7話
永時と会うことが、いつの間にか月愛の日常になっていた。
毎日連絡を取るわけではない。
それでも、ふとしたときにメッセージが届く。
『今日は忙しかった?』
『ちゃんとご飯食べた?』
そんな何気ない言葉が、月愛には嬉しかった。
その日も、夕方になって永時から連絡が来た。
『少しだけ会わない?』
『はい』
今度は迷わず返事をした。
待ち合わせ場所に着くと、永時はすでに来ていた。
「早かったですね」
「月愛を待つのは嫌じゃないから」
「……そういうこと、さらっと言うんですね」
月愛が照れると、永時は楽しそうに笑った。
「本当のことだから」
二人は並んで歩き始めた。
今日は特に行き先を決めていなかった。
気になった店を覗いたり、飲み物を買ったり。
そんな何気ない時間だった。
「永時さんは、休みの日って何してるんですか?」
「月を見てる」
「……本当に?」
「うん」
「ちょっと変わってますね」
「月愛も見るでしょ?」
月愛は一瞬黙った。
「……見ます」
「好き?」
「好きというより……気になるんです」
「どうして?」
「分からないんです」
月愛は夜空を見上げた。
「月を見ると、昔から胸が苦しくなって……涙が出ることもあります」
永時の足が止まった。
「……そうか」
その声が、少しだけ低くなった。
「何か思い出す?」
「何も」
月愛は首を振る。
「ただ、誰かを待っているような気がするんです」
永時は黙った。
しばらくして、優しく月愛を見つめる。
「いつか思い出すかもしれないな」
「何をですか?」
「月愛が忘れている何かを」
意味深な言葉だった。
けれど永時は、それ以上何も言わなかった。
二人は再び歩き始める。
しばらくすると、月愛の手が永時の手の近くに触れた。
偶然だった。
けれど、二人とも離れなかった。
月愛は少し緊張しながら、隣を歩く。
「……永時さん」
「ん?」
「私、永時さんといると落ち着きます」
永時は微笑んだ。
「俺もだよ」
「なんだか不思議ですね」
「うん。不思議だな」
永時は夜空を見上げた。
そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「ずっと、こうしていたかった」
「何か言いました?」
「いや」
永時は笑った。
「今日は月が綺麗だなって」
月愛も空を見上げた。
夜空に浮かぶ月は、いつもと変わらない。
なのに今夜は、少しだけ優しく見えた。
隣には永時がいる。
それだけで、月愛は不思議と安心できた。
この時間が、ずっと続けばいい。
そんな願いが、月愛の胸に静かに芽生えていた。




