第十三章:決闘決裁、激突
闘技場の東西両端に設置された門扉が開き、最初に入場して来たのは西門より現れた騎士であった。
その姿は長身の偉丈夫……全身を鎧う甲冑で覆われながらも、その内に隠された太く頑強な筋骨を窺わせる堂々たる体躯を持ち、やや年若い印象を残しつつも精悍な戦士の風貌を備えた容貌をしていた。
彼の騎士の名は、ジェイナス=ソード……マルセリア王国の誇る傭兵騎士団の若手筆頭の呼び声高き人物である。弱冠にして傭兵騎士団の並の騎士達よりも過大な戦績を残しつつある剣士である。ただ、やや独断専行や猪突猛進の傾向にあることが玉に瑕とも言われているが……
今日の決闘においては、伝家の名刀の一振りを腰に佩き、この一戦の為に取り寄せた『防護』の魔力が付与された楯と甲冑で身を固めている。
西門の騎士に幾分遅れて、東門より一人の人物が入場して来る。
その人物とは、一人の青年……その姿は痩身にして華奢と形容できる体躯であり、先の騎士と比べて何処か儚さすら感じられる印象を与えている。その面差しは女性とも見える幼顔であり、この一戦を前にその顔色を蒼褪めていることが、その印象を強めていた。
この青年の名は、ラティル=ウィフェル……“セオミギア大神殿”所属の神官であり、多少は名の知れた冒険者の一人である。彼の得物たる“魔力銃”は高度な攻撃魔法程ではないにしろ、弓と言った並の飛び道具の比ではない威力を有することは、大陸西域においてかなり有名となっていた。
今日の決闘においては、その右手に彼の代名詞たる得物――“魔力銃”を持ち、左の腰には弾丸を入れたらしき小袋を下げており、その身は“セオミギア大神殿”の属する神官戦士が纏う防具の一つ――もっとも軽装な部類となる革鎧を纏っている。
決闘の当事者たる二人は、競技場両端の門より中央へと歩み寄る。
そんな両者の姿を確認したことで、北側観客席の中央――レイン達がいる貴賓席とは向かい側に当たる場所に立つ本決闘の裁決者たるマルセリア王国の司法官が朗々とした声を張り上げる。この司法官は、決闘の当事者たる両名――ジェイナスとラティル――の紹介や、この決闘における決闘決裁に関する決裁内容と言った事柄を、決闘前の確認として長ったらしい儀典言葉で述べて行く。
これは、この国の裁判としての踏襲するべき儀礼の一つであると言う理由と同時に、実利的な、或いは下世話な理由から、複雑な言い回しを用いた相応の時間をかけて闘技場全体へと響き渡る様に朗々とした声で口上が紡ぎ上げられて行く。
その口上が響いている中、客席では賭札を手にした客達が慌ただしく賭札の売り場へと殺到し、賭札の買い直しや買い増しを行っている。
この裁決者の口上の間が最も賭札売り場が混雑する時間となる。口上の内容は、客席に座る殆どの者が既に知っていることである上に、この口上の終了時が賭札販売の終了時間とする慣例となっていたからだ。
特に、今回は競技場に立つ両者の姿が余りにも違い過ぎる為に、その混雑は何時にもまして大きなものとなっていた。それは、如何に飛び道具を手にしているとは言え、華奢な神官と偉丈夫たる騎士とでは勝負は既に決まったものと多くの人々が感じていた証左であったとも言えるだろう。
最終的に賭率が12:1でジェイナス有利に変化していた。
そんな観客の思惑や騒動を目にしながらも、全く気にした様子も見せず、司法官の口上は普段よりも丁寧に、ゆっくりと述べられて行く。
「…………以上の条件下での決闘により、その裁決とするものである。
なお、この決闘における決裁はこの“傭兵都市”マルセリア及び、“ユロシアの盟約”に連なる西方諸都市国家の名の元に決定されたものと見なし、その裁決の拒否及び再考を求める権利はない物とする…………では、本決闘決裁を開始する!」
その最後の一言を持って、決闘決裁の火蓋は切って落とされた。
* * *
「……では、本決闘決裁を開始する!」
(……とうとう、始まった!)
闘技場全体に響き渡った声が耳に届いたと同時に、“銃使い”の青年は即座に自らの得物――“魔力銃”を構える。
彼の視界には、同じく腰に佩いた剣を引き抜き、抱え上げる様に構えて駆け寄る騎士の姿を捉えた。
先の決裁内容の口上を行う途上、両者の開始位置を指定する通告がなされており、二人は競技場の東西に相応の距離を取った位置に立っていた。
これは白兵の器たる剣と、飛び道具たる“魔力銃”の決闘と言うことを考慮した配置とされたものだ。
迫る重厚な甲冑を纏う騎士に対し、ラティルは深呼吸とともにゆっくりと狙いを定め、初段の引き金を引く。
それは牽制の一発であり、その狙いは兜の面頬であった。
……カン!
弾丸の射出と時を置かずして、金属音が鳴り響く。
それは飛来する弾丸を、駆け寄る騎士が自らの剣で弾いて見せたのだ!
剣を振り切った騎士は、再び剣を構え直しながら、“銃”を構える青年の許への突進を続ける。
……カン!
騎士が再び剣を構え斬る前に、“銃使い”よりの射撃がなされる。
だが、騎士は剣を無理やり斬り返して、弾丸を弾き返す。
しかし、弾丸の威力に押されてか、騎士の勢いが幾分か鈍らされる。
勢いの落ちた騎士の姿を目にした青年は、腰の小袋より弾丸を取り出し、“銃”へと装填しつつ、脱兎の如く自身の後方に向けて駆け出した。
「ッ!……逃がすカァー!」
二発の射撃で歩調が乱れた足を一旦停め、剣を構え直した騎士――ジェイナスは、闘技場全体に響き渡らんばかりの怒声を張り上げ、“銃使い”――ラティルに向けて駆け出した。
その姿は、さながら“鋼色の旋風”の如き剣呑なものと化していた。
……カン!
だが、その“鋼色の旋風”は、再度銃弾によってその勢いを鈍らされる。
されどこの時、両者の間に横たわる距離はおよそ三歩……
既に白兵の距離に詰めた騎士より、底冷えする様な殺気の籠った声が漏れる。
「……観念しろ……!」
次の瞬間、彼――ジェイナスの得意とする怒涛の斬撃が開始される。




