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195 卒業式 ①

「おはようございまーす!」


 元気な優奈の声で母が目覚める。


「ん…あ、おはよう」

「そろそろ起きましょ!お父さんも~」


「…ん~…」


カーテンをシャッと開けて光を取り入れる。

今日は快晴のようだ。


「パンとご飯どっちがいいですか?」


「そんな…あたしがやりますよ」

「お母さんはゆっくり準備してください。ほらお父さん!起きますよ!」


「…ん~…」


遠慮なく父の布団を引き剝がす。


よほど楽しかったのか少々飲み過ぎた父も、優奈に叩き起こされて渋々起き上がった。

そしてそのまま扉を開けて隣の部屋へ入ると寝室へ行き


「起きろぉぉ!!」


いつものように布団の上へダイブして勝也も叩き起こす。



 今日はいよいよ卒業式。


その当日を以前と同じように勝也を起こすところから一緒にいられる嬉しさが優奈のテンションを上げている。


「俺は何にもいらないや…」


二日酔い気味の父だが


「じゃあお味噌汁だけでも飲んでください、お腹に何か入れとかないと」


早速朝ごはんを作り始める優奈。

みんな起きだしてきてリビングに座ると


「ねぇ、ひょっとして優奈ちゃん毎日こうやってアンタ起こしてご飯食べさせて…」


「ん?あぁ仕事始めるまではずっとそうだったな」


「ホントにこの人は…」


今までずっと勝也の面倒を見て来てくれた優奈に朝からジワッと涙ぐむ母だった。


見るともう既に化粧も終え、あとは着替えるだけという所まで準備を済ませている。


「優奈ちゃん、あなた何時に起きたの?」


「あたしもついさっきですよ」


そんなはずないと言う事はみんなわかっていた。

寝ぼけ眼だった父も母と同じことを考えているような視線だった。


「優奈~、玉子焼いて〜」

「はいはい」


この期に及んでまだ違うものをリクエストするわがままっぷりも健在な勝也。

だがイヤな顔一つせずそれを受け入れる優奈の献身ぶりは両親の想像を超えていた。


「昨日はすごくお世話になっちゃって…お父さん大丈夫だった?」

「さっき叩き起こしてきました。這いつくばって起きてきましたけど」


「お父さんが調子に乗ってあんなにお酒勧めるから…」


「…すまん…」


今日は両家族合計6人で車での登校だ。

本来ならありえない話だが勝也と優奈に限っては登校途中に騒ぎが起こる可能性もあるため学校側からの提案で特別に車で校内まで乗り入れて来て欲しいという事になったのだ。


「大丈夫かよ、オヤジもお父さんもこんなんじゃ運転ムリじゃねぇの?さすがに俺が運転して行くわけにもいかないし…」


「大丈夫だ、それまでには復活する」

「ホントかよ…」


優奈が作った味噌汁をすすりながら、目を覚まそうと必死な父だった。


3人が朝ごはんを食べている間に両親が寝ていた布団を上げ、勝也の寝室を片付けて制服の用意までしてから


「洗い物は置いといてくださいね。じゃあ一旦帰りまーす!」


嵐のように去っていった優奈を見送りながら


「お前はここにいる間、優奈ちゃんに育ててもらったみたいなもんだな」


「は?」



準備を終えて一旦安東家に集合する。

ソファでうなだれていた優奈の父も勝也の両親が到着した途端シャキッと起き上がったものの


「おはようございます…昨日は少々飲み過ぎました」


と言う言葉を聞いて


「実は私も…ギリギリです」


2人で苦笑いのスタートだった。


 優奈の母を少しだけ待ってから6人で勝也の車に乗り込む。

なんとか復活した父の運転でいよいよ学校へ向かった。


本当は最後にもう一度だけ勝也と2人で歩いて登校したいという願望を持っていた優奈。全員に止められて仕方なく車に乗り込んだのだが


「みんなで車に乗るの初めて!このままどっか行きたぁい」

「ホントだ、なんか旅行でも行くみたいだね」


「それいい!一度みんなで温泉でも行きましょうよ!」

「あー!行きたぁい!」


女性軍が盛り上がり始めると


「全員の休みを合わせるなんてそれこそ奇跡でも起きないと…」

「そうだよ、しかもお前が一番休み無いクセに」


「だってぇ…そこは何とかするもん!」


「ウチはいつでも休めるぞ。自営業の特権ってヤツだ」


滅多な事では臨時休業などしない父の発言にはさすがに周りも驚いた。

ここ最近でも勝也と優奈が同棲したいと言い出した時と優奈の両親が初めて店を訪れた日の2回だけ。

この父の発言によって2家族での旅行計画が現実味を帯びてきた。


学校からの要望でこの車での登校は本来の集合時間よりもかなり早めに設定されている。

まだ誰もいない学校へスムーズに入っていくと、迎えに出てきた担任に連れられてしばし会議室のような所で待たされることになった。

この学校始まって以来の有名人の両親とあって校長や教頭を始め多くの教師たちが入れ替わり挨拶に訪れる。

そしてそのラッシュがようやく一段落すると勝也の両親が感慨深げに


「入学式以来だね、この学校に来るの」

「ホントに顔出せなかったもんな」


「そうだ、ご両親に学校の中でも案内してみたら?」

「今日で最後なのに?」


「だからじゃないの、もうここに来る機会も無いだろうから」


優奈の母の提案でまだ静まり返った校内を散策する事に。

職員室にそれを報告して許可をもらうと6人でブラブラ歩き始める。


よく集まっていたランチルームや購買、勝也が靭帯を切った階段や運び込まれた保健室。

そして最後に教室へ。


「ここが俺でこっちが優奈の席だよ」


「お前ら、席まで隣同士だったのか?!」

「そうだよ?言わなかったっけ」


「ホンットにアンタはなんにも言わないコだねぇ」


「優奈なんて席が決まったその日に全部教えてくれたわよ」


「だって2年の時はクラス別れちゃってたから同じクラスでしかも隣なんて嬉しすぎたんだもん」


「この2人の温度差が見てて面白いんだよなぁ」


そんな話で盛り上がっていると、徐々に校内が騒がしくなってくる。

そろそろ生徒が登校し始める時間だ。


自由な校風が最大の魅力であるこの高校、その卒業式ともなると女子は驚くほど奇抜な風貌で、男子に至ってはド派手な羽織袴を身に纏ってくる者もいる。

そのあまりの派手さに少し面食らっている両方の母達。


「アンタ…こんな中でよくイジめられたりしなかったねぇ」


「凄い派手ですね…」


すでに大声で盛り上がったり写真撮影で騒いだりしている派手組。

それを遠巻きに見ていたところ


「あー!優奈が来てるぅぅ!!」


その一言で皆の視線がこちらに向くと一気に人だかりが出来てしまった。

これほど派手な面々が優奈を見つけただけで集まってくるというのも優奈の人気ぶりを表しているのだが


「うるせぇなお前ら。ウチの親は田舎から出てきてんだからお前らみたいのが騒いでたらビックリすんじゃねぇかよ」


たった一言で騒ぎは収まり、しかも勝也の両親だと聞いた途端に


『初めましてぇっ!』


この風貌からは考えられない程丁寧に頭を下げて挨拶する派手者たち。


そしてその後ろから、おそらく今日の卒業生の中でも一番ド派手に仕上げてきただろう目の覚めるような真っ赤の羽織袴に身を包み、金髪頭になった男が一番前までグイグイと他の生徒を押しのけるように出てきて


「はじめまして!勝也君と仲良くさせてもらってます、岡島康太ですっ!」


鼓膜に響くほどの大声で挨拶する。

それを聞いて


「声がうるせえっつってんだろうがぁ!!」


と、回し蹴りを食らう康太。


そこで大爆笑になるが、地元を飛び出して1人で生活しずっと心配のタネだった息子がこんなにたくさんの仲間に囲まれていた事を目の当たりにして、母の涙腺は脆くなり始めていた。


みさ達3人も卒業式仕様のファッションで登校し、勇太や洋司、了もいつもより装飾が多い。

普段通りの制服なのは勝也と優奈、岳に芽衣に蘭だけだったが、それでもいつもの面々が揃うと初めて会った勝也の両親にそれはそれは丁寧な挨拶をする。


文化祭で対面を済ませていた優奈の両親にも同じように挨拶をしていく仲間たちを見て、両親達もこの2人は人を惹きつける何かを持っているのだと実感した。


ここからは別行動となり両親達は講堂へ、勝也と優奈は教室へ向かう。


両親達は間隔をあけながらも前後2列に並んで座り、しばらく待っていたところ進行役の教師からの挨拶と式次第の説明があった。


それから在校生が入場して席に着き、後は卒業生を待つのみとなる。


そして少しした頃


「卒業生、入場!」


いよいよ高校生活最後のイベントが幕を開けた。


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