涙痕。そして悲恋
恋は終わる。
けれど、好きだった気持ちは簡単には終わらない。
涙が乾いても、頬には跡が残る。
心にも、跡が残る。
その跡を、人は涙痕というのかもしれない。
放課後。
夕焼けに染まる川沿いの遊歩道。
一人の女子生徒がベンチに座り、俯いていた。
制服の袖は涙で濡れ、肩が小さく震えている。
聖は何も言わず、少し距離を空けて隣に腰を下ろした。
静かな時間が流れる。
やがて、彼女がぽつりと口を開いた。
女子「……振られちゃった。」
聖は驚かなかった。
理由も聞かなかった。
今は慰める言葉より、話を聞いてくれる相手が必要だと分かっていた。
聖「いっぱい泣いたね。」
女子「うん……。」
聖「好きだった?」
女子「大好きだった。」
女子「結婚だって考えてたし、ずっと一緒にいられるって信じてた。」
女子「なのに……全部終わっちゃった。」
夕焼けの風が二人の間を吹き抜ける。
聖「悲恋って知ってる?」
女子「叶わなかった恋……でしょ。」
聖「そう。」
聖「でも、悲恋って恋の結末の名前であって、君の人生の名前じゃない。」
女子は涙で潤んだ瞳を聖へ向けた。
女子「でも、こんなに苦しいよ……。」
聖「苦しくて当たり前。」
聖「それだけ本気で好きだった証拠だから。」
女子「私、もう誰も好きになれないかもしれない。」
聖「そんなことないよ。」
聖「本気で人を好きになれた人は、また誰かを本気で好きになれる。」
女子は小さく首を振った。
女子「この涙、いつか消えるのかな。」
聖「涙は乾く。」
聖「でも、涙痕は残る。」
女子「傷ってこと?」
聖「違う。」
聖「誰かを心から愛した証。」
聖「無理に消さなくていい跡なんだ。」
女子はそっと目元に触れる。
そこにはまだ、涙の温もりが残っていた。
女子「私……幸せになれるかな。」
聖は迷うことなく頷いた。
聖「なれる。」
女子「どうして、そんなに言い切れるの?」
聖「君が今、『幸せになりたい』って思えたから。」
聖「悲恋は過去の名前。」
聖「幸せは未来の名前。」
聖「だから、未来まで悲恋にする必要はない。」
女子は涙を拭いながら、小さく笑った。
女子「ありがとう。」
聖「今日は泣いていい。」
聖「でも、いつかこの涙痕を見て、『あの恋があったから今の私がいる』って笑える日が来る。」
夕日が沈み、空はゆっくりと夜へ変わっていく。
悲恋は終わった。
けれど、人生は終わらない。
頬に残る涙痕は、失恋の傷ではない。
誰かを本気で愛した証であり、もう一度幸せになりたいと願えた、一人の少女の証だった。




