↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/14

電波塔の魔女(1)

- 主要登場人物紹介 -

バツ:ラクダ(機獣)のミコトと旅する失声の女狩人。友人メリを攫われ奪還の旅路。

エネ:本名はアイン・グライフ。メリの兄。勇気と陽気だけが武器であったが。

チコ:本名はガラティカ。女運転手。兄妹に命を救われた縁で、協力を申し出た。


後方から、悪意が迫る。


二輪《オート》。おそらく四台か、五台。

盗賊の類で、間違いないだろう。


ミコトへ騎乗したまま、併走する仲間の車輌――『バス』へ、あらかじめ取り決めていた合図を送る。

その細腕にハンドルを任されたガラティカ――『チコ』が、運転席から微かに頷き返すのが見えた。

エネはそちらの車内にいる。機銃手の役割だが、それを用いるほどの相手でもないだろう。


三人で旅立ってから、丸一日程度が経過していた。

日はまだ正午前。左手に広大な砂漠、右手に岩と廃墟の転がる荒地、という境界線上のルートは、他に車輌やレギオンの姿をこれまで見ることはなかった。


目的とするオアシスの集落への道は、三つの選択肢があった。

最も短時間だが危険な砂漠を突っ切るか。

砂漠を迂回して荒野側をゆくか、中間をゆくか。


三人で相談のうえ、現在の武装ならばある程度のリスクは許容できるだろうと、中間のルート、大砂漠縁周を行くことに決めたのだ。

その道筋ならば、およそ丸三日の行程となる。

辿り着く必要はある。が、そう余裕のある旅路でもない。


――つまり盗賊程度の危機ならば、織り込み済。


ミコに速度を上げてもらう。

周囲の景色が、勢いよく後方へと流れはじめる。


盗賊たちも追いすがってくるのを音で確認し、方向をやや右手に向けた。

仲間二人の乗ったバスは、そのまま直進。

少しずつ距離を離し、後方につける。


ほどなく五台のバイクが、バスを囲んだ。


「ヒャッハー!荷物を置いていきやがれ!」

「んな鈍臭いクルマで来たのを後悔すんだな!」


頭の悪そうな髪型の、典型的な二輪野盗。

族は当然、貨物狙いだ。バスを放置してこちら――ラクダを狙う欲求も、その知能もない。


機銃や砲の装備もなさそうだし、あとは私とミコトが後ろから一台ずつ転ばせていけば終了、だが。

ひとつだけの懸念は、あの新顔の運転技能が未知数であることだ。

――それまで持たせるくらいはできないと、これから先に困るが…。


「とりあえずタイヤ狙っちゃおうかな〜!」

族の一人が、手斧を振り上げた。

急ぎの旅路、足回りの替え部品は少ない。まずいか、と思った瞬間。


鈍い音と共に、男のバイクが宙へ飛んだ。


「うぉっ!?」

「こ、この野郎!?」


幅寄せ。しかし、ただの体当りではない。

絶妙なタイミング、一瞬だが強烈な接触。

そこから即座に元の車線に戻り、その高速運転には一分のブレもない。

この速度で、恐ろしく鋭く、正確な車輌操作だ。


逆側から攻めたバイクを、バスが同様に葬る。

まるで、巨大な生物の身動ぎのようだった。


なるほど。運転が得意だと、言っただけあるな。


負けてはいられない。手綱でミコトを駆る。

慌て始めた残り三台の最後方に的を絞り、槍のバックハンドで思い切り後方へと殴り落とす。

落車の悲鳴と破壊音が、後方へ去る。あと二台。


と。

バスは突然、進路の左方向に寄せ、減速した。

自然、バイクの残り二台は、右手に寄る。

何か狙ってるな。ミコトの速度を落とす。


「スピードが落ちたぞ!チャンスか!」

「この野郎、良くも仲間を!」


鈍く光る打撃武器を振り上げ、バスに接近する二台のバイク――しかし。


荒野に大きく響き渡る、エンジンの咆哮。

バスの後方車輪が、地を噛みながら高く鳴く。


その巧みな制動は車輌そのものの姿勢を変え、巨大な鉄の質量で周囲を薙ぎ払うようにスライドを始める。


「!」

巻き込まれないよう急停止。盛大に巻いた砂塵に目を細める。

巻いた砂塵が収まったのち、バスは平然と、アイドリングに身を震わせながら停車していた。


残り二台の野盗のバイクを探す。――あれか。

遠くの岩場に吹き飛ばされ、煙を上げている。

どう見ても、再起不能だ。


後加速で、一回転。

まるでクルマを使った後ろ回し蹴り――「アクセルターン」と呼ばれる、車輌操作の大技だ。

…まだ乗って日が浅いはずのそれを、まるで手足の如く。


私とミコトは半ば呆れながら横に並び、『終了、進行』の合図を出す。

チコが笑って、親指を立てていた。


――「運転が得意」というのは、ずいぶんと控えな表現だったらしい。

ひとり殴るだけに使った火箭槍を、間の抜けた気分で片付ける。


さて。どこかで休憩と昼食だな。



※※※



「お昼ごはんは集落《メス》で貰った携帯食です〜」

「知ってるし…昨日と一緒だし」


元気よく宣言したチコに、エネが呟くように応えた。


休憩場所は奇襲を受けないよう、見通しのよい岩場の上を選んだ。

砂漠方面は多少の起伏があるが、さすがにそこまで贅沢は言えない。ミコトが見ていてくれるし、大丈夫だろう。


チコはバスに積んでいたのであろう調理用具で、手際よく乾し肉のスープを整えてくれていた。

「悪ぃな、手伝うぜ?」

「のんのん!座ってて下さい!」

柔らかな黒髪を簡単に白布で覆った彼女は、エネの申し出をやわらかく却下し、なにやら煮込んでいる。


「ふんふんふ〜ん♪」

…上機嫌が常態だな。良いことだが。

先程の天才的で暴力的な運転は、その大人しい姿からは想像ができない。


「できました!師匠からどうぞ!」

ありがとう、と書いておいたGKPを見せつつ、両の手で受け取る。温かい。


何か気の利いた絵でも返答に添えれば良いのだろうが、それほどの絵心はない。

私のGKPのメモリ上にあるのは、『よくできました!』の一枚だけ。


…メリ。無事でいるだろうか。

食器を握る手に、思わず力が入ってしまう。


丁重に運ばれた様子とはいえ、拉致には違いない。

一体どこへ、なぜ。


手繰っているのは、本当に細い手掛かりのみ。

今頃、どんな思いで生きているのか。

あるいは、既に。その可能性は常に消せない。


いや。そんなことを、考えて何になる。

食事を口へと運ぶ。


生きなくては。そして、動かなくては。

そのためには、食べなくては。

必ず再会する、そのために。


「はい、エネ。いっぱい食べてね」

「あぁ…。サンキュ」

ぼんやりした様子で、エネが受け取る。


無理もない、攫われたのは実の妹なのだ。黙っていれば、頭の中はすぐにオーバーフローだろう。


軽く青空を、太陽を拝み、ひとつ息をつく。…仕方ない。


『良いターンだったな』

言葉を見せながら、隣に座る。


「あっ、師匠。ありがとうございます」

頷きながら、続きを書き、見せる。

『強い仲間が増えて嬉しい よろしく頼む』

はい、と頷くチコ。爛漫だが清楚、控えめだが自信と経験を感じさせる仕草は、メリと似ているようで似ていない。


「運転しか出来ませんけどね。お二人のお役に立てて、私もウデを磨いてきた甲斐があるというものです。…お風呂場で」

つまらない自分の冗談に、けらけらと笑うチコ。

対象的に、エネの瞳は、昏さを増す。

うむ。まずいか。


「あ、でもですね」

「お前。何がそんなに楽しいの?」


浮かれた空気に、冷水を浴びせるかのような。

厳しい言葉が、容赦なく被せられた。


「えっ…」

「あっ…と」

言ったエネが驚いている。


「すまねー…なんか空気悪くしちまいそうだな、オレ。…向こうで食うわ。じゃ」

「あ……」


立ち上がり、離れた岩場へと向かうエネ。

チコは思わず手を伸ばしつつも、突然の拒絶に抗えない。

『気にするな 少し置いとけばいい』

おろおろと、縋るような視線に、書いて見せる。


…やれやれ。

やむを得ないといえ、これでは先に不安がある。

しかし、わたしとてこんなとき、器用に立ち回るのが得意な訳でもない。

かといって、何も声をかけないというのも…


…ミコト?どうした?


逃げた視線の行く先で、怪訝そうに首を傾げていた相棒に気付き、同じ方向に目を向けたそのとき。

砂丘の向こう側から、脚を引き、負傷した様子の二人の男の姿が、ゆらりと現れた。


「…人?人だぁ!」

「助けてくれ!レギオンが!」

「!」


聞いた瞬間、ミコトに飛び乗っていた。

一瞬の視線を交わし、二人にここを任せる。


そのままミコトを全速で駆り、私は砂丘の壁奥へと向かった。



※※※



「いや、助かったよ…すまないな」

「こんな偶然に、狩人さんに会えるなんて」

二人の男が、頭を下げた。


バスの車窓の外側は、変わり映えのない砂漠の景色が、延々と流れ続けている。


運転はチコに任せ、エネと私、二名の救助者が席に座り、二人と二人で顔を突き合わせていた。

車内は左右に長いシートが向かい合っている構造で、このようなときには都合が良い。

ミコトは外を独りで駆けている。まだまだ日は高い。


――急ぎ辿り着いた現場、レギオン自体は中型の機械トカゲが二体で、戦闘はすぐに終わった。

残念ながら、その場には破壊されたボロ四輪《シップ》と、一人が犠牲になっていた。

仲間二人を逃がすため、残ったのだろう。


その勇敢な戦士を砂漠に埋め、残っていた荷物をかき集めて戻ったときには、二人の応急手当と事情聴き取りもエネたちによって終わっていた。


「…で、その『リストランテ』?に連れて行けばいいんだな」

「ああ。俺たちはそっち方面から来たんだ」

「後戻りは残念だが、仕方ないな…」


エネの問いに二人の男が、顔を見合わせ応える。

一人は頬かむりのような布頭巾、もう一人は潰れて変色した革の帽子をかろうじて載せている。

一人救えなかったことを詫びたが、むしろ感謝されすぐに割り切ったようだった。そんな時代だ。


「お仲間の亡くなったところに悪いけれど。こちらもあまり、回り道の余裕がある旅じゃなくて」

「いや、いいんだ。…ありがとな、チコ」

運転席からの注意に感謝で応えたエネが、目を細める。


「エネがいいなら、いいけど…」

「ああ、悪いけど言う通り向かってやってくれ。しかし」


よっこらしょと、両手を背凭れの上に回す。

相変わらず無頼な仕草だが、もはや突っ込む気も起きない。隣の私は、黙って聞くばかりだ。


「信じ難いな。荒野のド真ん中で、料理を出す店だって?」

「そうだ。酒も出る。俺たち行商人仲間じゃ有名な店だよ。知り合いもすぐに寄るだろうから、そのとき拾って貰うさ」

「一体どうやって?食料は近隣のプラント持ちと交渉するとしても、元手は?対価は?そもそも野盗の侵入をどう防ぐっていうんだ?」


よほどの大人数なのか、というエネに、男が黙って三本の指を立てた。


「三人で?嘘《ウッソ》だろ?」

「本当だ。全員がバカ強い。近隣の野盗はほとんど脅迫的にハナシをつけていて、襲うような阿呆は居ないそうだ」

「食材その他はどうやって…」

「ユニークでな。俺らみたいな客はまず、手持ちの財産を店内で使える仮通貨《トークン》と交換する」

「だいたいパックが多いが、信用のある業者なら水やら食料でもいいことになってる」

二人の男が、交互に話しはじめる。


先程のレギオンから狩り獲ったパックを眺める。

エネルギーはまあ、どこでも需要はあるだろう。

それを食材交渉に回しているのか。


「そんで交換した仮通貨から、料理メニューの額面相当を支払うことで、飯が食える」

「タマゴやら調味料やらはどこで仕入れているのか謎だがな…交換レートは結構な価格ではあるが、ついつい寄っちまうんだよ」

「……ふうん」


半信半疑の様子のエネ。無理もない。

地下自動農場のプラントが正しく稼働している集落ならば、その収穫の一部を流通交易に回すことは珍しくはない。

疑問は防備の方だ。ここに多くの食料蓄積があると喧伝するなど、自殺行為にも等しい。

そして、仮に野盗と話をつけたとしても、無軌道に襲い掛かるレギオンとはそうもいくまい。

集落内ならば、酒場も食堂もあるだろう。しかし店舗単体で、この荒野を生きているなんて。


運がいいのか、または――

そんなにも、強いのか。


「これがそこで使われてる仮通貨だ。前回の余りだよ」

布頭巾がピンと弾いてよこしたそれを、受け取る。


プラスチックの、破片…というか、パーツだ。

カラフルで、小指ほどもない。何に使うものか。


「前文明の『リグブロック』だとさ。玩具だと」

「なんでも組み立てるとクルマや建物になるらしいぜ?」

「へえ…こんなちっちゃいもんを、いくつ使えばそんなになるのやら」


しげしげと眺めるエネ。

見せて見せてー、という声が、運転席からも聴こえてきた。


…まあ、まずはそこへ行ってみるしかない。

旅の人々が集まる。そんな場所ならば、我々の指針に有益な情報がある可能性は、ゼロではないだろう――それに。


二人を相手に冗談交じりの世間話に移行したいつものエネを見て、何故か私は、少々の安堵感を覚えていた。



※※※



「あれがそうか…」

バスから降り小さな双眼鏡を覗くエネが、呟く。


簡素な木の杭と、ワイヤで仕切られた奥。

ガレージと、平屋の建物が遠目に見える。

私もバスを降り、ミコトの鞍の上に立つ。


念のために停車して様子を見てはいるが、案内の二人組がむしろ安心している様子なので、危険はなさそうに思える。

広大な敷地を囲うこの柵は防備というよりも、縄張りの主張なのだろう。出入り口は無造作に開いている。


これより奥へ来たものは、ルールに従わせる。堂々たる強さの誇示とも取れた。

ならば、既に補足されているのかもしれない。


ガレージ内は角度と距離で全容は不明だが、少なくとも二台の輸送車《シップ》が停まっているのが見える。

平屋のほうは小柄だが瀟洒な作りだ。


「ああ。『リストランテ』。ただそう呼ばれる、この世界でおそらく唯一の『料理店』だ」

助かった、ありがとう、二人の男は口々に感謝を口にした。


この荒野に、ぽつんと一店舗。非常識な存在だ。

いや、本当に防衛力と経済力を兼ね備えているのならばそれは単体の『集落』であり。


大げさな言い方をすれば、最も小さな『国』でさえあるのかもしれない。


「まぁ……じゃあ、入ってみるか……」

エネの言葉に、チコと二人で頷くよりない。


鬼が出るか蛇が出るか。――料理が出るか。


私たちは一台と一頭に乗り込むと、ゆっくりと、並んで敷地に入った。

荒地の砂塵を纏い、建物の入口へと向かう。


…微かに、肉料理のような匂いが漂ってきた。


(続)


ずいぶん間が空いてしまいましたが、なんとか新章に着手できました!

一応エンディングまでの構想は(何パターンか)ありますので、

長い目でお付き合いいただければ幸いであります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。