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婚約者の好きな人  作者: ねいと
婚約者の好きな人
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この国での成人の儀式は、毎月行われる夜会に出席することになります。

16歳の年になると、17歳になるまでに一度は出席しなければなりません。

エスコートは身内の男性であることが多いですが、まれに婚約をしている場合は婚約者にお願いすることがあります。

16歳の成人の儀まで約2年半。どうなるかわかりませんが、ジークリオン様にエスコートしていただけるようにがんばりますわ!!




なんて意気込んでいた時もありました。あれから2年たって、私はくじけそうになっています。

あの後、何度かハンス兄様にお願いしてジークリオン様をお誘いしてお茶会を開いていますが以前と変わりなく、いえ、それどころかますます会話が出来なくなっています。


「ジークリオン様、ごきげんよう。」

「・・・ああ。」


「ジークリオン様、こちらのカップケーキは私が焼きましたの。お味はいかかですか?」

「・・・。」

カタン(カップケーキを置く音)


何だか独り相撲を取っているようで乾いた笑いが出てきそうです。

最初の頃はジークリオン様の『態度が悪い』と言って怒っていたシルフィ様もハンス兄様も最近ではあきれ顔です。

婚約者としての礼儀としてか、ジークリオン様から何回か髪留めや花束などのプレゼントはいただきましたし、ハンス兄様を交えてのデートらしきものも出かけましたが、私とジークリオン様の間には必ずハンス兄様を挟んでいるので直接の会話もありません。

でも一つだけわかったことがありました。

ジークリオン様はクッキーがお好きらしいのです。あんまり甘いのがお好きではないらしく、それでは、と、お砂糖ではなくはちみつを少し練り込んでレモン汁を加えたものを出した時、手が止まることなく一気に5枚も食べてしまいました。

お好きならと、出すたびにテーブルの上からなくなっていくクッキーを見るたびにうれしくってにこにこしてしまいます。


「よろしかったら、お持ちください。」

「・・・。ありがとう。」


今日もお土産にレモン入りのクッキーを渡せました。


「リリー、これスゴクおいしい。もっとイイ?」

「ええどうぞ。シルフィの分ですから全部食べていいですよ。」


わーい、と言いながらモグモグ食べている可愛らしいシルフィ様を見ながらこれからのことを考えます。

時間も残すところあと1年になってしまいました。

お茶会や、ハンス兄様を間に挟んでのデートの回数を重ねてもジークリオン様のことはよくわかりません。


「普段のジークリオン様が分かるような、なにかいい方法ないかしら?」

「ン?それなら会いに行けばイイ。いつも一人でイルゾ。」

「そうなの・・・。ん?なんでシルフィがジークリオン様が一人って知っているのかしら。」

「うぐぐ。な、なんでもないヨ。転ばせたりトカなんてしてないヨ~」

「もう!何もしない約束でしたのに、だめですよ!なにをしたんですの?」

「エエット、ナンにもし、してナイ。なんか手の中のものをニヤニヤしながらミツメテルし、ボーっとシナガラなにか考えてて、キモチワルイヤツダ。」

「ええ?そんなことはないと思うけど・・・。シルフィの気持ちはとてもうれしいですけど、とにかくジークリオン様には何もしちゃだめですよ。」


シルフィ様はむすっとしていましたが、何とかわかっていただきました。それにしてもにやにやしてるというシルフィ様の発言が気になります。シルフィ様の見間違いじゃないかしら。

それにしても何とか普段のジークリオン様に近づけるようないい案はないでしょうか。



そんな時でした。フリューゲルスの第一子、リンゼイ兄様が4年ぶりに帰って来たのです。


「リンディー兄様!!おかえりまさいませ!!」

「おおー。今帰ったぞー。俺の子猫キティちゃん。」

「またそんなこと言って。ふふふ。相変わらずですね。」

「しかしリリアンは大きくなったなー。この間会った時はまだおむつして、ままごとしてたよなー」

「いくらなんでもしてませんよ。いつの話をしているんですか!」

「お?なんだ、お年頃だな。好きなやつの一人や二人、できたのか?」 

「ええ?そ、そんな方はいらっしゃいませんわよ・・・。」

「ははは。リンディー兄様に言えよ?俺の子猫キティにふさわしいか見極めてやるからな。」


わしわしと頭を強めに撫でられて、せっかくきれいに整えた髪をぐしゃっとされてしまいました。

これからジークリオン様とハンス兄様とのお茶会があるのにどうしてくれるんですか!一度結い直しに自室に戻ろうとした時、リンディー兄様が自分の頬に人差し指を指しながら言いました。


「ほれ、リリアン。いつものはしてくれないのか?」


もう、仕方ありませんわね。


リンディー兄様に近づいていくと片手で抱き上げられ、リンディー兄様の顔の高さまで持ち上げられました。騎士の仕事をしているだけあって力強く、安定感があります。もう15歳ですので、小さいころのように無邪気にはキスなんてできません。ちょっと気恥ずかしい気持ちで軽くリンディー兄様の頬にキスをしました。

さあ、おろしてくれるのか、と思ったら、リンディー兄様が爆弾を投下しました。


「それにしても重くなったなー」


あまりにも酷いことを言われたので思わず両手で頬を挟んで顔をつぶしてやりました!





シルフィ「ウソジャナイヨー。ホントダヨー」

ハンス 「うん。僕は信じるよ。」

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