ガラクデルマ攻防戦(3)
- Characters -
バツ:ラクダ(機獣)のミコトと旅をする若い狩人。怪物狩りを得意とする。頼れる女戦士だがやや脳筋気味。
エネ:本名はアイン・グライフ。妹をパートナーとするハンターの青年。ノリは良いが頭は悪い。
メリ:本名はマイラ・グライフ。エネの妹。暴走する血筋の末裔で、兄と共に静かな隠居が目的。
- Previously -
野盗の砦ガラクデルマ攻略戦において、エネの活躍とバツの鉄拳により失態の被害は最小限に留めることに成功。流れにより大将代理として、エネが戦士と車輛の総指揮を執ることになったが。
「…いや。お前たちは、良く働いたと思う」
そう言いながら、リゲルが騎乗から地に降りた。
影のように寄り添っていた男から急に手綱を渡され、チグロが少し慌てている。
…こいつ、今日初めて喋ったんじゃないのか。
まあ、私に言える事ではないが。
「前哨戦で相当数の戦闘員を傷つけ、無力化したのを確認していた。砦の規模から考えて、防衛の無傷な兵は残りわずかのはずだ」
緊急の作戦会議の中。普段無口な男の深みのある声が、淡々と、静かに語る。
「対して、こちらの余力は十分にある。指揮はともかく、お前たち兵士の側は優秀だったということだ」
作戦会議に参加していたメンバーが、活力に満ちた表情で視線を交わし始める。
…なるほど、これが『褒め』。
「あの二つの銃座は伏兵だったが、姿を現した今はただの牽制に過ぎない。あれを黙らせてくれれば」
鋭い瞳が真っ直ぐに、砦を見据える。
「俺が侵入して、内部から門を開けよう」
単騎駆けで、そんなことができるのか。
いや、この男ならできるのかもしれない。
実用的だが飾り気のない、黒服黒髪の姿。赤銅色の小さな片耳飾りだけが、端正な顔を十分に引き立たせている。
ただ立っているだけに見えるが、完璧なバランスの体幹と目配りの隙の無さが、底知れない強さを示していた。
――見たい。この男と、ラクダの動きを。
「よぉし、じゃあこのプランで行っちゃうぞ!全員配置!」
ぱん、と手を叩く大将代理。頷く兵たち。
皆頑張っている。私も役割を全うしよう。
※※※
「ひぇぇ、緊張するぅ…」
「バツに教わった通りにやれば大丈夫だ!」
発進準備が整ったのは、グライフ兄妹のオート。
兄は運転、妹は貸したグレネードランチャーを携えている。
高所の榴弾は窓に放り込むというより、櫓の天井中央を撃つ意識で狙うことで、確実に致命部分に当てることができる。
グレを用いたコア突は、軽量強襲機の本領発揮といえるだろう。
ただし敵陣は、門を狙えば右手と左手、右手を狙えば左手と門…というように、三点が効果的に連携してそれぞれを護っている。
門からの出兵を用いることで、前後だけでなく上下の挟み撃ちになっていることも厄介だ。
ならば、三点を同時に攻略すれば良い。
ベテランであるカンジキ老の発案により、少数精鋭での先攻突貫が採用されたのだった。
「行くぜえぇぇぇ!!」
唸りを上げ、高速で兄妹のオートが右銃座に突っ込む。
同時に、私とミコトは左銃座へ。
そして中央の門へは、赤い小型戦車が突進した。
他の兵たちは支給の小ボウガンで銃座の牽制を試みる。
左右の銃座は目立つ戦車を上から狙い、轟音を立てて銃弾を吐き始めた。
想定通りだ。
放置して突っ込まれ、あの砦門の車体が破壊されれば全てが終わるのだから、その判断は正しい。
だが「朱ノ槍」号の装甲は、上部まできっちりと仕上げられている。機銃弾を弾き飛ばしつつ、その重量は門へと突っ込む――
しかし。
戦車は軽い接吻のように門扉の車体に接触するや、その猛進は急停止した。
これも、予定通り。
老人の見立てでは、砦門のバスはスクラップを詰め込んだ質量の塊であろうというものだった。ならば激突したところで、容易に吹き飛ばせるかは不明。
そう。彼の戦車の役割は、ゼロ距離に居座っての出兵の封鎖だ。
そして、その間に。
「なむさん!」
メリの奇妙な祈りと共に、狙い澄ましたグレネード弾が右手銃座に向かって発射された。
逆側から隙を突かせないため、攻撃は同時でなければならない。私は片手で持った火箭槍を、騎乗で大きく振りかぶり――
「…っっ!」
気合を吐きつつの、全力投擲。
宙に放たれた槍が、左手銃座へと一直線に向かう。
右手の銃座櫓が、榴弾の爆発で吹っ飛んだ。
左手の銃座櫓も、槍は狙い通りに突き刺さった。
瞬間、火箭の機構が衝撃で発動する。
悲鳴と共に――指向性爆破が櫓内を貫通、逆側から一瞬の焔が溢れるのが見えた。
沈黙した両銃座の破片が、ゆっくりと宙を舞う。
…よし。成功だ。
「よくやった。あとは任せろ」
中央から悠々と、やがて黒い疾風のように猛加速し、リゲルが彼のラクダを駆り砦へ向かった。
その手には、私と同じく火箭槍を選択している。
彼を乗せたラクダの逆関節の二脚は、助走からの跳躍で軽々と味方の戦車の上へと乗った。
そして彼らはそれを踏み台に、躊躇うことなくその反対側――砦内へ。
打撃音。爆発音。
金属音。悲鳴。
沈黙。
「ど…どうなんだ?大丈夫なのか…」
エネが呟く。
「もし…もし予想より多い人数が中に残ってたら、あいつは帰ってこれないことに…」
焦れた大将代理の声は、門前に集まった全員の思いだった。
…大丈夫だ。きっと開く。開いてくれ。
無言の祈りに、応えるように。
門扉の車体のエンジン音が、荒野に響き渡った。
――それは運転席の強奪に、成功した証左。
内壁側のバス、外壁側の戦車が、歩調を合わせ、壁を撫でるように移動する。
弱点の最奥、隠し続けた秘所が、顕わになった。
この砦が必死に護ってきた空間が、眼前に開く。
「よっしゃあああ!突撃ィ!!」
大将代理の激と共に、待ち構えていた兵たちが、鬨の声を上げて内部へと殺到していった。
※※※
壁内は混乱の様相だが、壁外は静かだ。
死者たちはもう、何も語らない。
「さて。儂はそろそろトンズラするかの」
思わず、戦車の上のカンジキ老を見る。
勝敗は決したが、中途半端ではないのか。
あとは祝勝を味わうことだけのはずだ。
「こっから先は、あまり好きな展開ではなくてな。個人の趣味だけど」
人間と人間の争いに、勝敗はあっても決着などないのだよ、と呟く。
…この老人は、この地獄の荒野で、これまで何を見てきたのか。
その超然とした表情からは、何も伺い知ることは出来ない。
「そうだ、儂と同じ狩人のお嬢ちゃんよ。これを貰ってくれんか」
そう言ってカンジキ老が差し出したのは、珍しい紙の本だった。
「…?」
古ぼけているが豪勢な、赤い表紙。表題はない。
受け取り、軽く開いてみる。これは……日誌?
「儂の狩人人生の集大成、『レッドバロンの冒険』最新第六巻!見どころのある若者に託すことにしておる!どこぞの本棚に死蔵されてホコリを被るより、よほど生きるであろうてな!」
矍鑠と笑う老人。
今ひとつ価値を測りかねる…が、この先達の過去にはちょうど興味を抱いたところではある。
《ありがとうございます》
本は懐に仕舞い込み、礼を書く。ウンウンと気のいい老人は満足気に頷いて見せた。
「誘いの口が達者で参加を決めたがな、やはり儂はレギオン相手が一番ラクにやれるの」
ま、得意ごとは燃料、苦手ごともまた燃料――と。
吟うように語りつつ、カンジキ老は愛車の中へと移動して。
彼の小さな赤い戦車は、トロトロと砂地の彼方へ消えた。
私とミコトだけが、それを見送る。
そろそろ、日が傾き始めていた。
――自由だな。
荒野への適応、行き着くところは一種の道楽か。
さて。まだ戦そのものは完了していない。
とはいえ、闘える敵が居ない以上は、もう小競り合いすらないはずではある。
苦労してこじ開けた入口側を見ると、黒服の男が砦内から出てきたのが遠目に見えた。
あの少々ぎこちない動きは、チグロ。
彼が引いているのは、鉄の鎖…そして。
……なにを。
なにをやっている。
私は砂を蹴り、幼い子供たちをまるで奴隷のように拘束し引き連れている、その男の元へ走った。
※※※
《説明を》
短文と視線に全力を込め、手でGKPを叩く。
「…説明も何も。見ての通りですよ。ここから移動させます」
チグロは、嘲りと興奮の混ざった表情で語る。
もはや慇懃な礼儀正しさはかなぐり捨てたのか、その本性を隠そうとはしていない。
「それともここに置いていきますか?ここの防衛力はもう無い。女子供だけ。野盗に狙われる。レギオンに殺される。それが彼らのあるべき運命だとでも?」
違う。
そうは言わない。言わないが。
「ならば全うな労働力としつつ、正しい教育を」
「どうしたチグロ。トラブルか」
背後を見ると、観戦席にいた二人がいた。
その輸送用シップは…これを運ぶため、か。
「騎兵の女か。見事な働きだった。自分ももっと鍛えねばと奮い立ったわ。報酬は期待しろ」
「マジでめっちゃ強かったっすねえ…ウチのリゲルくんと同郷、とか言わないよね?つーか」
高い音を立て、重厚な男が無表情のまま、口の軽い女の後頭部を叩く。
「あ、ゴメンね室長、言い過ぎた?へへへへ」
「バスケス…なぜお前はいつも軽薄なんだ…」
…黒衣のリゲルは、こいつらの仲間だったのか。
違う。
野盗退治を依頼した、周辺集落の者などでは決してない。
何か…もっと、大きな『何か』の気配がある。
今回の裏側の筋書きは、一体何だったのか。
私たちの血と命は、何に利用されたのか。
捕虜連行を止めるか。しかし、どうすればいい。
仲間…エネたちはどこに――
「バツ!どこ!来て!!助けて!!」
「!」
メリの悲鳴が、砦の内部から響いた。
私は躊躇なく、ミコトと並んで門から砦の中へと踏み込んだ。
(続)
先週はなんと 70回 以上ものプレビュー頂けた模様です、ありがとうございました!




