炎の竜姫と雪の妖精
その後、私は、大変なことに巻き込まれ・・・
自ら突っ込んでいったため、ディルが過保護を乱用し、
ひとまずはシアたちが休んでいる休憩室に向かうことにしました。
ディルはまだまだ役目があるので夜会会場に残っています。
だから、ディルは不満そうにしながらも渋々、
シンシャ兄さまとエイダ義姉さまと一緒に離籍することを
竜帝陛下に報告してくださいました。
そして、シンシャ兄さまとエイダ義姉さまと一緒に、
休憩室に向かう途中・・・
何やら女性の泣き声・・・?
のようなものが聴こえました。
私はゆっくりとその声の元に近づきます。
柱の影のベンチに、赤い髪が見えました。
「大丈夫ですか、竜姫さま」
突如かかった声に、竜姫さまが振り返ります。
目が真っ赤に腫れていて・・・痛々しい。
「もう大丈夫ですよ。私が付いていますから」
「・・・何で・・・」
「だって、泣いているレディがいるのに、
放っておくなんて野暮じゃないですか」
「私・・・あなたに・・・ケンカを売ったのよ」
「確かにそんなこともありましたけど、
先ほど、守ってくれたじゃないですか」
「私は・・・そんなつもりじゃ・・・」
「それでも、助かりました。私も、シアも。
竜姫さまは、やっぱりお優しい方です」
「私は・・・優しくなんて・・・ぐすっ」
「じゃぁ、私は優しい方だって思うことにします。
それは私の自由ですもの」
「・・・あなた・・・」
「メイリィでいいですよ。竜姫さま」
「アナ・・・」
「へ?」
「私はアナスタシア・・・“アナ”でいいわ」
「はい、アナ」
「私は・・・メイリィって呼ぶわ」
「これから、お友だちですね」
「・・・お友だち・・・?」
「はい!お友だちです」
私がにっこりと微笑むと、アナは驚いたような表情をしつつも、
優しく微笑んでくれました。
けれど、それもつかの間・・・
「人族の姫!我らが竜姫さまに近づくなど不敬!」
「竜姫さま、どうぞこちらへ!」
颯爽と駆けつけてきた竜姫さまの竜族の侍女たちが、
竜姫さまの腕を引っ張り上げます。
「ちょっと、待ってください!」
「あなた!竜姫さまに何をするつもりだったの!?」
「こんなにお目を腫らされて・・・」
「あぁ・・・竜姫さま、おいたわしい・・・」
「あの・・・あなたたち・・・」
竜姫さまのか細い声が響きますが・・・
「竜姫さまは黙っていらして!」
「このような無礼な人族の娘の相手など、する必要はありません!」
う~ん・・・何か嫌な感じの侍女たちですね・・・
「あなた方こそ、私たちの妹への暴言は無礼ではないですか」
「メイリィは竜姫さまを気遣って傍についていただけですわ。
その様子は、私たちも見ています」
そこで、シンシャ兄さまとエイダ義姉さまが来てくださいました。
「下劣な人族めが・・・」
「我々をそのように罵るのは結構ですが、
私が人族の国の王族であり、王太子であることを認めたのは、
竜帝国の竜帝陛下であらせられる。
その我々を罵ることは、竜帝陛下への無礼ではないでしょうか?」
おぉ・・・っ!
いつもの変態が嘘のようなカッコよさ!
SSレア・王太子バージョンのシンシャ兄さまです!
「んな・・・っ!私たちは宗主国の・・・」
「ドラグニール公爵家の・・・!」
「それは、竜姫さまが、であって、
一介の使用人であるあなた方ではありませんよ」
「何ですって!それでも、宗主国の臣民として、
我々竜族を敬うべきなのです!」
「随分と騒がしいようだが」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ侍女たちの声を遮るように、
低い声が響きます。
その声の主を、彼女たちももちろん知っているようです。
一瞬にして、顔を青くして黙りこくりました。
「シンシャ殿は、確かに人族の王族である。
しかし、属国の王族は、竜帝国の皇族に準ずる立場にある。
つまり、ドラグニール公爵家よりも立場が上になるな。
そんなシンシャ殿を卑下するとは・・・
お前たちは、どれだけ偉いのだ?聞かせてはくれぬか」
「・・・」
侍女たち、完全に黙りこくっています。
「不愉快だ。ここでアルダに処理させることもできるが」
その言葉に、侍女たちは震え出します。
「ドラグニール公爵家は歴史ある名家。
そこの王族よりも偉い臣民の使用人とはいえ、
勝手に斬り捨ててはドラグニール公爵家に面目が立たぬ。
とっとと消えるがよい」
「・・・っ、い、行きましょう、竜姫さま!」
侍女のひとりが、アナの腕を引っ張ります。
私は、つい体が動いてしまいました。
「アナはおいてってください!!」
『は・・・?』
竜族の侍女たちはぽかんとしています。
アナもですが。
「ディルが消えろと言ったのは、
お偉い竜族の臣民のあなたたちであって、
アナではありません!だから、アナはおいてってください!」
どうだ、見たか!
兄姉たちに鍛えられた痛烈な皮肉カウンターを喰らいなさい!
普段はシンシャ兄さまのシスコンに辟易しておりますが、
いざと言う時、妹は強力なシスコンアタッカーに変貌するのですよ。
「な、何を・・・」
侍女が口を開きかけたその時、思わぬ加勢が来ました。
「そうだ、アナスタシアは我が婚約者だ。おいていくがよい」
「・・・っ」
何か言いたげな侍女たちですが、
ディルに睨まれ、泣く泣く
アナを置いて退散していきました。
その後ろで剣の刃をちょっぴり見せた
アルダさん効果かもしれませんが。
いや・・・どっちもでしょう。鬼畜の権化コンビですね。
「さて、メイリィ。随分と冒険をしたようだ」
ディルに呆れたように破顔されたとです。
「えぇと・・・その、えへっ」
困った時の妹最終奥義です。
「こらっ」
何故かエイダ義姉さまから怒られましたが。
ひとまず、みんなで休憩室に向かいました。
「ところで、どうしてディルがここへ?」
「やはり婚約者が倒れた事態だからな。それを理由に抜けてきた」
もう・・・ちゃっかりしてますね。
休憩室に入ると、シアの顔色はだいぶ良くなっていました。
そして、アナの顔を見ると、
どこかほっとしたような表情を見せてくれました。
やはり、シアもアナに恩義があるのでしょう。
シアはアナに礼を述べ、
少し恥ずかしそうにしているアナは、
とてもかわいらしい姫さまだと感じました。




