっしゃるのでしょう?」
「んな・・・っ、うじうじ・・・っ!?」
ディルは虚を突かれたように顔を上げる。
「メイリィはそんなことをする子じゃありません。
ディランさまのことを誰よりも想っております。
それくらい、わかりますわ。
私たちのメイリィを、正妃に迎えようと意気込む方が、
こんなところでうじうじしないでくださいませ」
私たちの・・・?アナの言葉に少し違和感を持ちつつも、
ディルは、アナの自信と同じ金色の瞳を見つめる。
竜帝国の皇族に多く現れるその金色の瞳は、
揺るぎのない信念を感じさせる。
「そんなことでは、私たちがメイリィをお嫁にもらってしまいますよ!」
だから・・・私たち・・・とは?
ディルは首を傾げるが・・・
「そんな・・・何故・・・っ!メイリィは俺の妻になるのだ!」
まず、アナが同じ女性のメイリィを
妻に迎えられるはずがないのだが・・・
冷静さを欠いていたディルは、すかさず言い返した。
「なら、しっかりなさいませ」
「あ・・・うん」
「メイリィとルゼくんを必ず見つけますわよ。
気合いを入れてくださいませ」
「わ・・・わかった」
「では、シア。私たちも行きますわよ」
「うん、アナ!」
アナとシアの後ろ姿を見送り、
ディルも気合を入れるようにアルダを振り返る。
「俺たちも行くぞ」
「はい、主」
アルダは安堵したように、頷いた。




