レーヌ・サンドリア
「このデータAの解析結果がデルタだから、
データBはオメガの数値を入力して、っと…」
白衣に身を包み、オレンジ色の髪を後ろで束ね、大きめの丸メガネを掛けたその女性は
赤や青といったカラフルな培養液で満たされた、数本の円筒の巨大な試験管の前で
メモ帳に必死にボールペンを走らせながら、そうブツブツとつぶやいていた。
その矢先、突如部屋の後ろのドアがノックも無しにガタンと開けられると
「おい・・・!いつになったら成果が出るんだ。」
と、強めの声が聞こえてくる。
女性はさっと振り返るとすぐに深くお辞儀をして恐縮した。
「これはこれは、シモン卿、本日もお日柄よく・・・」
シモン卿と呼ばれたその男は
「口上は良い。お前の研究に莫大な資金を費やして、もうどれだけ経つと思っているんだ。
そろそろ株式の新規公開も始まろうとしているんだ。
成果が出せないなら、いい加減資金は全て引き上げさせてもらうぞ。レーヌ・サンドリア」
怒気を含んだ声でそうまくしたてた。
「も、もう少しお待ちください。
なにぶん材料が揃わないことには・・・。
今回のプロジェクトは、調合材料を組み合わせ化学反応させて、無害なモンスターを生み出し、
魔石を採取するという遠大なプロジェクト。
材料が肝で、サラマンダーの尻尾がどうしても必須ということが分かりまして…」
「それがあれば何らかの成果は出せるんだろうな?
金主の1人に相談してみるが、引き延ばしの為の方便であったら今度こそ容赦はせんぞ…」
シモン卿はそう言い残すと、時計に時間を見遣り、次の予定があるのかそそくさと部屋を後にしていった。
残されたレーヌと呼ばれた女はシモン卿が立ち去ったのを確認すると
ふうっ、と胸を撫で下ろした。
「調合材料をいくら組み合わせようが、無機物から有機物であるモンスターを造成なんて
出来るわけないじゃない。素人の無知さには全く困ったものね。
まあ、好きな研究が出来てお給料さえ貰えて、引き延ばせるだけ引き延ばせれば私は満足だけど。
サラマンダーの尻尾はSSレアの素材、そう簡単に見つかるわけないし、また時間を稼ぐことが出来るわね。」
そう独り言つと、小さく舌を出した…




