竜姫の事情
「それよりも、私はあの侍女たちが気になるのだけど」
「それは、私も」
何と、シアも同意見でした。
「アナ、あの侍女たちはどういう方たちなの・・・?」
私が問いかけると、アナは少しずつ口を開いてくれました。
「あの・・・あの侍女たちは、実家が、つけてきた侍女で・・・
皇太子殿下の妃となるために、恥ずかしくないようにと・・・」
いや、むしろ皇太子殿下のディルの不興をモロに買いましたがね。
「じゃぁ、アナの侍女じゃないのね」
と、シア。
つまりは、アナに専属で仕えているのではなくて
実家が寄越してきたから、アナに仕えているということです。
ちょっと説明が難しいですが・・・
実家の言いなりで、アナのために動く侍女じゃないということです。
「ディル、何とかならない?」
「・・・俺なのか?」
何故、そこで微妙な顔をするのか。
後ろでアルダさんが失笑してますし。
「だって、ご自身の婚約者の侍女が、
属国とはいえ、その王太子のシンシャ兄さまを貶した・・・
となれば、アナが将来皇太子妃のひとりとして、
ディルと属国との公務に臨んだ時にアナが恥をかくことになります」
「確かにな」
「それに、アナが泣き出しそうな顔をしているのに、
それを放っておくなんて、未来の旦那として失格だと思います」
「んな・・・っ、それは、メイリィの旦那としてではなく・・・」
「私の旦那としても失格です」
「うぐ・・・っ。では、こちらから
ドラグニール公爵家に苦言を入れる。
それに、弟の婚約者を気取った無礼な女についてもな」
それは、アナの妹君のピンク髪のことですね。
「アナスタシア、お前は、侍女、使用人について何か希望はあるか」
「え・・・」
アナは驚いたようにディルを見上げます。
「その・・・よろしいの・・・ですか?」
「あぁ・・・あぁいう不愉快なものを再び、
ドラグニール公爵家に派遣されては困る。言え」
言い方は少々きついのですが、
それでもアナを気遣っていることには変わりません。
ちょっとは気が利くようになりましたね、ディル。
「あの・・・探しても、いただけるのですか?」
「希望があれば」
「特定の・・・者でも?」
「それはどう言うことだ」
「・・・私に、幼い頃から仕えてくれた使用人がいるのです・・・
でも、お父さまが粗相をしたからと、
無理矢理やめさせてしまったのです・・・
だから・・・もし、彼女たちが再び、
私に仕えてくれるのであれば・・・」
「・・・難しいかもしれぬが、探してはみる」
「は・・・はい・・・っ!ありがとうございます、殿下!」
アナは目に涙をたくさんためて、ディルを見上げます。
ディルは何だか照れたように顔をそらし・・・
「ディランと呼べ」
そう、告げたのでした。
後日、王城を去って行った侍女たちの代わりに、
性懲りもなくドラグニール公爵家が使用人をあてがってきたのですが、
問答無用でディルが追い返してくれました。
これでは、さすがのドラグニール公爵家も強気には出られません。
何せ、二度も同じ不興を買って、ただで済むわけがないのですから。
さすがに面目丸つぶれ、しかも侍女は尼僧院送りとなりゃぁ、
アナの婚姻にも必死になりますわな。
ドラグニール公爵家はもう必死に
ディルにご機嫌取りをしようと試みましたが、
ある日青い顔をした使いの方が帰ってから、
ぱったりと音沙汰なくなりました。
妙にアルダさんが笑顔だったのは、気のせいですかね?
そうして数日後、遂に、
アナが探していた使用人たちが見つかったそうです。
ひとりは、ブラウンの髪をツインテールに結った、
青い瞳の竜族の少女です。
年齢はアナとそう変わりません。
服装はメイドさんですが、
これからは侍女として仕えてくださるそうです。
「キャロル・・・!
あぁ・・・キャロル・・・!よく無事で・・・!」
「アナさまこそ、お元気そうで安心しました!」
そう言って花のように微笑むキャロルは、
とてもステキで明るい女の子ですが、
公爵家を追い出されてからは
それが瑕となり、碌な職場に巡り合えず、
病気を抱える弟さんのお薬代を稼ぐため、
とても苦労をされていたそうです。
これからは、ディルの善意で弟さんもしっかりとした
医療施設で診てもらえるそうですし、
キャロルはアナ付きの専属侍女として、
ディル自らが皇太子宮に召し抱えたという筋書きなので、
お給料も破格の宮勤めです。
これで、ご家族もきっと楽に暮らせますね。
そして、もうひとりの顔を見た時、
私はぽかんとしてしまいました。
「・・・エクレール?何してるの?」
つい、そう聞いてしまいました。
「・・・お久しぶりです、姫さま」
エクレールはいつものすまし顔で返してきました。
「・・・メイリィ、エクレールを知っているの?」
「え・・・あぁ、うん。
彼は、ウチの国で執事見習いをしていたの」
「メイリィの・・・国で・・・?」
まぁ、その辺の事情を語るとちょっと長くなるのですが、
それは彼の外見が少し、関係しています。
彼の外見を見た時、シアも少し驚いたようでした。
エクレールは漆黒の髪に赤い瞳を持った少年で、
年は私よりふたつ下、肌は浅黒く、エルフ耳を持っています。
彼らはエルフの王国では
“ダークエルフ”などと呼ばれて卑下されているそうです。
私は人族ですし、特にそう言うのは気にしませんし、
彼を雇い入れたいと言った時、
シンシャ兄さまはやけにテンションマックスで了承してくれて、
エクレールは宮勤めと相成りました。
私が何故彼を連れてきたかと言うと、
彼は奴隷の首輪をされたまま、孤児院に保護されていました。
孤児院としては、子どもを放っておくわけにもいかず、
奴隷である以上、孤児院が抱えるわけにもいかず、
困っていた孤児院の院長は、
度々訪問をしていた私を頼ったのでした。
調べたところ、特に犯罪の記録もなく、
つけられていた奴隷の首輪も正規のものではなく、
違法なものだったので、王城で彼の奴隷の首輪を外してもらい、
私専属の執事見習いにどうかと打診しました。
と、言うことなのです・・・
アナにそれを説明したところ、
とてもショックを受けたようで、
ですが、エクレールが無事であったことを
とても喜んでいました。
アナもまた、奴隷として売られていたエクレールを、
その昔買い取って、自身の侍従としたそうです。
けれど、それを疎ましく思っていた公爵家の・・・
ピンク髪の母親がエクレールを騙して
売り飛ばしてしまったのだとか。
やれやれ、酷いもんですね。
けれど、偶然私に拾われていたことを知り、
アナは私にも抱き着いて号泣してしまいました。
エクレールは普段すまし顔なのですが、
それを見て、少しほっとしたように笑んだのです。
エクレールの種族についてですが、
シアはエルフ・・・の中でも王族で聖女なのです。
ちょっと大丈夫かな?と思ったのですが、
見た目で差別される苦しみを誰よりも知っているシアは、
アナとエクレールの再会を祝福してくれました。
あぁ・・・やっぱりシアは、マジ天使力パネェです。




