8
リリアンが大失敗したお茶会からひと月後、一度婚約のことも含め、話し合おうということになり、アイゼンバルー伯爵様とジークリオン様がフリューゲルス家にいらしていただけることになりました。
お母様のお部屋で作戦会議をした後から今日まで、マナーや話術などの淑女教育はもちろん、文官であるジークリオン様のお仕事のことや、職場である王城の第一区画部分の配置、周辺国などの情勢など、思わず首をかしげてしまうような勉強をみっちりやりました。
ジークリオン様のことを知りたくてハンス兄様にジークリオン様のことを聞いたら、意地悪をして教えてくれません。
「ちゃんとリリアンの目で確かめるといいよ。」
と、言われてしまいました。
勉強に関しては今はまだまだですが、先生方からのお褒めの言葉をいただいたので少し自信がつきました。このまま3年後の私の成人の時に開かれる予定のお披露目式をする頃には、ジークリオン様の婚約者が務まるようになるかしら。
「そのくらい派手な方がいいわよ。今まで地味な色のドレスばっかり着て、可愛いらしさがなかったんだもの。ああ、残念ねえ。夜会ならもっと大胆なデザインのドレスも着せることができたのに・・・。」
「色が白いから鮮やかなブルーが映えますわ!髪をアップにしましょう。素敵です。リリアン様!」
「奥様、夜会用のドレスならお披露目の時に着れば・・・」
「そうね!その手があったわ!早速マダムに連絡してデザインを決めなくては!!」
「リリー、よく似合っッテル!」
「お母様!お披露目はまだまだ先ですわ!」
「ええ~?準備してたら3年なんてあっという間よ。」
首元まであるレースでデコルテ部分は隠れているし、胸と腰の部分が切り返しになっているのでそんなに大胆ではないデザインのはずなのに、いつも着ないようなマリンブルーのドレスを着て、なんとなく気恥ずかしくて落ち着かない私はお母様と侍女さんたちにされるがままになっていました。
支度が整っていくうちに緊張してきました。
まずは、婚約することを了承して、それで趣味を聞いて、お仕事の話も聞いて。いや、まずは時候の挨拶から・・・!!
「リリアンちゃん。」
お母様の呼びかけで我に返ります。また考え込んでしまいました。
「大丈夫よ。ジークリオン君もこんなにかわいいリリアンちゃんを見たらめろめろのらぶらぶよ。」
「カトリーナ?『めろめろ』ってナンダ?」
「リリアンに夢中ってことよ。」
「メロ~メロ~、めろめろ。ウン、よし覚エタ。カトリーナはいい言葉をたくさん知っててスゴイナ。」
「お母様!変な言葉を覚えさせないでください。シルフィも覚えなくていいです~。」
「リリアンちゃん、ジークリオン君に渡す『あれ』はちゃんと用意してあるの?」
「はい、お母様。ばっちりです。」
そこに家令がお客様の到着を知らせに来ました。
「では、行きましょうか。ここからは気を引き締めていきましょう。」
お母様がパンッと、手を叩くと迅速に動き出す侍女たち。今日は失敗をしてジークリオン様の眉間のしわを作らないようにしなければ。
お母様、私の順に応接室に向かいます。なんだか緊張してきました。指先をギュッと握りこみます。
「お、お母様。私、わらえてますか?」
「そうね、少し硬いわね。でもかわいいから大丈夫よ。安心して。私もお父様もいるわ。」
「は、はい。」
そう言われてみても、また変な事をしてしまわないかと考えると胃のあたりがギュッとなります。
応接室の扉を家令がノックしようとすると中からハンス兄様とジークリオン様の大きな声が聞こえてきました。
「なんでいつもお前はそうなんだ!先走るなと言ってるだろ!」
「好きでもない奴と婚約なんてできるわけないだろ。」
「だからって破棄しようなんて!」
「お前にも前から言ってただろ。双方の気持ちがない婚約なんて無駄だって。」
「じゃあ、お前の気持ちは・・・!!」
これ以上聞いてはダメだと思い、扉に近づいて思い切りバタンと扉を開けました。中には大声を出していたハンス兄様とジークリオン様、難しい顔をしているお父様とアイゼンバルー伯爵がいらっしゃいましたが、扉を開けたのが私だと認識すると『まずい、聞かれた』みたいな顔をして固まってしまいました。
「本日はお越しいただいて誠にありがとうございます。フリューゲルス家第三子リリアンでございます。
この度は婚約の運びとなりましたこと、心よりうれしく思います。」
もう少しで終わります。このまま笑顔のまま言い切りたい・・・。
「ジークリオン様、幾久しくよろしくお願いいたします。アイゼンバルー、フリューゲルス、両家の名に恥じぬよう精進してまいります。」
胸がずきずきしてきました。息継ぎができません。まるで裏庭の池で溺れてしまった時のようです。
でもあの時と決定的に違うのは、ジークリオン様は助けてはくれないところです。
最後に婚約の証を交換して終わりですがこの様子だと交換は出来なさそうですね。
「こちらが婚約の証になります。」
すぐそばに控えていた侍女に渡します。涙が出そうなのを無理やり笑顔で瞳に留めます。
「申し訳ありませんが、今日はこれで失礼いたします。皆さまはこのままお過ごしください。お詫びは改めてさせていただきますわ。」
最後、根性で笑い切ります。ジークリオン様の方を見て・・・
「!!」
「ごきげんよう」
渾身の笑顔で礼をして応接室を『退場』させていただきました。
カトリーナ「こんの男ども!そこに正座なさい!!!!」
ハ、ド、ジ、ジ父「!!!!」




