ガラクデルマ攻防戦(2)
- 主要登場人物紹介 -
バツ:ラクダ(機獣)のミコトと旅をする若い狩人。怪物狩りを得意とする。頼れる女戦士だがやや脳筋気味。
エネ:本名はアイン・グライフ。妹をパートナーとするハンターの青年。ノリは良いが頭は悪い。
メリ:本名はマイラ・グライフ。エネの妹。暴走する血筋の末裔で、兄と共に静かな隠居が目的。
(Previously) 狩人バツとグライフ兄妹を含む戦士たち・車両たちによる、野盗の砦ガラクデルマ攻め。序盤は優勢に見えた彼らだったが、隠し銃座により大きな被害が出てしまう。大将たるバルハンが事態を収拾できないなか、生存者の救出に向かうのは。
「勝手に助け行くなゴラァ!雑魚ガキ共が、舞い上がってんじゃあねぇぞ!」
血煙と砂煙の、戦禍の惨状。
奇襲を受け、体勢を立て直せない大将が、虚勢を保つべく無益に吠えたてる。
「うるせぇ!雑魚ガキ共だってなぁ、助かる奴をグズグズ見捨てられねぇんだよ!」
「エネ兄、気にすることない!行こう!GO-GO!」
判断の遅い指揮者に、完全に背を向けて。
兄妹の二輪が、横転した四輪の援護へ向かう。
私はミコトに騎乗したまま、その後に従う。
「んでェ!まずは運転手を助ける!」
そうだ。
その間に私は、狩人の仕事をする。
正面には閉じた砦の門、その手前の左右の塔に銃座、という配置。
逃げてきたガントラックの横転地点は、まだ右側銃座の射程内。
左側の銃座からは距離がある。
ミコトに右銃座の牽制射撃を指示した後、彼の鞍上から砂地に飛び降り、構えた。
右手に手慣れた武器、火箭槍。
正面には――獰猛な、機械獣。
短く息を吐き、気合を入れた。
※※※
火箭槍。
それは鉄パイプに土を詰めた、簡素な作りの重量鈍器だ。
遠心力を利用した薙ぎ払いは、人間相手ならば吹き飛ばすほどの威力を発揮する。
が、鋼鉄製のレギオンにはよほどでなければ打撃は有効ではない。
そこで東部・西部を問わず、各地で製作されていたこの簡易武器は、共通のたったひとつの使い捨て機能を持つ進化を遂げた。
マムの友人の製造職人は、このジャンク槍を指して別の名前で呼んでいた――
――杭打器と。
槍を両手で、機械の獣に向けて構える。
獣の注意は、確実にこちらに向いた。
獣と狩人が、互いに睨み合う。
呼吸は深く、集中を乱さず。
機会は一度、勝負は一瞬。
その選択は、爪か牙か。
…牙!
空気そのものが襲い掛かるかのような衝撃を伴い、軽トラが私の脳髄を噛み砕こうと跳躍した。
全身に力を込め、槍を突き出した――その瞬間。
「へ〜い!タクシ〜!」
妙な声と共に唐突に横から現れた車体が、獣の身体にぶつかり吹き飛ばした。
急制動した赤い戦車の上、ハッチを開けて姿を現したその車長は。
「まったく、若者たちは行動が早いわい!しかしどうやら、おヌシも狩人だったのだな?違う?」
当然、カンジキ老人だ。
緊張が解け、思わず苦笑いが漏れる。
獣は超重量の高速タックルに一撃で関節部が破壊され、砂上で足掻いている。
「トドメは儂がやろうか?」
手で申し出を制する。大丈夫、任せてもらおう。
ミコトが抑えているとはいえ敵の銃座の射程内だ。戦車機銃で片付けるのでは時間が掛かる。
一足で砂上に踏み込み、タカクラを上から相手の口内に突き刺した。
――さらば。
槍筒内に仕込まれた火薬が、炸裂する。
軍手に伝わる、熱と衝撃。
瞬間、鉄の胎から産み出された槍先、破壊と暴力が濃縮された超速の射出が、
轟音と共に、機械の獣の金属の脳髄を貫通し。
頭部の半分以上を、粉々に消し飛ばした。
深々と地に突き刺さった杭の周囲の砂までも吹き散らし、さながら小さな爆心地の様相だ。
鋼鉄を点で穿ち、レギオンに死を与え得る、ほとんど唯一の打撃武器。
それが、火箭槍である。
「よし、長居は無用じゃ!戻るか!」
いや、エネたちを置いて戻る気にはなれない。
機銃弾程度ならば、この装甲なら大丈夫だろう。
首を振り、撃ち終わった槍を抱え、戦車の陰に隠れて様子を伺う。
エネが、シップの運転手を助け起こしていた。
※※※
「そんなワケが…ねぇだろッ!!」
鈍い音が、砂の荒野に響いた。
助け起こした相手の襟元を掴んだグライフ兄が、その黒髪の女の額に豪快なヘッドバットを炸裂させていた。
…そこは平手打ちとかじゃないんだな。
「…いった…ぃ…」
「いいかッ!お前が!先に死んでたら!相棒にもそこで死んでほしいとか思うのかよッ!」
横転したシップを運転していた女が、エネの言葉に目を見開く。
相棒を永遠に失ったその瞳に、やや光が戻る。
「…いいえ……でも、わたしは…リコを…置い」
「ああ、もうッ!生きろ!生きろ生きろ、小難しいことは生き延びてから考えやがれ!バカになれっ!」
がくんがくんと肩を掴んで前後に揺する。
と。
「……ごめんなさい。少しだけ」
女が、エネの胸元に身体を預けた。一瞬、哀しみを飲み込むように全身を震わせる。
「…ありがとう、もう大丈夫。ぜんぶ貴方の言う通りだわ。目が覚めた、行きましょう」
「よし!」
理屈ではない心意気でなんとかしたグライフ兄は、オートの後部席に彼女を押し載せた。
「でェ!次はッ!」
「えっ?!どこいくの?!」
「メリ、お前はその姉ちゃん連れて逃げろ!真っ直ぐ帰るくらい運転できるだろ!」
「は――?いや、いいや!わかった!!」
反論の呑み込みが早い。信頼のなせる業だろう。
妹は兄の言う通り、救助者を載せて後陣へ戻る。
「……しゃッ!」
グライフ兄は、砂地を蹴立てて敵方向に走り出した。
やがて反対側――左の銃座塔に自ら近寄り、滑り込むように安定姿勢を取ると、
「せいやっ!」
昨日支給されていた小型ボウガンの矢を、高所の銃座に向けて放った。
撃ち手に当たりはしなかったが、驚いた銃座に迷いが生じる。
「すまねぇ!兄ちゃん!」
「気にすんな!さっさと行け!」
次矢を装填する彼の横を、負傷者連れのバイクが何台か逃げ過ぎてゆく。
――凄いな。お前は。
命懸けで、仲間の脱出を援護するのか。
お前が助けているそいつらは昨夜、お前を嗤った奴らなのに。
「よっしゃ任務完了!でェ、逃げ……」
動けるもの全員が逃げた以上、標的は自動的にエネ自身になる。
だが逃げようにも移動手段がない。
「…あ。詰んだ?」
砂を跳ね叩き、エネに着弾の火線が迫る。
助けに走っても間に合わない――血煙を覚悟した瞬間。
その身体が大きく引き摺られ、砂地をバウンドしながら左銃座の射程距離から離れていった。
「いででで!削れる!ケツ削れる!ミコっちゃんタンマ!」
間一髪。
ミコトが、エネの片脚を咥えて撤退していた。
思わず安堵の溜息が漏れ、槍に凭れる。
――ありがとう、ミコト。
「見たか!生還!!!」
自陣で調子に乗ってポーズを取るエネ。
後ろから引っ叩くメリ。
兵たちから挙がる、どよめきと大歓声。
一人の勇者が、誕生した瞬間だった。
※※※
「で?何か?理由はあるのか?」
不機嫌なバルハンの低い声が、足元に座らせた部下たちを容赦なく詰める。
「いや、後ろから撃たれちゃどうしたってよ…」
「ん〜?言い訳はいいから理由を言えよ。早く」
バギーの座席にふんぞり返り、イライラとした感情を隠そうともしないその姿は。
もはや喜劇を通り越した、悲劇の王だ。
「おいもういいかげんに」
「お前は黙ってろクソガキッ!」
エネに激高したバルハンが、立ち上がる。
呼吸が荒い。震えている。
無理もない。もはや兵の心は、元の子飼いまで含めて完全に彼にある。
無能ぶりを対比する形で晒されれば、その根拠なきプライドはズタボロだろう。
「どいつもこいつも!弱い!指示を聞かない!!この結果は俺様の指揮を無視したからだぞ!分かってんのかこのクソクサレのケツ穴どもッ!!」
ヒステリックに叫び、顔を真っ赤にして拳を震わせ、
「もういい、全員突撃、全員死ね、倒れて死んで俺に詫びろッッッ!!!」
もはや意味不明な自分の言葉に激高したバルハンが、感情のままに拳を振り上げ、エネを狙い――
よし。
狙い澄まして割り込んだ私は、左の肩裏で庇う形でその駄々を受けた。
「バツ!?」
高い音の割に腰が入っていない、そんな拳など蚊ほども効かない。雑魚い打撃にも、程がある。
一発は、一発だな。
睨み上げ、軍手を嵌めた拳を締める。
正気を失った男の鳩尾に、渾身の右を叩き込む。
「おごっッ!」
たまらず折れ曲がった身体の、顎を打ち上げる。
「ぐはッ!!」
精神も肉体も惰弱な大男は鉄兜が吹っ飛び、間の抜けた格好で砂地に無様にひっくり返った。
すでに白目を剥いて、意識が飛んでいる。
ちらりとまとめ役のチグロを見る。
彼は仕方ありませんね、と言わんばかりに肩を竦めて見せた。
早くやっときゃよかった――は、いいとして。
エネを見る。兵たちに何か喋ってやってくれ。
「あ、あー…流れ弾!流れ弾で、大将が気絶しちまったぁ!こっから先は、バツが…」
首を振る。
声の出ないものに、兵の指揮は無理だ。
「…コホン。オレが!代わりに!指揮を執る!!」
押し付ける形になってしまった。が、多分――
少し間を置いて、それは大きな歓声が挙がった。
その士気は死傷者を出してなお、衰えているようには思えない。
…ほら。お前なら、やれる。
「次!行くぜぇぇ!」
『応!』
「砦!潰すぞ!!」
『応!!』
もはや何を言っても、兵が沸く。
そのすぐ後ろから、妹が心配そうに――それでいてどこか誇らしげに――兄の姿を、眺めていた。
さて。
新規蒔き直しはいいとして、少々作戦が要る。
私は再び、新たな替えのタカクラを携え、ミコトの鞍に乗せてもらった。
頭上の青空を仰ぐ。まだ、日は高い。
(続)
先週は 50 名以上もの御方にプレビュー頂けた模様です、ありがとうございました!




