不登校の通学路
「ジジジ」
「U子、帰るまで静かにしてろって」
「ジジ、ジジジジ」
久しぶりに元気に動けるようになってはしゃいでいるのか、胸ポケットの中でU子は電気的な音を立てる。
「やっぱ外には連れてけねーな」
と隣を歩くセイラが言った。
日中の町は、深夜ほどではないけれど、ヒトの通りが少なくて閑静だ。
高校の授業が終わる時間になれば、このあたりももう少しにぎやかになるだろう。
「ところでセイラ。授業は?」
「もー、今日は早退してU子と遊ぶ――てか、不登校のやつにそんな心配されたくねえし」
「それもそうか」
自然と笑いがこみ上げてきた。
家の外でこんな風に笑うのはとても久しぶりな気がする。
1度あそこまで弱ってしまったU子は、坂本の話ではギリギリでエネルギーを回復させてまた動けるようにすることができたらしい。本来であればU子は磁力を定期的に補給することで活動を続けることができるそうだ。
坂本にもらった黒い直方体のマグネットをポケットからひとつ取り出す。ごく普通の磁石だ。それをU子に近づけると、すぐに吸い付けて磁力を食べてしまった。磁力を食われた磁石は、もうほかの磁石にも鉄にもくっつかなくなった。
全く、いくら解説されようとも、不思議づくしの存在だ。
「そうだセイラ。結局お前は、なんでうちに来てくれてたんだ?」
と思い出したことを尋ねる。
「それは」
担任の坂本は、U子を僕の家に連れて行くようセイラに頼んだ。けれど、セイラが来ていたのは、本人の意思だったという。
慣れてしまっていたけれど、スペアキーを盗んでまで家に来るというのは、普通ではないのではないだろうか。1度気付くと、その理由が気になった。
「秘密だよ。ジュキヤが皆勤賞取れたら教えてやる」
「それもう無理じゃん」
「いいだろ、知らないことがひとつくらいあったって」
「まあ、言いたくないならいいけど」
ただ、ひとつ。僕から言っておきたいことがあった。
「ありがとうセイラ」
「なんだよ急に」
「いや。いろいろとさ、助かったよ。お前が来てくれてたおかげで、話し相手になってくれてただけで、なんか、救われてた。だから、ありがとう」
「い、いや別に。気にすんなよ……先に助けてくれたのはジュキヤの方だし……」
「え? なんか言った?」
「なんでもねえよ。早く帰ってU子と遊ぼうぜ」
「ジジジッジジジジジジジ」
「そうだな、ってU子静かに」
まるで放課後の通学路みたいに、僕たちはその道を歩いて帰る。
まだ明日から先も、この道を僕がこうして歩けるようになるのかはわからない。
けれど、そうなったらいいなと、今は思うことができた。