19.(走る誠也)
俺は地面へと残されたグリーンドラゴンの深紅色の魔石をさっと抱えると、
来た道へと小走りで駆け出していく。
…
「ぜぇっ、はぁっ…」
俺は必死に走り続けた。フォルク山からセルヌ街まではかなりの距離がある。
途中でこぼこの道や畦道、舗装されていない道に妨害されて速度が落ちる。
何よりさっきの戦闘で体力を使い切ってしまった為、走るのもかなりの負担が掛かった。
「クソっ、まだか…」
…
長らく走り続け、途中でへばってとぼとぼ歩くを繰り返す。
朝日が昇ろうとするのが、遠目の景色に見えてきた。
辺りは徐々に明るくなろうとしている。
「チッ、まずいなもうそんな時分か…こんなことならあの時ミリシャに全部渡さずに回復薬を少し残しときゃ良かったぜ。」
俺はそうこぼしながら、何とか最後の体力を振り絞って、駆け足で急いでいった。
「ハァッ、ハァッ・・・まるで身代わりになったセリヌンティウスを助けに走るメロスにでもなった気分だ。」
狂ったように走る中、そんなとりとめもない思考が湧いてくる。
もう流石に限界が近づいてきた時分、セルヌの街の入り口が、視界の端の方へと目に入ってくる。
「やった・・・。ギリギリだが、何とか間に合いそうだ。」
すっかり日は昇っており、早朝の清涼な空気が辺りに漂っている。
街の入り口に辿り着くと、急ぎ足で魔石取引所へと向かう。
魔石取引所の壁に備え付けられた時計は、6時50分の時刻を刻んでいる。
…本当に間一髪だったが、何とかぎりぎりで間に合った。
俺は深い安堵を覚えつつ、息も絶え絶えに取引所の受付の事務員へと抱えていたグリーンドラゴンの魔石をさっと差し出した…