↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わってしまった世界  作者: 富士山汁
1/2

悪魔の子

「悪魔……」

親にそう言われた少女はどう思ったのだろう

僕はその悪魔に声をかけてみた

「ねえ」

「……」

「ねえ、君」

「…………」

「顔をあげて。顔を見せてよ」

しかし少女は顔をあげない

答えもしない

闇の中、ほんやりと体操座りをしているだけ。

だが、僕は気にせず、声をかける

「ねえ」

「…………」

「ねえ君」

「ねえ、初ちゃん」

「…………」

「菜峰初ちゃん、顔をあげて」

そう、僕は少女の名前を呼んだ

初

「初ちゃん」

「…………」

「初ちゃん、聞こえてる?」

するとそこで初めて、

「……さい」

反応があった

「ん?」

僕が聞き返すと、少女が言った。

「うるさい。……声をかけないで」

僕は微笑む

「なんだ、ちゃんと答えられるじゃん」

「うるさい!もう私に話しかけるな!」

少女が怒鳴る。

だがその声は暗い。

当然だ。

少女はついこの間、親に殺されかけたのだ。

悪魔だ。

悪魔の子だ。

悪魔の子は殺さねばならない。

親はきっとそう言ったのだろう。

人間は相変わらず悲しいくらいに醜い。

資料によると、少女は母親に包丁で襲われ、父親はもう嫌だと叫びながら、首を吊ったらしい。

そして少女の心は、傲慢な親にやりたい放題され、深く傷ついた。

そしていまは、この研究施設という牢獄に押し込められている。

柵の向こうー暗い部屋の隅で、自分を守るように体操座りをしている少女に向かって、僕はもう一度言う。

「ねえ初ちゃん。君のかわいい顔をしっかり覚えたいから、顔をあげて見せてよ」

その言葉に、少女がゆっくりと顔をあげた。

たしかまだ七歳のはずだった。

ちょうど僕の弟の、勇人と同い年。

少女の瞳は、あれほどのことがあったのに、悲しいくらいに真っ直ぐで、それでいてかすかに絶望が滲んでいた。

少女が言った。

「……誰なの、あなた。私を殺したいの?」

僕はそれに首をかしげる。

「なぜ僕が君を殺すの?」

「私が悪魔だから」

と少女はすぐに答える。

「悪魔?」

「うん」

「誰が言ったの?」

「お父さんと、お母さんが……」

「で、君は悪魔なの?」

「…………」

「僕は、人間に見えるけど」

だがそれに、初の瞳が揺れる。

右手で苦しそうに胸を押さえ、

「で、でも……お父さんと、お母さんが……」

「他の人の意見はどうでもいい。君はどう思ってるの?」

少女は驚いた顔で、こちらを見る。

「わ、私は……」

声が震えている。

「君は、悪魔なの?」

「わかんない」

「分かるはずだよ?自分のことなんだから」

「でも、わかんない!」

急に初が叫んだ。

「お父さんと、お母さんは、私のことを悪魔だって、言ったの!だから死ぬべきだって!」

「…………」

「私が生きていたら、悪いことばかり起きるからー死ななきゃいけないって!だから……だからいつも優しかったお母さんが、急に包丁を出して……」

「…………」

「みんな、生きてちゃだめだって、私に言った。私は悪魔だから。世界を壊してしまうから」

言葉が止まる。

初の瞳から涙がこぼれだす。

その瞳は助けを求めているようだった。

「で、結局君はバケモノなの?」

僕は聞いた。

少女の顔が歪む。

「わかんないって、言ってるでしょ!」

「親に死ねと言われた。生きてちゃだめだと言われた。悪魔だバケモノだと言われた。で、だからそれで?死ぬべきなの?」

「…………」

「君は死にたいの?」

「わ、私は……」

と、声が震える。

かわいらしい、七歳の少女の声。

するとそこで、背後から声がかかった。

「彼女になにを話しても無駄ですよ。記憶を操作しますから」

僕は振り返る。するとそこには、この研究施設の職員の一人がいた。

すると急に初の表情が冷めた。

口を閉じてしまった。

会話は終わった。

「そろそろ、例の実験が本格的に始まります、帰ってください」

職員は冷たく言い放った。

僕は素直にうなずき、歩きだそうとすると、牢の中の悪魔が言った。

「もう、いっちゃうの?」

僕は振り返る。

すると、初が顔をあげている。

僕は答える。

「うん……僕には、僕の戦いがあるから。だから、君もそこで頑張りなさい。そしたらいつか、君をそこから出してあげる。」

「それは……私に生きろって言ってるの?」

僕は答えず、ただ微笑んで、

「また会おう、悪魔ちゃん」

少女が聞いてきた。

「あなたは……あなたはなんのために生きているの?」

その問いに答えるのは難しくなかった。

だから、僕はあっさり答えて見せた。

なんのために生きているのか?

それは、

「自分のためさ。それじゃあ、お互い生きていたらまた会おう」

僕はそれだけを告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。