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私が部屋に足を踏み入れた瞬間、部屋の中にいる人達の間に一瞬にして沈黙が降りてきました。
私の格好が普段着ないような大人っぽいドレスだからでしょうか、お父様とハンス兄様までもがぽかんと呆けた顔をしてこちらを見ています。
首元の首飾りが光を反射してキラキラと光ります。この場のいたたまれない空気を感じて足がすくんできます。私、何か作法を間違えたかしら・・・。
最初に金縛りが解けたのはリンゼイ兄様のようでした。
「リリアン、驚いたな! 」
そう言って近づいてこようとしたリンゼイ兄様の前にすっと体を滑らせて、ジークリオン様は私のもとにひざまずきながら右手にキスを落とします。そのまま流れるような動作で私の隣に立ち、私に向けて淡く微笑みました。
その場に感嘆とも、なんとも言えないため息が漂います。人々の間に会話が戻ってきましたが、私はすでに逃げ出したい気分です。
こんな風になるんだったらいつもの通りに紺色の詰め襟でまとめておくのでした。お母様の口車に乗せられてしまって、山吹色の大胆なドレスにするんじゃなかったーーー!
顔に熱がこもっているのがわかります。逃げ出したい気持ちが顔にも出ているようで、私の顔を見たジークリオン様は眉間にしわを寄せています。
あ、また私ったらジークリオン様の眉間にしわを作ってしまいました。
そのことに気付いて意気消沈した私は、そのままジークリオン様と共に、来ていただいたお客様方にあいさつ回りを始めました。
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お母様の部屋で変装を解き、宰相様の推薦なさった三名の方とお話をしようと応接間に向かうと、そこにはお父様のほか、ジークリオン様しかいらっしゃいませんでいた。
どういうことなのかと目線でお父様に問えば、苦笑いしながら答えてくださいました。
「最初から最後までリリアンの婚約者はジークリオン君だけなんだよ。」
と。
アイゼンバルーとフリューゲルス両家の婚姻には北の国にある鉱山の利権がかかわっているのですが、そこに不正と利益を求めた数名の方が私とジークリオン様の婚姻を阻止しようと動いていたのでした。
最初はジークリオン様には娘をけしかけたり、私に婚約の申し込みや両家に贈り物をしたりなどしていたようですが、効果がないようだとわかると闇討ちしたり、私の後を付けたりと、だんだんと手段が物騒になってきたそうです。このあたりで私に護衛を付けるべく、カレン=ハーミット様に白羽の矢が立ったのです。
あの猛烈なハーミット様推しはこのことが関係していたのですね。
夜会の時も人気のない廊下でさらわれそうだったのを宰相様に助けていただいたのでした。
「ワタシは気づいていたけどネ!! 」
実際は影の方が交代で護衛していただいていたようですが、そのようなことが起きているなんて全く気づきませんでした。
宰相様はジークリオン様の私に対する態度があんまりだ、というハンス兄様の話を聞いて、そのことを今回の問題解決に使えないかとお父様とおじ様にお話をしたようです。
うまくいけば一網打尽。短期決戦。
それと、可愛いジークリオンには旅をさせよ。
「最近の隊長は鬼気迫るものがあって怖かった。」
表面上は何もないように見せかけてリンゼイ兄様は私の護衛、お父様とハンス兄様は敵の洗い出し、ジークリオン様と宰相様は言い逃れできない様に証拠を押さえる分担だったらしいのですが、そこに問題を持ち込んだのは私でした。
宰相様に会う前にハーミット様とお話をした時も、そばに聞き耳を立てていた方がいらしたそうで、
「あのようなとげとげしい態度になってしまった、すまなかった。」
と、ハーミット様に謝られてしまいました。
ジークリオン様は宰相様とのお仕事が中々はかどらず、ずっと動き回っていたそうで、男が私をさらおうとしているという情報がはいいたのと、私が婚約破棄を願い出たことを知ったのは、あの日の朝だったそうです。
「もう少しフリューゲルス家に着くのが遅れていたら、リリアンが聖霊様と話していなければ、俺はリリアンを助けられなかったかもしれない。」
「そうだゾ! 本当はスグにでも助けに行きたかったんだが、デッカイのが自分が行くとウルサカッタカラ!! 」
「ありがとう、シルフィ。シルフィのおかげで、わたし、いろいろなきっかけをつかんだのよ。感謝をしても、しきれないくらいなの。」
最初の契約の日もジークリオン様が気にかけて、そして、命を助けてくれた。
ずっと私の中で眠っていた気持ちも記憶もシルフィ様がそばにいてくれたから。
苦しくて淋しい時もそばにいてくれた。
一緒に喜んでもくれた。
・・・でも、私に隠し事をしたのはちょっとショックだったな。
「わああああ~~~。だからイヤダとあれほど!! 違うんだリリー!! これはドットとリンゼイがーーー!! ごめんなさい、リリー!! 」
ものすごい勢いで私の胸に飛び込んできたシルフィ様をそっと抱きしめて頭を撫でます。
「違うんです。私に隠さないと駄目だった、ということにショックを受けているんです。」
これまでお父様やお母様、ハンス兄様にリンゼイ兄様たちに甘えて、ずっと寄りかかって物事に立ち向かわなかったんですもの、当然の判断だと思います。今度このようなことが起こったときには、ちゃんと参加できるように精進いたしますわ。
だって、私は『リリアン=フリューゲルス』ですから。
「もう、こんなことが起こらない様にするのが僕たちの仕事なんだけれどね。だから、安心していいんだよ、僕の妖精さん。」
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いつもかわいらしく、俺の目をとらえて離さないリリアンが、今日は山吹色で胸元が開いている大人っぽいドレスで登場した。このような恰好を他のやつらには見せたくない。胸元には俺の瞳と同じ色の宝石が光っている。その意味を考え、踊り出したくなる自分がいる。これが俺とリリアンの婚約発表の場でなければすぐにでも部屋に連れていき、閉じ込めてしまうのだが・・・。
俺がリリアンの美しさに呆けている間にリンゼイ義兄さんがリリアンに近づくが、それは許さない。そのままリリアンの前でひざまづき、流れに任せて手の甲にキスを落とす。独占欲丸出しの行為だ。これ以上はダメだと自制しようと眉間に力をこめるが、またリリアンが俺のしわをみて悲し気な顔をした。
こんなことならすぐに、似合っている、きれいだ。と、言えばよかった。リリアンの前に出ると 何も言えなくなってしまうこの悪癖をどうにかしなければ。
そう思いながらリリアンの腰をガッチリと引き寄せ、手も握りしめ、挨拶回りを始めたのだった。




