表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

集合地点、一日前

- 主要登場人物紹介 -

バツ:ラクダ(機獣)のミコトと旅をする女。怪物狩りを得意とする。頼れる戦士だがやや脳筋気味。

エネ:本名はアイン・グライフ。妹をパートナーとするハンターの青年。ノリは良いが頭は悪い。

メリ:本名はマイラ・グライフ。エネの妹。暴走する血筋の末裔で、兄と共に静かな隠居が目的。


(Previously) 崩壊後の荒野で機械の獣を狩ることを生業とするラクダ乗りのバツ。言葉を発することができない彼女は二輪乗りの兄妹と知り合い、彼らの予定していた大きな「仕事」に付き合う。

規則正しく揺れる騎乗を照りつけていた太陽も、再び地平線を目指してやや傾き。

どこか気怠い夕暮れの色が、荒野に固着した道路の跡を染め始めるかという時刻。


前をゆく二人乗タンデム二輪オートの運転手が、軽く片手をあげて前方の廃墟を示した。

土色の大きな丘の手前。立ち枯れた木の残骸の中、やや大きめの、気取った造りの建造物だ。

半日ほど私を乗せていたミコトも速度を落とす。


大規模な野党狩りに参加する、戦士の集合地点。

建物に近づき、裏手に回る。


その廃墟の陰には、何台かの二輪オート四輪シップが既に停めてあるのが見えた。

単純なバイク型、やや大型のバギー型、機銃を載せたガントラックまで様々だ。

 

「やぁっと着いたな〜」

「おシリが…いたい…」

兄妹がひいこらとオートを降りる頃、私とミコトの視線は、とある一点に釘付けになっていた。

なんと、ラクダが一頭停めてある。

こちらを見ているが敵意は感じない。賢そうな子だ。


ミコトと顔を見合わせる。近隣を散歩させようかと思っていたが、既に先客が居るのならここに繋いでも良さそうだ。


仲良くな、と眼で言い含め、ミコトと別れ三人で入口へと向かった。



※※※



欠けた壁から夕日の差し込む大きなエントランスは、しかし無人だった。

その奥に、人の気配がする。

エネが先頭に立ち、扉を開ける。


「ノックコンコンっと。邪魔するぜー」


中に居た多くの目が、私たち三人を捉えた。

一人、二人…ざっと二十名弱、というところか。


木製のカウンターといくつかの円いテーブル席で構成された、広めの酒場のような一室だった。

窓のない室内に、ランプのような淡い照明。

さまざまな装備の男女が、ある者はチームでテーブルを占拠し、ある者は油断なく壁際にいる。


そして、予想された歓迎――荒事に慣れた者たち独特の、まるで難癖をつける寸前のような鋭い視線と、悪意のざわつき。


(ガキじゃねぇか…)

(なんでここに…?)

(女二人連れとか、ナメてんのかよ…)


それはいわば、この段階で上下関係を決めてしまおうとする闘争本能たちの、無言の喧嘩だった。

肝の細い者なら竦み上がって動けなくなりそうなその視線の針の中を、先頭のエネは笑みすら返しながらいつもと同じ歩調ですいすいと進む。


…案外大物なのかもしれんな、こいつ。



※※※



エネの足は奥のテーブル、黒い服に廃材の杖をついた壮年の男が座っている椅子で止まった。


「よう、チグロさん」

「こんにちは、黒服のおじさま」

「これはエネさん、妹さんも」

チグロと呼ばれた男が、愛想よく応対する。

そのすぐ背後にもうひとり、長身の若い男が無言で立っている。


「よく来てくれました」

「手付けを貰っちまったからな。お陰様でオートも調子がいいぜ」

「成功報酬もお約束通り用意してます。明日は頑張りましょう」

握手を交わしている。この男が、今回の発起人のようだ。

後ろに撫でつけた黒髪はやや白髪交じりつつも若々しいが、目尻の皺は年輪を感じさせる。その表情は一見すると愛想が良いが、目の奥の光は重く、深い。


こんな時代なのにホコリひとつない、良い生地の服装。痩せてはいるが、栄養不足とも見えない体型。

戦闘要員ではないのにこの見た目を維持できるのなら、かなり頭がキレるのは確かだろう。


そして背後の男。こちらも黒基調の、軽装だが動きやすそうな戦闘装備。

端正な顔からはおよそ感情表情が読み取れない。ボディガードといったところか。


「そちらの背の高い御方は?お仲間で?」

「ああ、仲間だ。バツ。レギオン狩りの達人だ。喋べることができないんで、挨拶は勘弁してやってくれ」


座っているチグロと、その背後に影のように立っている男が視線を向けてくる。特に影の男の眼には先ほどの何人もの不躾な視線よりもずっと強く、威がある。

腹に力を入れ、見返す。

…相当強いな。敵でなくて良かったというところか。


「それは心強い。チグロです。野盗退治にご協力感謝します」

慇懃な態度で会釈する。こちらも軽く返す。

「今回の討伐目標の砦基地は『ガラクデルマ』と呼ばれております。平地に構えておりますがバリケードの城壁が高く、正面突破作戦になるでしょう。近隣住民から報酬を多々預かっておりますので、完遂の暁にはどうぞご遠慮なく」

挨拶のつもりか左手を出す。立ち上がりもしないのかと思ったが、どうも脚が普通ではない。


「右手と左足が義手義足でしてな。失礼」

なるほど。

個人的な都合による無礼は、こちらも同じだ。

左の軍手を外し、無言で握手を交わす。冷たくも温かくもない。


「そっちのアンタは名前は?」

「…リゲルだ」

エネのフランクな呼び掛けに、若い男が初めて口を開いた。深みのある良い声だ。

メリを見ると男のあまりの美形と美声に魂を抜かれたのか、ぽかんと口を開けていた。

「オレはエネ、妹のメリと友人バツの三人組だ!よろしく!」

「…ああ」

勢いよく握手をするエネ。この手の者とすぐに言葉を交わせるとは、本当にコミュニケーション意欲と能力の高い奴である。


「アンタがオレたちの大将をやるのか?」

「違う。彼女だ」

促されて振り返ると、妙齢の女性が近くに寄ってきていた。

一応の戦闘装ではあるが重装ではない。全体に線が細いが、豊かなやわらかさを維持した身体のラインが出る美しい姿だ。

片方の眼に品よく掛かり、背後で軽く波打つ明るい色味の長髪は、微かな芳香を含んでいる。


「えっと…レミです。よろしくね?」

その顔はやや含羞みつつ、儚げな笑みを浮かべた。



※※※



レミと名乗った美人は、控えめに、しかし愛想よく笑ったまま立っている。

…男の美形はどうでもいいが、女の美形はなぜか気後れがする。挨拶のタイミングが掴めない。

「エネだ!よろしく!大将さん?!」

が、この男はぶんぶんと簡単に手を握り振る。

強い。

「うん。私は何回かこういうのの指揮をしたことがあるから、一応慣れてる…と言ってもいいのかな。今回のガラクデルマも、焦らずじっくりやるから、そのつもりでね」

「へーぇ。いいカラダしてるけど、あんまり強そうには見えねぇけどなぁ」

「このバカ兄がぁ!ド失礼でしょ!」

間髪入れずのメリの一撃でぐへぁと吹っ飛ぶエネ。

…なんか評価を見直しかけていたが、やはり何も考えてないだけだったのかもしれない。


「ガハハハ!よく言ったぜぇ兄ちゃん!」

メリではない。野太い声。


声のほうを振り返ると、いかにもな装備に身を包んだ筋肉質な男たちの群れが、テーブルのひとつに酒瓶と両脚を上げて占拠していた。


「強い奴に従う、それがこの世界の唯一無二のルールだ。強そう弱そうは大切だよなぁ」

右目に傷のある、最も大きな男が喋る。取り巻きの男たちも油断なくこちらを見据えている。

「なのによ…屈強な奴らを八人も率いて来たこのオレがよ、『副将』はオカシイだろうが?!」

吠えつつ大きな音を立て、テーブルの上の脚を組み替えた。

室内のすべての眼が、彼らを観る。



※※※ 



「やっぱり大将はオレにやらせろよ。きいてんのかいチグロさんよ」

場が静まったところで、一転して小さな声。だがそれこそが本命の要求であることがよく分かる。

威圧に慣れた仕草だ。

チグロは応えない。


「だいたい、なァにが『焦らずじっくり』だ。たかが野盗の砦、強襲突撃あるのみだろうが!これだから女はよ!オイ兄ちゃん大丈夫か?」

「あ?ああ、ありがとう」


エネと二人で立ち上がり向き合うと、男の体格の良さが際立つ。胸板も脚も立派なものだ。


「バルハンだ!よろしくなぁ!」

「あぁ…エネだ。こっちは妹の」

「でもなぁ…お前も弱っちいだろ?」


握手と同時の暴言に、一瞬混乱している間に。

バルハンと名乗った男の筋肉質な腕が、エネの手を持ち上げ腕をねじ上げた。


「痛って!おい!」

「あらら〜こんな位で痛がっちゃって〜。女の子二人も連れてきたのに、カッコ悪いね〜」

「わかった…わかったから、離せよ…」

「…ふん。雑魚がよ。足引っ張ったら殺すぞ?」

ぶん、と投げ捨てるように握手を離す。

ギャハハハと取り巻きが下品な笑い声を上げる。


――こいつら。

私たちのリーダーを、嘲ったな。


面白い。


一歩前に出て、右手を差し出す。

「あぁ?おまえもご挨拶してぇのか?」

睨みつける。意図は伝わったようだ。

ガッ、と攻撃的に手の平を掴まれる。


「へッ。こんなマスク女の細腕ごときで…ごとき…あ、あれ…」


少し力を入れただけで、動かせない。

――その太い腕は見かけ倒しか?これでは勝負にもならないぞ?

無言の嘲りを、目と表情に込めて伝える。

バルハンと名乗った大男の顔が、紅潮する。

動かない。

動かない。

やがて微かな怯えが、その眼に宿る。


「いっ…、…!」


握力を上げる。辛うじて声は抑えたか。

このまま握り潰してやろうか?

「……!」

ぶん、と全力で手を振りほどかれる。


「…………くっ!」

同じことをやり返されても返す言葉はあるまい。

静まる場に、くすくすと笑う声が聴こえた。

「カッコわるぅ。ねぇ、チコ?」

「だからって笑うもんじゃないわ、リコ」

壁際に立った、派手に髪を染めた短い髪の女と、長い黒髪の女がこちらを見て喋っていた。


「この野郎…」

「あの、あんまりモメないでね…明日は一緒に戦う仲間なんだから…」

そっとバルハンの太首に白い手が添えられた。

レミがいつの間にか彼の背後に立ち、その急所を的確に抑えて静かに諫めた。

…彼女。見た目よりも、出来るな。


「…けっ。女、女、女!くだらねぇ、もう顔見せはいいだろ!いくぞお前ら!」

バルハンはテーブルの上の酒瓶を乱暴に手に取ると、こちらを睨みつける仲間たちと共に階段を踏み鳴らして、上階へと去っていた。


「申し遅れたが、上の階にはチームごとに僅かだが食事と簡単な支給武器、休める個室を用意しています。どうぞごゆっくり」

眺めていたチグロが、どこか愉快そうな口調でそう告げた。


「ありがとな、バツ」

「めっちゃスッキリしたわ!かっっこよ!」

なに、私が勝手にやったことだ。兄妹に軽く笑ってみせる。


「しかし…あいつら大丈夫か?野盗砦の略奪とかが目的なんじゃないのか?」

「うーん、もうちょっとお話しないとダメかなぁ…あのテの方々を指揮した経験はなくって…」

エネとレミとが困り顔を寄せていたそのとき。


微かな振動と共に、重量級が着到した音がした。



※※※



「がっはっは!地平線の赤男爵レッドバロンこと、カンジキの参上じゃ!」


すっかり暗くなったホールに、一人の短躯な高齢男性が胸を反り返らせていた。

首が埋まるほどの重装備。そして玄関の向こうに僅かに見えるのは、彼のシップ…『戦車』だ。


「おおおお!戦車乗りかジィさん!?」

エネが眼を輝かせる。

「レギオンハンターのレッドバロンを知らぬか!儂が来たからには、負けるはずがない!」

カッカッカ、と笑う。


戦車。かつての文明時代の最強の地上搭乗兵器。

その機動性と攻撃力、タフネスぶりから、四輪シップ乗りたちの憧れにして頂点。


「まあ主砲はイカれとるがの!」

「ダメじゃねぇか!」

「何を言うか!装甲、機動性、機銃の副砲でも儂の『朱イ槍』号は十分に強いわ!」

エネが外に出る。

「よく見るとかなり小型だし、装甲もひん曲がって頼りない…年代物だな…」

「おのれ騎士の魂を愚弄するか!表に出ろィ!」

「もう出てるだろが!」

「やめてよエネ兄!正直すぎるのはダメだよ!」

いやそれはお前も酷い。


「おぉなんと、子供がいるではないか!よしよし、ジジィがイイものをあげよう」

言うなり戦車からごそごそと取り出し、小さな包みをいくつか取り出す。

「西の方に製糖プラントがあってな、最近そこで報酬代わりに貰ったもんだ。遠慮するなホレ」

「あ、ありが…とう…?」

勢いに負けてメリが三つの包みを受け取る。毒見のつもりか、老人自らがひとつを口に含んだ。

「子供たちで仲良く分けィ。アメちゃんだ」

三つ。メリとエネと――あ、私もか?


三人とも別に子供ではないのだが、レギオン狩りでこの年齢まで生き延びた先達から見れば、ヒヨッコなのは否定は出来ない。


素直に包みを開けて中身を頬張る。上質な甘さ。

もごもごと無言の三人で、困ったような顔を見合わせる。

カンジキと名乗った老人の、矍鑠とした笑いが響く。ほほえましいと言わんばかりに見守る大将役。


決戦前日にしては、甘く、締まらない夜だった。

だがそれもまた、私たち『らしさ』かもしれない。


薄暮の光が、古びた戦車と私たちを静かに照らしていた。



※※※



「よぉしお前ら、全員表に出ろぉ!遅れたら承知しねぇぞ!」


天候は快晴。睡眠も食事も十分。

不愉快なのは、朝から響いている野太い偉そうな声だけだ。


外に出ると、バルハンと彼の取り巻きが、ほかのメンバーをアゴで扱うように搭乗指示をしている所だった。

「おせぇぞ!さっさと自分のに乗れ!」

「オイ、何でお前が仕切ってんだ?」

エネが睨み返す。

《大将役はどうした》とGKPに書き、見せる。


「『体調不良』でオヤスミだ。つまり今日はオレが繰上げで大将だ。ちゃんと指示を聞けよ〜?」

筋肉質の図体が、ニヤニヤと不細工な顔を近づける。酒臭い息が鼻腔を掠める。


「体調不良って?昨日の今日で突然?」

メリの疑問は敵意を差し引いても当然、明らかに不自然だ。

「ふん。昨日の夜、話があるって急に部屋に来たからな、ちょっとした勝負に誘ってよ」

何かを思い出すように、いやらしく眼を細める。

「親睦を深める『レクリエーション』て奴だな。まあそれがちっとばかし盛り上がりすぎてな、身体が辛いから部屋から出てきたくないってよ!ハッハハハ!」


…こいつ。

そういうことか。

私とメリが穴が開くほど睨みつけても、平然として意に介す素振りはない。


「…生意気な女にはな、言う事の聞かせ方ってもんがあんだよ。お前らもオレに逆らうんじゃねぇぞ」


出発だぁ!とあちこちで気炎が上がっている。

始まる直前から歯車が大きくズレたこのガラクデルマ攻略作戦は、しかしもう止められはしない。


――この状況。現場で私にできることは何だ。


猛烈な悪い予感に苛まれ、必死で頭を回転させつつ、私はミコトの背に乗った。

エネとメリも、仕方なく彼らの愛機に乗る。


バイク。バギー。ガントラック。戦車。ラクダ。

それぞれの砂塵が、荒野に舞い、消えていった。



(続)






先週は 49 名もの御方にプレビュー頂けたうえ、評価まで頂けておりました。この場をお借りして感謝を(^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ