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とうとうこの日が来てしまいました。夜会の日です。準備はしっかりしたつもりですが不安ばかりが残ります。
『ダイジョウブ。リリーならアノ人間の女に余裕で勝てる。ナゼナラ、このシルフィ様の、し、親友だからナ!!』
真っ赤な顔で言い切ったシルフィ様、本当にかわいいです。もう、頬ずりしたくてたまらなかったのですが髪結い中で動けません。悔しい思いをしているところにリンゼイ兄様の声が聞こえてきました。
「リリアーン、準備できたか?」
コンコンというノックの音と同時に部屋の扉を開けて入ってきたリンゼイ兄様。背を向けているのでよくはわかりませんが、私のおつきの侍女さんにやんわりと注意をされているようです。
「リリアーン。兄ちゃん怒られちゃったよ~。」
そんなことを言うリンゼイ兄様がこちらにやってくる気配がしました。シルフィ様はちょこんとリンゼイ兄様の肩に乗っかっています。
ちょうど髪も結い終わり、鏡の中にはいつもよりちょっと濃いめのメイクを施された私と、その私を覗き込んだリンゼイ兄様が映っています。
「リンゼイ兄様、レディの部屋に入るときはちゃんとノックをしてください・・・。リンゼイ兄様? 」
なんだか悲痛な顔をしているリンゼイ兄様はそのまま私を見ています。あんまりにもがっかりしているので自分のどこかがおかしいのかと思い、急いで自分の身なりのチェックをします。足元から上へと確認していると慌てたリンゼイ兄様が止めてきました。
「違うんだよリリアン。リリアンにはおかしいところなんてないよ。むしろ完璧すぎてヤバイ。がっかりしたのは、なんで俺らは兄妹なのかと思ってな。もんの凄ーく残念。」
そんなに私と兄妹なのが残念なんでしょうか・・・。
「違うってば!だから、兄妹じゃ口説けないだろ!こんなに俺の好みの女が目の前にいるのに妹って!」
大げさなぐらいに残念がっているリンゼイ兄様に、周りにいた侍女さん達もくすくすと楽しそうに笑っています。
「もう、リンゼイ兄様ったら。どこかダメなのか本当に焦りましたのよ!初めてのリンゼイ兄様との夜会ですもの、リンゼイ兄様が笑われないようにと気を付けていたのに。」
「そんなにすねるなよー。ああ~~クソガキにはもったいないな~。あげたくないな~。とっちゃおうかな~。」
椅子に座っている後ろから優しく抱きしめられてぎゅーっとされました。苦しいのに逃げ出せません。
「今、頭撫でたら髪が崩れちゃうだろ?夜会が終わったらぐっしゃぐしゃにしてやるからな~」
離してくださいとお願いしていたら、仕方ねーなーと言いつつ離れてくれましたが、ずいぶんとひどい宣言をされたような気がします。その時は笑ってないで助けてくださいよ? 侍女さんたち。
「時間よ。二人とも準備はいいかしら?」
そこにきれいに着飾ったお母様がお父様と一緒にやってきました。ハンス兄様は仕事でまだ帰ってきていませんから、今日は四人と聖霊様とで出発です。
馬車内ではお父様と二つ約束をしました。
『リンゼイ兄様と離れないこと。』『何かあったらすぐに逃げること。』
何だか大げさですし、心配し過ぎです。大きな力は使えないとはいえシルフィ様もいますし、ほとんど夜会に出たことのない私に話しかけてくるような方はいらっしゃいませんですから何かあるわけありません。
そんなことを思っているうちに会場に到着してしまいました。
「さあ、行きましょう。」
お母様のかけた声が、私には試合開始の合図のように聞こえたのは気のせいではないはずです。お父様とお母様は先に行くわね、と慣れた様子で颯爽と馬車を降りていきました。お父様は何度も振り返っていましたが、お母様がぐいぐい引っ張って行ってしまいました。そんな様子を見ていたら、急に不安になってエスコートしてくれるリンゼイ兄様の指先をギュッとつかんでしまいました。リンゼイ兄様はそんな私の気持ちがわかってくれたのか、微笑みながら背中をトントンと優しくたたいてくれます。先に馬車から降りたリンゼイ兄様は手を差し出しながらまるで王子様のエスコートのようにカッコよく言いました。
「お手をどうぞ、私のお姫様。」
覚悟を決めてリンゼイ兄様の手を取り、ワインレッド色のじゅうたんの上にそっとヒールを下ろします。
「胸を張って、リリアン。いくぞ。」
リンゼイ兄様、シルフィ様とうなずき合って会場へと続く階段へと足を向けます。
「なあ、リリアン。」
「はい?」
「髪をぐしゃぐしゃにする約束、忘れんなよ?」
・・・。このタイミングで言うことですか?リンゼイ兄様。
文章を少し直しました。変更はしていません。




