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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 1.0 スマホと異世界と雑竜種《デミドラゴン》
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#6 侵入

ああ、なんか始まってしまったなあ。そんな気持ちで今を迎えている。

普段だったら焦ってる所だ。学年集会のスピーチですら焦るんだから焦るはずだ。

だが、今は違う。今まで使ったことの無いアプリの効果を試す絶好の機会なの。

今の状態は好奇心でいっぱいだ。焦りなど感じている場合ではない。

高ぶる気持ちを抑えてスムーズに、昨日の夜から決めていた通りに「城の上層階ベランダの写真」をズームアップで撮る。

「はいこれ、どうにか行けそうか?」

撮った写真をルイラにスマホで見せる。ズームアップだから画質はあまり良くないが流石最新機種。そこそこには撮れる。

「……いけます!ここに空間移動を設定すればいいんですね?」

「そうだけどストップ。ルリアさん、これ最初の50人ジルオさんに蹴散らしてもらう感じですか?」

「まあ大体そうだけど……何か問題あった?」

「いや、ジルオさんにそんな対群戦闘力なんてあるのかなー、と……」

心配する部分はその一点。見た感じはただの鍛冶職人にしか見えない。……いや、この人(ルリア)もこんな暴れん坊には見えもしないが。

「まあ、そりゃそう思うよね。じゃあ折角だし後ろから見てよっか」

「殿としての務めとかいいんですか!?」

「どうせ後でしなくなるし。ルイラと昨日の夜話してた内容もそういう事でしょ?」

「「うっ……」」

「まあ見てなさいって。ジルオー!?準備オッケー!?」

鼓膜が裂けそうなほどに叫ぶ。絶対相手の兵士にも聞こえてるだろう。

「大丈夫だ!いつでも来い!」

「総員傾注!突撃―――開始ッ!」

「「「「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおああああああらああああ!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

前から激しい怒声。本当に始まるんだなという実感を湧き立たせてくれる。

声に迫力負けしそうになって少し後ずさりそうになったがルリアが支えてくれた。声で気圧されるのも、その迫力を受け止めてくれる人がいるのも初めて。

「きっと君はしっかりとした『魔法』は見た事ないんでしょ?だったらジルオのとっておきを見ておくといいわ。驚くわよ~」

そう言われて視線を前に向ける。……向けたのはまだいい。

「……なんだあれ……」

正面を守っていた兵士の頭上辺りに巨大な塊が見える。しかも結構な速度で、結構な質量がありそうな見た目で。

そしてそれがハンマーだと分かったころにはその巨大なハンマーは地面に墜落し、付近に巨大な地震を起こしていた。日本だと震度4くらいありそうな感じ。

「ねっ?すごいでしょ?あれがジルオのとっておき『 隕石抄鎚(メテオラ・ショット)』。ハンマーの素材によって大きく出来るサイズが違うらしいの。あの大きさだとかなり良い素材使ったんでしょうね」

「すごいってか……あんなの避けられないじゃないですか……」

「防ごうとしても大体の力が重力だから魔法防御じゃ防げないの。かといってあの大きさのハンマーが上から降って来て無事なほどの物理防御が高い盾なんて見た事ないんだけどね」

地面に沈んだ音が治まってきたころに初めて騒ぎの声を実感した。

「……こんな初見殺しってアリなのか……」

「文字通りの初見『殺し』ね。一応だけど相手の兵士にも聞こえる声のデカさで言ったでしょ?一応私たちにとっての『良心』であり『避難勧告』なんだけど……大体聞いてくれないよね」

「いや、そりゃあ逃げたら負けみたいな風潮持ってる人もいますし……ってルイラなんで気絶してんの!?」

開いた口が塞がらなくなっている真横で、泡を吹いたまま即倒しているのが一人。

「さすがにあれ見たら気絶しちゃってもいいんじゃない?」

「起きろー!起きてくれないと作戦的に俺が死ぬから!」

「……えー……はっ!?……私……寝てました?」

「まあそうとは言えなくもないけどそうではない!」

「で、結局何をしたいの?ちょっと気になる」

「「それだぁっ!」ルイラ転送よろしく!」

「了解です!移動位置固定、対象座標並行軸固定完了!『トラべス』!」

スマホで見せた場所に、つまり白の正面上空にあるベランダに紫色の穴が出来る。

そしてルイラの右手付近に人一人分程度の紫色の穴が出現。なるほど、この世界の魔法は特に詠唱とかは必要ないらしい。

そしてルイラの真横にも同じような穴が出現。入り口と出口を固定してワープを発動させる形式の魔法だろう。ただ―――。

「……これ本当に入って大丈夫なの!?」

「私自身が無事だからいけるはずです!三人はやったことないですけど!」

本当に疑問だ。なぜ根拠のないことをここまで堂々と言い切れるのか。見た感じは明らかに触れたらヤバい系統のブラックホールそのもの。

「とにかく大丈夫ですって!ヒアウィゴー!」

なんでお前がそんな言葉知ってるんだ、と言う前にルイラに叩きこまれる体勢で穴にダイブ。頭から突撃はさすがに脳が揺られる。

「ほあああああああっべ!うお、痛っ……うわ、本当にワープできてる」

「私の魔法は魔力消費の少なさと安定性が売りですからね!」

「空間魔法って普通魔力消費大きいものなんだけどな……じゃあ行こうか」

「……もしかしてバレてます?」

「上にワープしてきたってことは先に侵入して王様を抑えて降伏させようって考えでしょ?この国案外平和だから問題があったらそっちに戦力振っちゃうくらい戦い慣れてないし」

完全に作戦を読まれてる。一体どうやったらここまで策士の如く頭を回せるのか。盗み聞きをしていたかこちらの思考を呼んだか、それともそれ以外の魔法を使用したか。

「でも王様の部屋は私も分からないから探索しなきゃね!あとこれ」

ルリアが渡してきたのは開戦合図の時に使ったトランシーバーのような物。

「私は地形図把握とかで頭使うから戦略指示よろしく!走りながらね!」

「……え?」


『右陣班より!中央からの兵が来ていて押し返されそうです!』

『こちら左陣班!ひとまずは突破できたが奥から魔導師部隊が出てきて足止め中!今だ城には入れず!指示求む!』

「……なんっっっっだこれ……」

どこからか出てきた片耳ヘッドホンを右耳に当ててトランシーバーを持ちながら走る。

「なんでこんな情報量をルリアさん捌けるんですか!?」

「昔から支持役やってたから!各部隊の特徴把握とかも大事だよ!」

そんな事を言われたところで何になる。むしろ俺はこういう指示系統は聞いて動くタイプなのだがと言おうともしたが、こんな場所で動いてたら間違いなく死ぬ。

「俺入ってきたの昨日だから特徴把握もへったくれもねえですけどね!どこにどんな感じの人を当てたのか教えてください!」

「基本的にメイン火力は中央!再度二つはその中央を裏取りするために機動力がある編成にしてあるけど……ここまで防御が固かったのは予想外かな」

(メイン火力は全て中央!?そりゃあサイドは火力不足になるわけだってか亜人種メインの編成で押し切れないとかどんな人間だよ!?)

「司令塔から伝達!中央の兵は少し右陣に偏っているらしいので右陣は防御メイン!その分中央が割りやすくなっているから左陣は人数2割抜いて中央に移動!」

『『『了解!!!』』』

「……なんで指示役が俺なのにみんなこんなにノリいいんですか」

「基本的にそんな奴らの集まりだから。それに交代するって伝えてあるし」

じゃあ元から指示役渡すことは決めていたのか、と思ったが頭の中はそんなにうまく回らない。まずは下の方の処理を優先しよう。

走りながらものを考えるのはあまり得意ではない。昔から50m走は9秒台だ。だが走り続けてもあまり疲れないのを見ると亜人種の身体能力強化はなかなか働いていると言える。

(左右は機動力で火力が薄い!でも裏を返せば機動力がある。少しでも突破できれば中央を内側から瓦解させることが可能!)

でもそれをするには一度でもトッパする必要がある。それが出来ないから苦労しているのだ。頭を抱えて無駄に城に備え付けられた窓から飛び降りたい気分だ。

「……まるで将棋だな」

「ショーギ?」

「あー、えーっとな、俺がいた国にある戦略ボードゲームだ」

思わず言葉に出してしまう。そう、例えるならチェスとかオセロではなく将棋。

相手の隙を突いて、そこから流れを崩さずに相手を倒せるか。

そう考えてみると将棋に近い気がしなくもない。いや、考え過ぎによる誤認かもしれないが。

(とにかく突破だ!おそらくこっちが王を落としたとしてすぐには兵隊は止まらない!だから『気づかれない』!兵隊は歩兵そのものだ、『後ろには絶対に下がらない』!)

つまり、少しでも敵陣に突入出来たら後はこっちの勝ちなのだ。

「ルリアさん……これどこの陣使って王落としたらいいんですかね?」

「えっ……!?私達じゃないの!?」

「……あっ」

「ヒサメさん何か気が付きました?」

ルイラの声を気にせずトランシーバーに叫ぶ。

「司令塔より伝達!こちらからの完了合図があるまで全員『耐久勝負』!」

了解の合図がある前にトランシーバーの電源ボタンらしきものを押した。

そうだ、最初から気づいていなかった、指示を出す事だけに必死になっていた。

それじゃあ何のためにルリアをこっちに呼んだのか。既にここは敵陣内部、そして一番の火力がここにいる。前衛が囮になってくれている間に内部に潜入したこちらが刺す!

「……もしかして新人君って頭堅いタイプ?」

「……あまり学校の成績は良くなかったですね」

「「ガッコ―??」」

「えー……なんかいろいろ教えてくれる場所です」

なるほど、この世界には学校は無いのか。いや、名前が違うだけかもしれないな。

得意なものは理科と社会、苦手なものは英語と数学と国語。未来が無い典型的ダメダメ高校生だったことを今更実感する。

「じゃあ早く終わらせないとね!分担して王室探すよ!」

「「了解です!!」」

「じゃあ私はそこの十字路を右に行くから残りの二つをよろしく!」

本当に指差された先には十字路が。なるほど、もはや総当たり作戦か。確かに構造が分からない以上は仕方がないのだが……これは……。

「じゃあ私は左に行くのでヒサメさん正面お願いします!何かあったらテレパスで!」

「えっ、あっ、お、おう、了解!」

何が起こったか良く分からないがとりあえず承諾。むしろここでテンポが悪くなってしまっては敵わない。

そして数秒後。十字路を通過した時に一人で走っていた。

「なんでえええええええええええええええええ!?!?!?!?」

失礼、あまりの出来事に思わず叫んでしまった。少し前の会話は聞いていたような感じはしていたが全然理解できていなかったようだ。

「戦闘能力皆無の俺に何を期待したんだあの二人は……!?」

いや、一応は戦力になりそうなアプリは昨日見つけたのだが使い勝手が何とも。

とにかく一対一だとロクなことにならないことは自他ともに明らかなのだ。普通。

「なのになんで俺を一人にするのかなぁ……」

失望と言うか絶望と言うか、なんかそんな感じの声が出る。

とにかく任されたことはやらねば。達成できるかは置いておくとしてもだ。

まず身の安全。曲がり角を曲がるたびにスマホの内カメラでさりげなく覗く。

そして敵陣中心部を潰す。場合によっては一人で達成できないのでテレパスで支援要請。

「……まあ、とにかく走って探すしかないよな!うん、ポジティブポジティブ!」

自分に言い聞かせるように笑ったのはいつぶりだろうか。

いや、そんな機会は未来永劫来てほしくないと願うばかりだ。

そしてその考えは目の前の現象で中断させられることとなる。

「!?道が……さらに三つに分かれてる……だと!?」

ハッキリ言って立ち止まっている余裕なんて無いしそんなことしてたらルリアさんに背中ブッ叩かれるのでとにかく考えなしに直進。

「ああもう、分かりにくい造りにしやがって!攻略し終わったらどうにかして解体してやりたいぞこの城!」

王様がいる部屋ってのは線対称な城なら一番上の中央。そこが一番外敵から攻められにくくて防御もしやすい。……まあ、忍び込まれたら無防備なのだが。

分岐をちらっと見た感じだと右ルートが螺旋階段のあるルート。もしそうじゃなくても階段は左。こんなややこしい城なら侵入者対策で階段を一直線につなぐわけがない。

「つまり俺のルートはハズレ!よし、当たりだな!これで戦闘しなくていいy」

独り言を声高々に呟いていたら足元が抜けた。崩れたとかではなく、足場そのものがぽっかりと抜けた。視点が下がっていくことで初めて落ちていくことに気付く。

「うおっ―――」

瞬きが始まる瞬間に足元が抜け落ち、瞬きが終わった直後には目の前にルイラがいた。

「……へっ!?」

「やっと呼べました!『鐘』を探しますよ!」

「は?鐘?」

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