023: 決着!!業火と共に消えし禍つ花
第一章:罠師よ、常識を壊し続けろ!!
023: 決着!!業火と共に消えし禍つ花
足が重く、カリンに肩を借りているにも関わらず、上手く進むことができない。その感覚はまるで、何人もの人がしがみついてきているかのようで、本当に自分の足なのかと疑いたくなるほどだった。
しかしここで弱音を吐くわけにはいかない。
先ほどまで麻痺していたフォレストフォークロアも今や俺たちをいたぶるかのように、ゆっくりと近づいてきているのだ。
「 終わらせる!!もうすぐ・・・もうすぐ終わるんだ!!・・・ッッ!!? 」
不意に横切った激痛に膝をついてしまう。
確かな勝利を確信している心とは裏腹に、身体に残るダメージはもはや限界など悠に超えていた。そんな俺を目にカリンはまるで庇うかのように迫ってきている喰人花へと対峙した。
「 先輩、頑張ってください!!!・・・ここは私が時間を 」
強く言葉を発してはいるが、それでも彼女の全身は激しく震えている。俺とは対照的に、それが近づいてきていることに誰よりも恐怖を浮かべているのは、その絶望的状況を間近で体験したカリンなのだ。
そんな彼女の名を咎めるように叫び、恐怖によって支配されつつあるカリンの身体と心に静止をかける。
「 大丈夫だ・・・俺を信じろ。みんなで、絶対に生きてかえるんだ 」
「 ・・・先輩・・・・わかりました、では急ぎましょう!! 」
俺の言葉を耳に、再び彼女へと灯る力強い眼差し、そしてすぐに寄り添うようにして肩を貸してくれた。
膝が起き「よし」と意気込む、そして身体を起こし、自身の身体に鞭を打つかのように歩を早める。
塵で埋め尽くされた庭園であったそこは一面が、代わり映えのない姿をしている。それこそ、俺が今だ発動したままのフォールトラップによって生成された防壁を除いて、なにもないほどに殺風景な、荒野と呼ぶに相応しいものであった。
しかし、それでいいんだ。
いくら全てが塵によって埋め尽くされていようと“あの場所”を見失うわけがない。
数分前に、俺に敵わないとまで思わせた喰人花は、もはや勝利を確信したかのように、塵が覆いかぶさった地面へと残った蔦を突き刺し、ゆっくりとだが、確実にその距離を詰めてくる。それを見るに俺たちをいたぶり殺そうとしているのだろう、魔物の分際で慢心とは舐められたものだな・・・
「 先輩・・でもこのまま進んでどうするんですか?アレをどうやって倒すつもりなんですか? 」
「 ・・・・なぁ、カリン。どうして俺たちはこの塵の上を平然と歩けてると思う? 」
“あの場所”へと到着する、しかしそこには留まらず、まだ歩を進める。
そろそろ頃合いだろう、少しして背後の喰人花に届くように声を張り上げて、言葉を発した。
「 ここはさっきまで、エリカさんが発動した火属性の上級詠唱魔法が滞在していたんだぞ?本来ならこの塵は立っていることができないくらいの熱を発しているはずだ、そもそも多量の血花が燃えたんだ、塵になる前に燃焼しているはずなのに、ここには炎一つさえ上がっていない・・・なぜだと思う? 」
「 ・・・え?それってどういう・・・ 」
俺の言葉を理解したのかフォレストフォークロアの動きがピタリと止まる。それを確認し、ニヤリと笑みを浮かべてみせる。
「 どうやらお前は理解したみたいだなフォレストフォークロア!! 」
叫びをあげると共に、動きを止めていた喰人花が焦っているのだろう、先ほどよりも早く距離を詰めてくる。
そして、俺たちが蔦の攻撃範囲へと入ると同時に残った全ての力が伸びてきた。
「 ・・・予想通りの動きだな、お前が焦って近づいてくると思ってたよ 」
フォレストフォークロアが後一歩距離を詰めようと蔦を前進させ地へと突き刺す。
瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの爆発音と共に、蔦が突き刺さった地面が爆ぜた。
「 いいこと教えてやる・・・ 」
爆発によって発生した炎が、偵察の際に“予め”設置しておいた、突入の際に入手していた火薬を混ぜた魔法式に引火、瞬く間に喰人花を大きく囲う炎の円状陣が完成する、そして・・・
「 『 罠師相手に無用心に近づくなんて、ただの自殺行為 』なんだよ!!さっさと消え去れ、腐れ花!! 『 イラプション・トラップ 』 発動!!! 」
勝利の笑みを浮かべ、喰人花に向かって中指を立て最後の挑発をしてみせる。同時に陣の内部、フォレストフォークロアが立つ地が割れ、そこに宿った業火が解放された。そしてそれは天井と地を繋げる炎の柱であるかのように、鼓膜を激しく刺激する轟音と、俺たちとは距離があるにも関わらず、身体が燃えているのではないかと錯覚してしまう程の高熱を発し、眼前に誕生した。
それは全てを焼き尽くす裁きの炎。
まるで、これまでヤツに命を奪われたモノたちの復讐の炎であるかのように、その火柱はその中で苦しみの咆哮を発している呪われし禍つ花を塵へと還していく。
「 これで終わりだ・・・お前“たち”が奪った人たちの痛みを少しでも知りやがれ 」
「 すっ、凄い 」
轟音をそのままに炎へ浮かぶヤツの姿が薄れてゆく。
その中からは未だ断末魔の咆哮となるであろうものが発せられているが、ヤツはもはやこの罠から脱出することはできない。
時折せめてもの抵抗と、喰人花の蔦が火柱を貫いて現れるが、しかしそれも数秒とたたずに崩壊していく。
「 もういい加減あきらめろよ。何をしようと無駄なあがきだ 」
勝利の笑みをそのままに呟くように言葉を吐く。そんな光景に目を丸めていたカリンは、少しして我に変えると、俺の顔を覗き込むように顔を近づけてきた。そして、今だ現状が理解できていないといったように、言葉を発する。
「 あの・・・アレはなんなんですか?なんで魔法がヤツに効いているんですか?そもそもあんな火力のトラップが存在するんですか?えっと、それから・・・ 」
弱った思考に彼女の綺麗な顔立ちは危険だ。
おもわず、一線を越えて手を出してしまいたいという思考は、今のような状況かつ男であるのなら誰しもが考えてしまうことだろう。
「 ・・とりあえず落ち着けよカリン 」
高鳴っている胸を落ち着かせようと、彼女の肩に手を置き、カリンの体を引き離す。そしてドキドキしている鼓動を誤魔化すように謎によって混乱している彼女へと、この戦いにおける“切り札”の正体を明かした。
「 まず『なんで魔法が効いている』という問いの答えだが、それは簡単な答だ。あの火柱は火属性魔法のような“魔力が炎を模して再現されたもの”ではなく、“本物”の炎だからなんだよ 」
「 本物のって・・・じゃああの火力は? 」
相変わらず混乱しているカリンをそのままに話を続ける。
「 魔法罠の中には、周囲の熱を吸収し、点火物の干渉によって熱を本物の炎に変換、更に吸収した熱を発生した炎に与えることによってその威力を増す『イラプショントラップ』というものがあるんだ。俺はそのトラップを使っただけなんだよ。戦闘を開始する前にこのイラプショントラップと、それを点火するための、衝撃によって爆発する簡易式の地雷を設置していたんだ。後は血花を焼きつくすためにエリカさんに“火力の高い”火属性魔法を発動してもらう。設置していたトラップはその魔法が発する熱と、それによって燃やされたものが発する熱を吸収しつづける。そしてそれを圧縮、後はヤツに爆弾を踏ませればトラップは完成する・・・さて、じゃあそろそろ、セット、フォールトラップ 」
解説に夢中で時間がなくなってきた。
火柱に注意しながらも、防壁の設置をはじめる。
「 ・・・ん?セット、フォールトラップ 」
「 先輩? 」
おかしい・・・防壁が出てこない?
俺の反応にカリンが不安気な顔を浮かべる。
ん?そういえば、俺蔦から脱出した時に結構な量のカード使ったよな・・・あ・・
「 ・・・しまった・・・やっべぇぇぇぇ!!!!トラップカード全部使い尽くしたんだったぁぁぁぁ!!! 」
腰のケースを目の前まで持ってきて、中に一枚だけでもカードが残っていないか祈るかのように確認する。しかし、その中には蔦によって損傷したケースの欠片が少しあるだけで、それ以外にはなにもない。
しまった・・・このままじゃあやばすぎる!!
「 かかっ、カリン。いいい、急いでエリカさんのとこまで行くぞ!! 」
「 へ?どうしたんですか、先輩!!? 」
カリンの腕を強引に取り、慌てて防壁まで進む。
ヤバイヤバイヤバイ!!急いでこの場を離れないと”巻き込まれる”
上手く走ることができないが、それでもなんとかエリカさんが中にいる防壁まで近づく。そして設置した防壁の一つを解除し、その中に入る。
「 ちょっと!!どうしたのよハント 」
「 いいから耳塞いで!! 」
「 先輩どうしたんですか一体!!? 」
急いで耳を塞ぐように指示する。
しかし、俺の言葉に納得していないといった彼女たち。仕方がないので、姿勢をそのままに解説を続けた。
「 魔法吸収能力。それもフォレストフォークロアのような、触れただけで魔力を吸収するタイプの魔物は“三つの皮膚層”を用いて魔力を吸収しているんだよ。第一層皮膚によって対象に微細上の棘を突き刺し、魔力を吸収しやすい状態を作る。その後第二層皮膚によって吸引、そして第三層皮膚を用いて吸い取った魔力を自らに適応した状態へと変換する、これが魔法吸収能力の正体なんだ 」
「 ・・・えっと、それが今の状況とどう関係が・・・ 」
「 第三層皮膚ってのはな、“引火性”なんだよ!!! 」
瞬間、一帯に轟く爆発音と強烈な熱風。
かつて美しくも醜い庭園であったそこは、荒野を経て業火へと沈む。
その光景はまるで、喰人花の生贄とされた者たちを火葬によって弔っているかのようであり、轟々しく、しかしどこか儚さのようなものを感じさせるものであった・・・
「 アレ?・・・そういえば、誰か忘れているような・・・ 」




