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第1話 待ち望んだ婚約破棄

「エリアナ・エヴァーハルト! 貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」


華やかな王宮の夜会。

シャンデリアの光が眩しい大広間で、私の婚約者である第一王子は、高らかにそう宣言した。


彼の隣には、私の異母妹であるリリアが寄り添い、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

周囲の貴族たちから、いっせいに冷笑とひそひそ話が突き刺さる。


(――よっしゃあぁぁぁぁぁ!!! 婚約破棄キターーーー!!!)


私はドレスの裾を握りしめ、下を向いた。

悲しみに震えているのではない。

歓喜で口角が跳ね上がりそうなのを、必死で堪えているのだ。


だってそうだろう。

この王子、顔だけはいいが中身は超絶ワガママなマザコン男である。

おまけに実家のエヴァーハルト伯爵家は、私にだけ毎日休みなくお城の浄化作業を押し付けるブラック家庭。


「お前には聖女の力が目覚めなかった。我が国に必要なのは、真の聖女であるリリアだ。無能な偽物は、今すぐこの国から出ていくがいい!」


(いや、リリアのそれ、私が事前に浄化しておいた魔力を『自分の力です』って横取りして見せてるだけなんだけどね? 気づかない王子、マジで節穴すぎるでしょ!)


私は震える膝をグッとこらえ、背筋をピンと伸ばした。

顔は悲劇のヒロイン、心はガッツポーズ。これがお嬢様の嗜みだ。

私は王太子をまっすぐに見据え、凛とした声で返した。


「……承知いたしました、殿下。私を無能と切り捨てたこと、どうか後悔なさいませんよう」


「ふん、負け惜しみか! 連れて行け!」


私はドレスの裾を翻し、自らの足で堂々と夜会会場を後にした。

さようならブラック実家! さようならマザコン王子! 私は今日から自由の身だ!


◇


……と、喜んだのも束の間。


強制的に馬車に押し込められ、捨てられたのは、隣国との国境にある「呪われた荒野」だった。

魔力が枯れ果て、植物は枯れ、魔物が徘徊するという絶望の土地。

夜の冷たい雨が、私の薄いドレスを容赦なく濡らす。


「いくらなんでも、捨てる場所の治安が悪すぎない……?」


張り詰めていた糸が切れ、私はその場に崩れ落ちた。

さすがに寒さと理不尽さで、目から涙が溢れて止まらない。

私が流した大粒の涙が、乾いた地面にぽつりと染み込んでいく。


その、瞬間だった。


ゴォオオオオ……!


大気が、激しく震えた。

私の体から、今まで感じたこともないような、圧倒的な黄金の魔力が溢れ出したのだ。


「え……? なに、これ……」


私が涙を落とした地面から、瞬く間に青々とした若草が芽吹き、枯れ木には美しい花が咲き乱れていく。

それだけではない。

一帯を包んでいた禍々しい瘴気が、私の魔力によって一瞬で消し去られていく。


実は、私の魔力は強大すぎるがゆえに、教会の鑑定水晶をすべて内部から過負荷でバグらせてしまい、「魔力ゼロ」と誤認されていただけだったのだ。

本物の、それも世界を覆すレベルの聖女の力に目覚め、呆然と立ち尽くす私。


その時、暗闇を切り裂くように、一台の立派な馬車が近づいてきた。

馬車に刻まれているのは、漆黒の竜の紋章。

この地を治める、冷酷無慈悲と恐れられる辺境伯、ギルバート公爵の紋章だ。


馬車の扉が開き、一人の男性が降り立つ。

夜の闇に映える銀髪に、冷徹だが吸い込まれそうなほど美しい、深い氷色の瞳。


(噂の、氷の公爵様……! って、待って、なんか黒いモヤモヤが凄まじいんだけど!?)


彼は、あまりにも強すぎる魔力のせいで、近づく人間を恐怖で気絶させてしまう「呪い」を宿していた。

彼の周囲の空間が、バリバリと空間ごと軋んでいる。


普通の人なら気絶するレベルのプレッシャー。

しかし、神級の聖女である私にとっては……。


(……あれ? なんかちょっと涼しいエアコンの風みたいで、むしろ気持ちいいな?)


私がケロッとした顔で見つめていると、公爵様は驚いたように目を見開いた。

そして、私の前に静かに跪くと、泥に汚れた私の手をそっと取り、見たこともないほど愛おしそうな眼差しで私を見上げた。


「……信じられない。私の魔力に当てられて倒れない人間など、君が初めてだ。それに、この呪われた地を一瞬で浄化するほどの聖なる魔力……。君が、私の救世主なのか」


「え……?」


「こんな場所に、美しい令嬢を一人で置いておくわけにはいかない。私の城へおいで、私の大切な救世主。……いや、もう絶対に離さない」


彼は自分の暖かい上着を私の肩にかけ、まるでお姫様を扱うように優しく、そして壊れ物を扱うようにきつく私を抱き上げた。


「ええっ!?」


読んでいただきありがとうございます!

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次回もお楽しみに!

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