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集落、三日後 (第二章 終)

- Characters -

バツ:ラクダ(機獣)のミコトと旅をする若い狩人。怪物狩りを得意とする。頼れる女戦士だがやや脳筋気味。

エネ:本名はアイン・グライフ。妹をパートナーとするハンターの青年。ノリは良いが頭は悪い。

メリ:本名はマイラ・グライフ。エネの妹。暴走する血筋の末裔で、兄と共に静かな隠居が目的。


- Previously -

もはや戦闘は終結したかに見えた作戦行動の終盤、暴走レギオンから子供を庇ってエネが倒れ、それを守ってバツもまた傷つく。死の淵にいた彼らを救ったのはメリの別人格の力であったが、それを見た正体不明の三人に彼女は連れ去られてしまう。

「…………」


ふと、焦点が合う。

見えたのは、灰褐色の面白味のない天井だった。


死者の国……ではないな。


そうならば部屋の片隅の丸椅子の上で、チンピラ風の金髪男が腕組み足組みで座って高イビキを上げているはずがない。


寝台に身体を預けたまま、見える範囲を見渡す。

壁に据え付けの、曇り窓の薬棚。

無機質な室内の色合いから浮いた、木製の机。拾ってきたパイプ椅子。

よく見ると、調度や内装に見覚えがある。

あのとき、メリが寝かされていた部屋だ。


…メリ。

蘇りかけた記憶を、一旦追い出す。

順序立てて状況把握だ。悪い感情は邪魔になる。


つまりここは…メスの集落内。

戻って来たのか。どうやって?


窓がないので、時間などは分からない。

服。色褪せてはいるが清潔な衣類に変えられ、負傷箇所は白布に包まれている。

いつもの武器と装備とマスクは、丁寧に畳まれて近くに置いてあるのが見えた。


「…お。ついに起きたか。不死身の狩人バツ先生。おーい、来てくれ」

目覚めたエネが扉外へ声をかけ、立ち上がる。

「へー、髪解いてると印象変わるな。しっかし、重傷だったな」


応答を返そうとしたが、GKPがない。

寝たまま書く素振りをすると、エネが私の装備一式の山から持ってきてくれた。


《お互い様だろ》

書ける。指は多少震えたが、すぐに収まった。


背中、左脚、――特に脇腹が、重い悲鳴を上げている。だが、耐えられない痛みではない。

適切な治療と、回復薬アルギニンの提供を受けたのだろう。


《戻った?》

「いま来る人が説明してくれるわ。オレもおかげで生き残った。…悪ぃかったな、オレを庇ったって聞いたぜ?乙女の柔肌に、残る傷をつけちまってよ…」

思わず眼を見開く。


ふふふ。

ふははははは。


よりによってお前が。

よりによって私に。

『乙女の柔肌』。


「…何ツボ入ってんだよ。珍しい」

はぁ。笑える。キズに響く。

どこまでも紳士で気のいい、私の友人。

見た目チンピラのくせに。


《責任取ってくれるのか?》

言葉を書いて、見せる。


「え……あ、ぅ…」

怯む。楽しい。楽しすぎる。

「いや、からかってんなテメー!!」

拳を振り上げられ、サッと寝台の上布で身を守る。


《あれから何日》

「三日くらいかな?」

《ミコト》

「外でオレらより元気にしてるよ。…で、よ」


エネは急に、真剣な目で見下ろす。

私も寝台に横たわったまま、真摯に彼を見上げる。


「…取り戻す。手伝ってくれるか?」


当然だ。

返答代わりに、拳を合わせる。


と。

二人の拳が、白く柔らかな両掌に包まれた。

「…わたしも。お手伝いを」


真剣な声音。

白い看護布を頭につけた若い娘が、エネの横にいた。

さっきエネが部屋の外に声をかけていたのは、この美人か。


見覚えがある。

あの横転したガントラックの、運転手だ。


「この人が虫の息のオレたち二人を集落ここまで運んで、手当て着替えの面倒をみてくれたんだ。恩人だぜぇ」

「…そんな大したことはしてないわ」

エネの紹介に、白布を外して美しい黒髪を解いた娘は、真っすぐにこちらを見た。


「わたしは二人に…いいえ、あなたたち三人の、命懸けの優しさに命を救われた身で」

眼を伏せつつも、手繰るように心根を語る。

おとなしい服装だが、左手の薬指、ごつい髑髏の指輪が特異点として目立つ。


「今度はわたしが、妹さんを救いたい。…受けた恩義も返せないような女として、これから先を、諾々と生きていきたくはないから。ね?」

顔を上げ、真摯な眼でこちらを見る。――要は、仲間に加わりたいのか。

ね?といわれてもな。エネと軽く目を合わせる。


「運転なら得意、整備もできる。いいえ、掃除でも洗濯でも食事の用意でも、下働きでも日誌係でも、爆弾背負って特攻でも、命令してくれれば何だってやるわ。召使いが一人増えたと思って、同行させて頂戴。お願いよ」

…なんだその並々ならぬ決意は。


「…嫌だと言っても、ついていくから」

気の所為か、若干エネも引いている眼をしているような。


《モテモテじゃないか》

「うるせー。義理堅い心持ちを、下心に変換すんなや」

はっ。エネに正論で返されるとは。


「じゃあとりあえず改めて。エネだ。駆け出しの狩人ハンター…かな?」

《バツ。最近西部から来た狩人だ》

「わたしはガラティカ。知り合いには、チコと呼ばれているわ。運転を生業に生きてきた」

大きく、力強いまなざし。決意を語るのに興奮したものか、頬をやや上気させている。

言葉遣いは女らしいが、覇気と覚悟は大したものだ。


ぴんと伸びた背筋、身長は並程度にある。

脚が長く、全体に細いがしなやかな印象。きちんとした筋肉骨格の持ち主であることが判る。

背にさらりと流れる美しい黒髪が、動くたび心地良く目を引く。細かく丁寧な手入れをしているのだろう。


やや吊り目がちの凛とした瞳は大人びた印象を与えるが、総合的に見ると年齢は私やエネとあまり変わらないか、もしかすると少し下なのかもしれない。


…まあ、なんだか良くわからないが。

まずは、このプロドライバーに話して貰わねば。


――私がぶざまに敗北した、あの後の出来事を。



※※※



「そう、どこから話せばいいか…」

治療室内。ガラティカ――チコがエネと並び、丸椅子に座って、寝たままの私に語り出す。


「わたしは助けて貰ったあと、怪我もそんなになかったから…後方で休んで、戦線が落ち着いたらリコとお別れをして」

言いながら、ちらりと指輪を見る。

…死んだパートナーか。辛かっただろうな。


「門を突破して、しばらくしたら…砦の中の人たちが連れて来られて、輸送車に載せ始めて」

チグロが連れ出していた、非戦闘員たちだ。

思わず拳を握る。結局、何もできはしなかった。


「それからあの…後ろで見ていた方々が、慌ただしく戻って来て。そのとき、気を失ってたメリさんを連れてきたのを見たの。わたしはびっくりして、あの人たちはどうしたのか、と聞いた」

…『リゲル』『バスケス』そして『室長』と互いに呼び合うあの三人。何者なのか。

尋常な強さではなかった。脇腹が、ずきりと痛みを伝えてくる。


「そうしたら簡単に、『彼女の兄が襲われて死に、それを庇って狩人も死んだ。我々は瀕死の彼女を治療する』とだけ。…あの人たちはそのまま、とても慌てた様子で、妹さんをシップに乗せて一緒に去ってしまった。その場の人たちに、よくやった、報酬はチグロさんと話せ、とだけ言い置いて」

「どの方角に行った?」

「日没のちょうど逆側くらい…北東、ということになるのかしら。正確かは分からないけど」

自信なさげに、エネの真剣な問いに応える。


「…それだけ。ごめんなさい、あまりお役に立てなくて。あとひとつだけ、気休めにもならないかもだけど」

口角を下げつつ、上目遣いに、攫われた娘の兄を見る。


「すごく大切に扱われている感じだった。特別そうな輸送車シップに乗せられて。隣にもうひとり女性がいたみたいだけど、顔はよく見えなかった。…だから」

すぐに危害を加えられる感じではなかったと思う…思います、とチコは話を締めた。


…それは同感だ。

彼らは彼女自身より、彼女の力に興味を示していた。

もしも害したいのならば、その場ですぐに出来ていただろう。


…レギオンたちを操った、未知の『力』。

エネは直接見てはいないが、見当はつくのだろう。目を閉じて苦い顔だ。


《なぜ、どうやって、私たちを助けた?》

「トラックはもうだめになっていたから…わたしたちの報酬は要らないからと言って、あの『バス』をわたしが貰ったの」

…なるほど、あの門扉に使われていた車輌か。

確かに車体は無傷で終わったし、エンジンも生きていた。機転の利くことだ。


「リコのこともあったからか、誰からも文句は言われなかった。わたしはそのバスに、まだ息のあったおふたりを載せて…急いで、どこか近くの集落に運転して行こうと思ったら」

ラクダさんが先導して、ここまで連れてきてくれたのよ。チコはそう言って少し笑った。

――ミコト。ありがとう。

私は相棒への慰労と感謝の念に、思わず目を閉じる。


「あの筋肉チームの人たちや、砦の中の人たちまでも、お二人の応急手当をしてくれていたわ。それがなければ、きっとここまで持たなかったでしょう」

…バルハンの部下と。あのボロを着た砦の人々。


仲間を守り、子供を守り、常に誰かを守るために身を挺したエネの勇気と行動は、きちんと評価されていたのだ。

勿論、この運転手ひとにも。

私はそのおこぼれに預かったにすぎない。


「ここの人たちも、あなたたちの顔をみるなり、すぐに手当ての用意をしてくれて…今に至ります。生き延びてくれて、本当に良かった」

チコはそう言って、はにかみながら微笑んだ。


「…ありがてぇよなぁ。礼は言ったが言いたりねぇ。集落メスの皆にも、…アンタにもな」

ああ。お前の言うとおりだ。

まだ知り合って日の浅いはずの人々との繋がりが、私たちを生かしてくれた。


掌を開き、閉じる。深く、大きく呼吸してみる。

生きている。


…信頼できるか不明な仕事に、行かせるべきではなかった。後悔はある。

だが生き延びた以上は、続きをしっかりと生きよう。

生きなければならない。


助けてくれた全ての人々に、胸を張って、また会えるように。



※※※



朝が来た。

医療棟(廃墟の再利用だが)からガレージまでの道は、脚のダメージのリハビリにはちょうどいい。

半地下空間なので太陽は見えないが、天候を気にしなくていいのは快適だった。


見慣れた家々やジャンクの山、炊事の準備、朝の生活感ある空気を吸いながらしばらく歩くと、私たちの命を繋いでくれたという武装バスが見えてきた。

あの日見た姿と違い、天井に機銃の銃座が一点、堂々と据え付けられていた。

その横で、二人が集落メスの知り合いに手伝って貰いながら車輌の清掃と整備をしている。


「…で、機銃は前のガントラックから引き継いだのよ。エネさん」

「へー、立派なもんだな。でかいし装甲も強化済だし。夜とか並んで寝れそうじゃん」

「ええ、運転席でも助手席でも、もちろん車内空間でも。水も沢山運べるし。エネさんは、四輪シップの所有は初めてなの?」

小首をかしげるチコ。髪がふわりと揺れる。エネが口を尖らせる。


「…エネさん止めね?なんか、…ビミョーに距離を感じるっつーか」

「えー、じゃあ……ダーリン?ご主人様?」

「すげぇ超速で間合い詰めてくんじゃん?!ふつうに呼び捨てでいいってんだよ!」

「ふふ。分かった、エネ。あ、バツさん。おはようございます!」

きびきびと立ち上がって挨拶をする。

《バツでいい》

「そんな、呼び捨ては恐れ多い…」

「なんでだよ!オレと扱い違うのかよ!」

怒るエネ。ふふふ、まあふつうに人間の器の差だろうな。


「あの、言いそびれていて…リコの仇討ち、ありがとうございました」

ふかぶかと頭を下げる。あ、そう言えばそうだったな。

まあほとんどあの老人と戦車の仕事だが。


「バツ…おね………いえ、…師匠、と呼んでいいですか…?」

《狩人になりたいのか?》

「いえ、そういう訳ではないですが」


じゃあなんの師匠なんだ。

…まあ、好きに呼べばいい。

それよりも。


《手掛かりは?》

GKPに書いた私の問いに、二人は並んで首を振る。


居場所の見当がつかなければ、シップを整備したところで出立もできない。

が、あの三人についてのヒントは、皆無に近い。


最初に思いついたのは唯一、奴等と繋がりを持つと思われる者――あの場の戦士たちのまとめ役だった人物、『チグロ』の線を追うことだ。


エネたち、チコたち、どちらのチームも奴に直接誘われて参加している。片手片脚が義手義足というのは、それなりに目立つ容貌でもある。

それは何か、最初の手掛かりとならないか――と、期待したのだが。


エネはチグロと接触したのは、旅先で見つけた廃坑に入ってみるか半日迷った際に、偶々通り掛かったとのことで。

チコはチグロと接触しておらず、死んだ相棒が持ってきた仕事で場所や経緯は曖昧とのこと。

残念ながら、この線も両方すぐに行き詰まってしまったのだった。


私たちの帰還と回復を喜んでくれて(宴会の口実にされた気がしないでもないが)、一席設けてくれた集落メスの知り合い面々にも聞いてみたが、当然ながら有効な手掛かりはなかった。


動くのはダメージの回復次第ではあるが、行き先未定ではどうしようもない。

最悪、ガラクデルマに立ち戻るか――それにしても、既に無人だろうし、何かが見つかる可能性は限りなく低い。


「そう言えば――『何でも』してくれるって?」

エネが屈んでバスの足廻りを見ながら、チコに問う。

「ええ、言ってくれればなんでも。遠慮は一切要らないわ。よろこんで肩でも揉むし、足でも洗うわよ。何なら…」

「いやそういうのはいんだけどさ…。運転頼めるのかなって」

エネの願いに、チコは目を丸くする。

「この車輌、引き続きわたしの運転でいいの?」

「ああ、むしろありがてぇよ。オレらも荷物も乗っけてもらえる。オレは暫くクルマが無ぇしな」

「こっちも望むところよ、運転大好きだから。…これからもよろしくね、バスちゃん」

車体のほうを向いて、にっこりと微笑む。

バスちゃん。うーん。


《名前。要検討》

簡単に書いて、二人に提案する。


「確かに何か、識別名がほしい所ですね。これから保有する車輌シップも増えるかもしれませんし」

「そーだなー…元がアレだろ、砦門に使われてたんだよな」

「そうね」

よし、とエネが膝を打つ。


「『地獄の門』号!どう??強そーだろ!?」

お前は名付けのセンスまでがチンピラすぎる。


「いい…!それで!」

眼をキラキラさせて応えるチコ。

いいのか。本当か。お前が運転するんだぞ?


「じゃあ黒ベースの塗装で、このへんにドクロを描いてよ…トゲトゲがここと…」

「ふむふむ…」

すっかり仲良しのご様子で。

まぁ……お前らがいいならいいか……。


……急に、ミコトに会いたくなってきた。

少し遠乗りして来るかな。運動も必要だし。


心配は常にあるが、焦ってばかりでもしようがない。

私たちの辿れる、最短経路を行くのみだ。



※※※



引きつる背筋を伸ばしつつ、遠乗り準備のため、一旦、治療室のある棟へと戻ろうとしたとき。


今、出て行ったのは。

後ろ姿だったが…あの金髪は、見覚えがある。

タカラビ。どういうつもりか『王』を自称する美形の変態。

また集落メスに来ていたのか。


…そういえばあいつも、メリの力を知っている様子だった。

急いで追って出たが、その姿は既になかった。


すっかり占拠させてもらっている、医務室に戻る。室内に特に変わりはない。

まあ盗まれるようなものもないが…。

見渡していると、壁の傷痕に刻まれた文字に気付いた。こんなものがあったか?


『現場に学び、記録に学べ』。


そう読める。

なんだこれは。意味を考えるでもなく、考える。


現場に学ぶのは、狩人の基本ではある。

だが学べる記録情報など、旧文明の廃墟漁りの連中しか持ち合わせないだろう。

集落の記録帳でも見ろと…


………そうか。

なぜ気づかなかったのか。


――私たちにはもう一人、チグロに会ったはずの知人が居たのだ。


私は机の上に置いていた、読みかけの、赤い装丁の日誌を見た。



※※※



エピローグ:彼女の日誌 


>>>( from pritate-note, GeeK-Pad, mm/dd)

――――――――――――――――――――

本日の ∩(^ΦωΦ^)∩ 運転手めも


★NEWS:称号GET!《集落公認狩人》

  // ←盛大なお見送り!Thaaaanks!


★チーム内整備・配車状況とか:

・(゜∀゜)/ だぁりん (乗機なし)     // 助手席♡

・(゜x゜)/ ねぇさま 『ミコト』機銃x2  // 圧倒的最強、、

・(- _ -;)/ めぇちゃん (行方不明(TT)) // ←探す(๑•̀ㅂ•́)و✧

・(゜∀゜)/ わたし 『地獄乃門ヘルズゲート』機銃x1 // かっけー!


★運搬物資:

ご飯 携帯食と生鮮品、充分だと思う

お水 かなりたっぷり持たせてくれた。感謝!

燃料 心配無用

その他日用品・整備品、etc


★次の目的地:砂海の沿岸にある東方廃墟群の先、大オアシス・クドク

(赤男爵レッドバロンの日誌に書いてあった、チグロ氏の居場所)



★Note:


今までありがとう、リコ。

わたしはまた、いい人たちと出会えたよ。


なんとか、上を向いて生きていけそうだよ。



――――――――――――――――――――

(See you next update...)>>>



(後書き)

第一群の第二章完となります。毎週末のPVや評価(!)に支えていただきました。


しかし読まれた方に意味の届く文章を書けているのか?すら書き手側には判断つかないので

もしよろしければお気軽に★で評価などいただけると今後の進行に幸いです。


第一群は少々の構想タイムとして、同世界の第二群を次から暫く更新します。

よろしければそちらもお付き合いください。


ありがとうございました!良い世紀末を!

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