第17話 病だって治せます
皆食べ終わり、各自のんびりと一服しているお昼頃。
帰ればいいのに、とは言わないでおいた。
皿洗いも済ませ、とうとう本当にやることが無くなってしまった俺はまんぷく〜と座っているレイにこっそり話しかけた。
「レイのお母さんってそんなに体調悪いのか?」
「...うん、どのお医者さんに見せても自分じゃ手に負えないって言うんだ。薬は高いけどちょっとは聞くからおじいちゃんにヒールを掛けてもらいながら薬飲んでなんとか病状を和らげてるの。」
悲しげに言うレイはとても、可哀想に見えた。
「俺はさ、母さんを失ったんだ。でも、レイのお母さんは生きてるんだよな。
俺も力になりたいんだ。俺、少しならヒールみたいな魔法使えるから、掛けに行っちゃだめか、?」
えっ、と言葉を失うレイに俺は微かに微笑んでみせた。
5年前に使った、スキル【慈愛】。
あれは、俺が使える魔法とは違ってスキルという強力な力だ。
少しは力になれるかもしれない。
ただ、大切なお母さんにそこまで仲良くない俺が会いに行くのは迷惑の何物でもない。
これで断られたら薬草や魔物を買って薬を調合しようかと考えていた。
それすら断られたらお手上げだが。
「フォードさん、ヒールもつかえるの、?!そういえばさっきも強いって言ってたし、もしかしてお母さん治!?」
「い、いや、治るとまでは断言できないが...」
「行こう!!!!!」
善は急げと腕を引っ張られ今にも走り出しそうなレイを俺は必死に止める羽目になった。
「待て待て待て!!!
屋台を片さなきゃならないし、レイ、お前はギルドへ報酬を貰いに行かなきゃ駄目だろう!?」
そう叫ぶようにいえばレイはようやく手を離してくれた。子供といえどなんつー馬鹿力だ...。
「そ、そうだった。」
「ふぅ...。俺も明日の給料をギルドへ渡さなきゃならないし、一緒に行くぞ。その後商業ギルドへ屋台を返してからレイの家へ連れて行ってくれ。たしか今日レイが走ってここに来た方角は商業ギルドの方だったよな?」
詳しく聞けば商業ギルドのさらにその先に家があるとの事だったので、商業ギルドへ寄ってもなんら面倒ではないと教えてくれた。
「よし、ってな訳でみんな今日は解散だ。《終わらない夢》のみんな、賄いを出していたとはいえここ数日間色々ありがとう。冒険者たちは続けて依頼を受けてくれるやつは手を挙げてくれ。もちろん強制じゃない」
ばっと全員が手を挙げたのを確認して俺も明日の分の給料をギルドへ預けることとする。
おいなんでミャオさんまで手を上げているんだ
と思ったらハルロさんに掴まれて手を下ろされていた。
「にゅにゃ!!うちも!!!賄い!!!」
「お前は一応冒険者だろ!!!」
漫才みたいでちょっとおもしろい。
◇
「ここが我が家です!」
あれから別れたり、ワイワイ皆でギルドへ行ったりとしつつ、俺とレイはそこそこに用を済ませたらその輪から抜け、商業ギルドへと屋台を返してから今、レイの家の前にいる。
その家は正直古そうな家ではあったが、手入れはされているようで今にも崩れそうな程ではない。
「お母さん、ただいまぁ、!今日はね、ヒールを掛けてくれる知りあいができて、来てもらったんだ。」
玄関を開けてそうレイが声をかけると奥でごそごそと動く気配を感じる。
「お邪魔します」
中へと足を踏み入れると奥には布団で寝ている女性……おそらく、というかほぼ確実にレイのお母さんがこちらを見ていたが起き上がることは無理だった様で青白い顔をこちらに向けていた。
「あら、レイのお友達...?ごめんなさいね、こんな、姿で...」
声は小さく弱々しい。
生きる希望さえ瞳には見つけられず俺は無礼を承知で早々にレイのお母さんへと近付く。
「俺はフォードっていいます。俺は医者ではありません。なのでどこまで病に効くのか分かりませんが、ヒール、を掛けさせて欲しいです。許して貰えますか?」
「ありがとう...、でも王都のお医者様にまで無理だと言われてしまったの...、もう、治ることは無いと、言われてしまって...」
「それは、あの太った医者が言ったことだよ!お母さんはまだ生きる!生きれるよ!!だからそんなこと、言わないで、!」
すかさずレイが会話に割り込むが、その言葉は自分に言い聞かせているようにしか聞こえず、彼もまた最悪の結末を描いて止まないのだろう。
「今の体調が少しだけ良くなればいいな、程度に思ってください。どうか、許可を」
そういえばレイのお母さんは困ったように眉を寄せて、その後ゆっくり頷いてくれた。
子供のワガママに付き合った気分なのだろう。実際間違っていないからなんとも言えない。
「では、失礼します...。【慈愛】」
手を翳し、スキル名を呼べばレイのお母さんは優しい緑の光に包まれる。
10秒ほど光ると次第に光は落ち着き、レイのお母さんの肌色が徐々に戻っていく。
「どう、お母さん、少しは気分が良くなったりしてない?!」
レイがそう呼びかけるとレイのお母さんはきょとんと、レイにそっくりな顔をしながら、一言。
「私、どこも、苦しくない。痛くも、無くなった。」
そこからはレイが大泣きして、レイのお母さんまで泣いて、2人で抱きしめあって、なんというか、俺が場違いに感じてならなかった。
帰ろうものにも声をかけれる雰囲気ですらない。
あぁ、明日の仕込みもまだ残ってるのになぁと気が遠くなりかけた頃、ドンッと衝撃が走りハッとする。
何が起きたと思えばレイが俺に抱きついてきたようだ。
「ふぉ、どさ!か、さん、なおっ、た、なおった、て!!!!! 」
「うわ、ちょ、落ち着け、まだ治ったとは限らないだろ、今は少し気分が良くなってるだけとかかもしれないし!」
「フォードさん、私、こんなに体が軽く感じたのは初めて。今なら空も飛べちゃいそう。今まで私の中にいた重い黒いものが全てなくなったって、私、分かるの、私、治ってる!」
かたやぎゅうぎゅう抱きついてくる幼子。
かたや泣きながらも笑顔で足をばたつかせている母親。
もうなんか、カオスだ。
「あ、あの、仮に治ったとして、筋肉は落ちたままなのでは?暫く寝たきりなら尚更。今はとにかく安静にして、栄養のあるもの食べて欲しいんですが...」
「あら、そういえば私、歩けるのかしら」
いやだから、筋肉が落ちて動けないと今言ったばかりでは!?
そういう俺に構わずスッと布団の上にたち部屋を壁伝いに一周する。
長らく歩くことをしていなかったせいか、その足運びにはぎこちなさが見受けられたがなんとか体を支えることは出来ているようだ。
レイは慌ててお母さんの側へ駆け寄り杖として母親を手伝う。
「歩ける...動けるわ、まだ、覚束無いけれど、私、ちゃんと、起き上がってる...!」
もう興奮のせいで疲れとかその他もろもろ無視されているのだと無理やり判断して本人が満足に落ち着いて布団へ戻るで粘り強く待とうかと考える。
だが、俺も仕込みがあるし、仮に病が治ったのなら家族水入らずで喜びを分かち合いたいだろう。おじいちゃんとやらにも会いたいだろうし。
俺は、母さんを思ってブレスレットに触れる。
俺ももう一度母さんに会いたいなぁ。
「...そろそろお暇しますね」
声をかけるが届いてない様子に若干笑みがこぼれる。
まぁ、何はともあれ良かったとしよう。




