表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味で堅物なメイドですが、キラキラ侯爵令嬢に変身した私に坊ちゃんが恋をしました【完結】  作者: 降矢 菖蒲
3章:最強の女剣士になって坊ちゃんをお守りしようと思います
14/21

14.セクハラ魔人な同僚&強火パパと護衛任務開始です

翌日の早朝。

私はペンネロと一緒に大聖堂を目指していた。


フィオーラは病欠ということになっている。

本来であれば決して許されない。

なぜなら今日は、枢機卿閣下がおいでになる日。

仕事は山積みだからだ。


けど、今回は特別にお許しくださった。


『致し方がありません。ビアンカが転落するところを、目の当たりにしてしまったのですから』


メイド長様はそう言って、私にまで気遣いの言葉を掛けてくださった。

……申し訳ございません、メイド長様。

私は内心で深く謝罪をしつつ、大聖堂の一室に潜り込んだ。


ここは『聖具室』だ。

重厚な木張りの壁には、金糸で刺繍された祭服がいくつも掛けられ、部屋の隅々まで甘く重たい香りが漂っている。


「よし。いいぞ」


ペンネロにしっかりと確認をしてもらってから、私は最後の変身をした。


視野が広がった気がする。ああ、そうか。背が伸びたのか。

160センチ……いや、170センチはあるかもしれない。


姿見に映る自分を――ルクレツィアをまじまじと見つめる。

群青色の髪は、一つに編み込んで後ろに。

瞳の色は濃い紫色だ。

メイド長様と似た色だからか、余計に凛々しく見える。


着ているのは『ガンベゾン』。詰め物入りの布製の鎧だ。

神聖な大聖堂での任務ということもあってか、オリーブ色の外套(がいとう)を羽織って、鎧を隠している。


腰には、銀色のダガーがささっていた。

たぶんこれが『疾風の剣』ね。


私は剣を抜いて、目の高さまで持ち上げてみた。

(つば)やグリップの部分に、風を思わせるような流線が刻まれているけど、それ以外は特に変わったところはない。


これで本当に人を吹き飛ばせるの?


何て思っていたら、見知らぬ老人の姿が思い浮かんできた。

捏造された記憶。ルクレツィアの記憶ね。


茶色いローブ姿の老人は、ルクレツィアの師匠(マエストロ)であるらしい。

師匠が剣を振ると――目の前にあった五メートル近い大木が、根こそぎ吹き飛んでいった。


①吹き飛ばしたい対象に剣先を向ける or 意識を向ける。

②飛ばしたい方向に向かって剣を振る。


この二点を守れば、相手を好きな方向に飛ばすことが出来る。

必要なのは腕を振る力だけ、とのことだった。


「なるほどね。剣って言うよりは、魔法の杖って感じね」

「地面に向けて振れば、跳躍することも出来るぞ」

「あ……ほんとだ。剣を振り下ろす高さによって、飛ぶ高さを調整出来るのね。浅く振れば、素早く移動することも出来るんだ」

「危険が迫ったら、四の五の言わずにその力を使って逃げろ。いいな、小娘」

「分かってるって。それじゃ、行ってくるね」

「…………」


別れの挨拶をして部屋を後にする。

十メートルほど離れたところで何ともなしに振り返ってみると、ペンネロが廊下まで出て見送ってくれているのが見えた。


私にはそれが、何だか妙にむず痒くて。

「心配し過ぎよ」なんて、憎まれ口を叩いてしまう。

本当に可愛げのない女だ。


集合場所の教会の裏手に向かうと、既に親衛隊の方々の姿があった。


メイドである私とは、ほとんど接点のない方々だ。

正直なところ、あの方達が普段どういった任務に就かれているのかも、よく分かっていなかった。


今はルクレツィアの知識があるから、滅多なことでは悪手を踏むことはないだろうけど……やっぱりどうにも不安に思ってしまう。


「よう、ルル! 遅かったじゃねえか☆」

「っ!」


男性の剣士様が、横に並んだと思ったら――突然、お尻を触られた。

もにゅっもにゅっ……と、感触を味わうように、ゆっくりと揉み込まれて。


「エンツォオオオオォオオオ!!!!!!!!!!!!!!」

「ひああぁああ~~~!!!」


私は自分でも驚くぐらいの早さで、剣を振った。

金髪の男性――エンツォ・デ・ベルレッティは、風の魔法で吹っ飛ばされて、プラタナスの木に引っかかる。


「はっはっは!! エンツォのヤツ、またやってるよ」

「ったく、こりねーな」


他の八人の親衛隊の方々が、呆れながらも愉快そうに笑っている。

ルクレツィアによると、親衛隊はいつもこんな感じの雰囲気であるらしい。


個人的には凄く……物凄~~~~く苦手だ。

陽気だけど、どこか下品というか……。

ルクレツィアの苦労が偲ばれる。


「んの馬鹿もんが!!!!」

「ふえ~っ、許してください隊長~~っ」


二メートル近い屈強な男性が、こちらに向かって歩いてくる。

女性の太腿×二本分ぐらいありそうな首に、エンツォを乗せて。


ルクレツィアのお父上のリッカルド様だ。

愛娘のお尻を穢した罰なのか、しきりにエンツォの両手両足を引っ張っては、腰に強い負荷をかけている。


何ともパワフルなお父様だ。

近くで見ると、その迫力は一層凄まじいものになる。


顔の下半分を覆う立派なお鬚に、鋭い眼光、そして眉間に刻まれた深い皺。

まさに『歴戦の猛者』っといった感じだけど――。


「ルル♡ このバカは、パパがしっかり懲らしめてやったからなぁ♡♡♡」

「……ありがとうございます。お父様」


この通り超が付くほどの『親バカ』なのだそうだ。

幸い、ルクレツィアは常に塩対応であるそうなので、演じる上では支障はなさそうだけど……何だか酷く疲れるというか……。ああ、もう帰りたい……。


「さて。では、始めるとするか」

「ぐはっ……!」


リッカルド様はエンツォを振り落とすと、すっと切り替えてブリーフィングを始められた。

それに伴って他の剣士様も、あのエンツォまでもが表情を引き締めていく。


やっぱり、この人達もプロなんだ。

実感した瞬間、親近感を抱いた。

それと共に湧き上がってくるのは――確信だ。


この人達となら、きっと守り切れる。

坊ちゃん達を……絶対に。


「主の御前に集いし者達よ。今、我らの心を清め、聖なる言葉と祈りをもって、この日を捧げよう――」


ミサが始まった。


サヴィオラのご一族の方々のお席は、聖堂のちょうど中程のあたりだ。

以前皆様がいらっしゃった最前列には――ルンガルディの一族が鎮座している。


部隊の配置は――

ご当主様の隣にエンツォ、後ろにロッコという名の剣士様が。

側廊(身廊の両脇の通路部分)には、私とリッカルド様の二人が控えていた。

あとの四人は、不測の事態に備えて、大聖堂の外で待機している。


現状、身廊(祭壇へと続く通路側)にいらっしゃるヴァレリオ様の警備が、もっとも手薄な状態だ。


ただ、この剣を使えば十分お守りすることは可能だ。

相手を吹き飛ばすか、私が飛んでヴァレリオ様のお側にいけばいい。


そのためにも、暗殺者の陰を絶対に見落とさないようにしないと。

一瞬たりとも気は抜けない。

私は外套の中で静かに剣を抜いて、ヴァレリオ様の周囲に目を配る。


「始まったな」


信者の方々が身廊に出て、一列に並び出した。


『聖体拝領』だ。


信者の方々は()()()()司祭様の前に出て、聖体を象徴するパンを受け取り、祈りを捧げていく。

護衛を伴って臨むことは、決して許されない。


狙われるとすれば、おそらくここだ。

私は外套の下にある剣を握り直して、緩く膝を落とす。


「っ! 坊ちゃん……」


席を立たれるなり、背中を丸められた。

足が痛むのだろう。

ヴァレリオ様は「大丈夫ですよ」と笑顔で返しつつ、何とか歩こうとなされているけど、中々思うようにならないみたいだ。


エンツォとロッコ様が歯痒そうにしている。

あの二人は手を貸すことが出来ない。

武装をしているために、身廊に立つことが出来ないのだ。


「お父様……」

「いや、大丈夫だ」


ヴァレリオ様の兄、ドメニコ様が肩を貸してくださった。

一歩一歩、ゆっくりと身廊に向かっていく。


その後、ご当主のジローラモ様を先頭に、次男のアレッシオ様、三男のドメニコ様、四男のヴァレリオ様の順で一列に並ばれた。


ドメニコ様が変わらず肩をお貸ししようとしたところで、修道士様が介助を申し出てくださる。


「ありがとうございます。修道士様」


唇の動きで、ヴァレリオ様が修道士様に感謝されたのが分かった。

ほっとしたように、穏やかに微笑んでいる。

どうやら相当お辛かったみたいだ。


「……まずいな。坊ちゃんの足の具合は、相当悪いらしい」

「ええ。あんな状態で襲われでもしたら――っ!」


その時、修道士様の袖口がギラリと光った。

あれは――刃物だ。


理解したのと同時に、私は地面に向けて剣を振り――バンッと勢いよく跳ね上がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ