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FAMILIAR SIGHT ~三下シーフ、翔んでみせろ~  作者: のうき
■迷いの森(人災)と、神の僕(しもべ)■
20/33

はちあわせのメッカ

「山中で、手つかずの遺跡が見つかったらしい。お前ら、調べてきてくれないか?」



 ギルドの世話役に言われて、セスとカタールは該当の場所に行くことになった。2人が組み始めた頃のことである。

 それは確かに言われた場所にあった。森の道からは外れているものの、特に隠れている様子もなく明らかに人工物である石壁や柱、そして石窟の入り口が見えている。


「よくこんなの、今まで見つからずにいたなあ」


 しかし、実際に足を踏み入れてみると酷い有様だった。


 石を積み重ねて作られた廊下の向こうに見えている扉は開いている。

 明らかに最近つけられた足跡がベタベタ残っている。

 最近使われたと思しき松明の燃えカスが残っている。


「全然手つかずじゃねーじゃん! 世話役のヤロー、残飯あさりに寄越しやがったな~!」


 今思えば、カタールとのコンビを試すための依頼に見せかけた案件だったのかもしれないし、本当に単純な残飯あさり――発掘されつくした遺跡の、隠し通路などを再確認して残った遺物を浚ってくる案件だったのかもしれない。


 憤慨しているセスの肩を、カタールが軽く叩いた。


「どうした?」

「ここ」


 カタールが指さした石壁の間に、わずかな隙間があった。


「お、ここ動きそうだ。さっすが相棒、目ざといな!」


 少し押してみる。大した力は入れていないのに、大きな壁石はスルスルと動き、はずみでセスもその石とともに壁の向こうに吸い込まれた。


「セス!」

「だ、大丈夫、生きてる生きてる」


 致死性の罠でなくてよかった。とセスは自分がいる場所を見渡した。3メートル×3メートルくらいの小さな部屋だったが、うすぼんやりと明るい。その光源は、部屋の中央に置かれている小さなモニュメントから発せられていた。

 それは白い石のようなものでできている、直径10センチ、高さは30センチほどの円柱だった。円柱の上部は、複雑な形にくりぬかれている。


 中に入ってきたカタールが何かを感じたように、躊躇なく円柱に触れた。

「お、おい、迂闊に触るなよ、危ないぞ!」


 台座から動かないか、持ち上げようとしたカタールだが、その円柱はビクともしない。


「それ、何だかわかるのか?」

「――いや」

「んじゃ、ちょっと俺にも見せてみろよ!」


 と、セスもその円柱に手を触れ――

 その瞬間、セスの顔に衝撃が走り、視界の端に飛び散った血が見えた。



***



 あー、そうだそうだ。あん時だ。思い出したぞ……。 

 結局ケガしただけで、何も残ってやしなかったんだよな。カタールも“光”などうとか変なこと言い出すし。何つってたかなあ……。


 って、この辺って確か。




 朝になり、簡単な朝食を済ませた後、2人を先導してセスは歩きだした。

「ますます行き先がわかんなくなるー」

「安心しろ、どうせ迷うだけだ」

「ひどい」

「ひどいのはお前の方向感覚だ。俺は優秀なマッパーなんだからな!」


 小道を外れ、草をかき分けて進むと、あった。あの時の遺跡だ。

「遺跡、なのか?」

 珍しそうにランスが見回す。

「おう、多分エルフの作ったやつだ」


 中に入ると、相変わらず人が来た痕跡がある。ここは、隠す気なんかこれっぽっちも感じられない。

 隠されているように見えた石のトラップも、少し注意すればすぐわかるようになっている。何度も開いている筈なのに、それを感じさせない。期待だけ持たせているようだ。


 石を動かし、セスが中に入る。シャムとランスもあとに続いた。


「何これ」

「触んなよ。こんなんなるぜ」

「困るわあ、それ」


 顔の傷を指さしながらセスが釘を刺した。でも、お前らはならない気がするんだけどな。


「で、これ(プレート)貸せって? 何に使うの?」

「パターンとしては、この台座にプレートをはめる穴があったりするんだよな。で、これをはめ込むと…」


 台座をぐるりと確認してみる。古い文字で何か書いてあるようだが、ここに読める者はいない。




「遺跡ごと天空の城にひとっ飛び! とかな」




「セス……言っちゃなんだが」

「アンタの馴染みの吟遊詩人は独創性がなさすぎるわ……」



 ドン!

 突然、部屋の中に大きな音が響いた。ハッとした3人が振り向くと、壁石と一緒に大柄な男が落ちてきた。さっき動かしたはずの壁石だ。いつの間にか、元の場所に戻っていた。


 武器を構えそうになる3人に、男は危機感のない調子で言った。


「あ、先客さんですか?」





 男は旅商人のモレノと名乗った。やたら人のよさそうな男だ。

「いやー、いっぱい人がいるんでビックリしました! 僕、ここで待ち合わせの約束してるんですけど、他に誰かいませんでした?

「待ち合わせ? こんなところで?」


 もの好きにも程があるだろう、と呆れたセスの顔をモレノは指さす。

「あ! その傷! あなたも騙されたんですね!?」

 ()()()()。そう言われてみると、モレノも鼻のところに横一直線の傷がある。


「ここが発見されてから、すごいお宝があるって噂が流れましたもんねえ。でも来てみたらケガしただけで、他になーんにもなかったですもんね!」

「そうだな。でも、なんでまたここに?」

「え、聞いてないですか? この傷、医者でも神殿でも治せないって言われるじゃないですか。それがもう一度、そいつに触ると治るっていうんですよね」


 白い円柱を見ながらモレノは言う。


「またガセじゃねえの?」

「いや実際、商人仲間でも治ったやつがいましてね、それで仕事の相方と一緒に来ようって誘ったんですよ。でも生憎そいつ、商隊に参加する予定があって、でも目的地がここに近くてですね、じゃあ遺跡で落ち合おうってことになったんですよ」


 ダメだ。エルフの遺跡が突然、カップルの待ち合わせ場所みたいな扱いになってる。

 とても天空の城に行ける気配はない。


「来てないですかねえ? 僕くらいの歳の痩せた男で、ここんところにこう傷があって」

 右目の場所を縦に指でなぞる。右目の傷……それって、確か。



「もしかして、ランスとあの丸いのが助けた男じゃないか?」



「特徴も行動も一致してるし、まだドリカの村にいると思うから行ってみたら?」

「よかったら村までの地図書いてやるよ」

「そうだったんだー……でも、皆さん彼の恩人ですね。僕からもお礼を言わせてもらいます。ありがとうございます!」

 お礼の態度がそっくりだ。おそらく間違いはないだろう。


「じゃあ僕、一足先にこれを試してみますよ! こ、今度こそウソじゃありませんように……」

 恐る恐る、モレノは円柱に手を触れる。一瞬光が濃くなり、顔を上げたモレノの傷は、綺麗になくなっていた。


「ど、どうです?」

「何もなかったみたいに治ってる。こんなことあるんだな」

「じゃ、次はアンタね!」

と、シャムがセスの背を押した。勢い余ってよろけたセスの手から、プレートがこぼれ落ちてカラン、と床に転がる。


「お前、乱暴だなあ……」

「ああっ、それ! もしかして相方から預かったんですか?」

「へ?」


 思いもよらないことを言われて固まったセスに、モレノは

「あれっ、違いました? じゃあ同じものが流行ってんのかな。僕、それを以前に古道具屋で見つけましてね、相方が気に入って持ってたんです」



 “持ち出せなかった荷物の中に大事にしてるものがあったんですよね”

 “不思議とあきらめがついたというか、変な感じなんですよね”



 一気に場の空気が冷えた気がした。

長さなどの単位は現地のものではなく、現代日本のものに訳してございます。

その他俗語も意訳してございます。

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