カラス達の関係
『引っ掻いた猫』で予告したデート回です。
夏らしい白雲が青い空を泳いでいく。
週末の予定を彼女に言われた通りに空けて迎えた今日、僕は学校の正門前で彼女を待っていた。
「早いのね」
約束の十時を前に彼女はやって来た。
夏らしいラフな格好をしているが男物なのは何故なのか。
がっかりしている僕に首を傾げて愛らしく微笑みを向ける彼女。絶対に確信犯だ。
指摘してもいじられるだけだと思い本日の予定を訊く。
「本屋で参考書を買った後、お昼を食べて映画を見て解散」
彼女が歩き出すので僕は隣に並ぶ。
手を繋いだりとか……ないか。
参考書を買って少し散歩した僕らは昼食をちょうど通りがかったそば屋でとることにした。
今日は彼女の好意を疑ったお詫びなので奢ろうと申し出た僕に彼女は首を横に振った。
「割り勘でいいわ」
「遠慮しなくてもいいよ」
彼女がいいと言うからには奢らなくとも今日はお詫びとして成立しているのだろうけど初デートで割り勘というのは甲斐性がない。彼女がデートと認識してない点は無視する。これはプライドとか今後の関係発展を見据えた問題なのだ。
彼女は落ち着いた仕草でお冷やに口をつけて何事か考えていたがふと窓に目をやって話し出す。
「狐が釣りをし−−」
「ちょっと待った!」
慌てて遮る。だってそうだろう? 彼女に語らせたら言いくるめられるに決まっている。
僕が彼女に奢って関係発展を成し遂げるには彼女の語りは高すぎるハードルだ。今回は奢る事を一度断られているのだから尚更。
全く何だって蕎麦を奢るだけで腹の探り合いをしなければならないのか。
奢るための洒落た方便を考える僕を見つめる彼女。どこか期待を含んだ視線は早くしないといたずらするぞと、語っている。
「前に君が話してたカラスだけど、きっと露天を開いていたわけじゃないよ」
僕は切り出す。
彼女は薄桃色の唇で笑みを形作ると無言で先を促してくれた。
「カラスは光り物を集めて他のカラスに渡していただけで、餌を受け取っていたのはそれがお礼だったからじゃないかな」
この解釈ならカラス達の関係は好意で成り立っていることになる。カラスが僕達なら蕎麦を奢るのは彼女が勉強を見てくれるお礼だ。
勿論、彼女も方便だと分かっているだろう。でも純粋な好意だと言われてしまえば下手に断るのは無粋、故に彼女はそれをしない。
そんな下心を内包した『純粋な好意』を彼女は割と気に入ってくれたらしい。
「そう言うことなら有り難く奢ってもらうわ」
彼女は堪えきれない様子でクスクス笑っていた。