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第20話:地球への直接ワープ帰還と、最高に自由な爆速スローライフ

二つの太陽が優しく注ぐ異世界【アストラ大陸】の紫紺の空。

その清らかな大気を引き裂いて襲いかかってきた超巨大怪獣『次元崩壊竜アストラ・レヴィアサン』を、軽トラ『天空スイート号』の次元反転カウンターバリアで跡形もなく返り討ちにした島崎成己と桐生葵の二人は、採れたての爽やかな異世界フルーツパフェを笑顔で完食したところであった。


散らばったレヴィアサンの超レア結晶ドロップ【高次元空間固定コア】を、愛くるしい球体ドローンのポーカーが小さな羽をパタパタと動かしながら持ち帰り、車載コンソールのメインスロットへカチリとセットする。


ピカーーーッ……!!


純白の軽トラのコンソール全体が、まるで祝福するかのような優しく煌めく黄金色の幾何学光芒に包み込まれた。


『マスター! アオイ様! 【高次元空間固定コア】ノシステム組み込み、100%完全完了シマシタ! コレヨリ、富士ダンジョンノ複雑ナ全100階層ト地上ノ監視網ヲ完全ニスルーシテ、地球ノ島崎様ノご自宅ガレージヘノ【直接次元跳躍(スルーワープ)】ガ可能トナリマス!』


ポーカーがポンポコと可愛らしい電子音を鳴らしながら、ホログラム画面で跳躍ルートを提示してみせる。


「ふむ、素晴らしいなポーカー。良くやってくれた」


島崎は満足そうに頷くと、助手席の葵へと視線を向けた。


「さて……葵。富士ダンジョンの暗い竪穴をまた時速数百キロで上り直したり、地上で警備隊やダンジョンギルドの面倒な事情聴取、長ったらしい報告書の提出に捕まるのは御免だからな。ここはポーカーの機能をフル活用して、一気に我が家のガレージまで直接スルーワープで帰るとしよう」


「はいっ! 島崎さん! おうちへ帰りましょう!」


葵がシートベルトをカチリと締め直し、満面の咲きこぼれるような笑顔で力強く頷いた。

島崎はダッシュボード中央に輝くメインコマンドボタンを、迷いなく押し込んだ。


『――空間次元跳躍シーケンス起動:目標座標【埼玉県・島崎邸ガレージ】』

『――高次元スルーワープ、実行!!』


シュワァァァァァッ……!!


純白の軽トラの車体全周囲に幾重もの多面体幾何学陣が描かれ、一瞬にして眩い黄金の光の粒子となって異世界の大地から姿を消した。


――そして、ほんのコンマ一秒の瞬き。


パッ……!


視界を埋め尽くしていた激しい光が収まり、ふっと鼻腔をくすぐったのは、見慣れたコンクリートとオイルの静かな匂い、そしてシャッターの隙間から差し込む日本の柔らかな夕暮れの日差しであった。


「あ……! 島崎さん……! ここ、本当におうちのガレージです……!」


葵が窓の外を呆然と見渡し、感無量の声を上げた。

前人未到の富士ダンジョン最深部70階層の宇宙空間も、二つの太陽が昇る異世界の大地も、何千何万キロという気の遠くなるような空間の隔たりも一瞬にして飛び越え、二人は一瞬にして自分たちの安全で平和な我が家へと戻ってきたのだ。


「ふぅ……無事に到着したな。お疲れ様、葵」


「お疲れ様でした、島崎さん!」


『マスター、アオイ様、無事ノご帰還オメデトウゴザイマス!』


島崎がリモコン操作でガレージの電動シャッターをゆっくりと開けると、心地よい日本の夕風が吹き込んできた。


二人が居間へと上がり、島崎が大型テレビの電源を入れると、ニュース番組ではちょうど【富士地下大樹海ダンジョン】を巡る大騒動がトップニュースとして報じられている最中であった。


『――続いてのニュースです。本日未明、前人未到の難易度を誇る富士地下大樹海ダンジョン第30階層にて、国内屈指の大手Sランクギルド【黄金の獅子】が誇る大型魔導飛空船が、謎の爆発を起こして墜落する事故が発生しました』


『――救助された副ギルド長のガルバ氏らは「謎の白い軽トラックに乗った悪魔のような男と女に不意打ちされた」と支離滅裂な証言を繰り返しており、捜査当局は事態の解明を進めています』


画面には、かつて上空から豪奢な金ピカ鎧を着て威張り散らしていた副ギルド長・ガルバが、鼻に痛々しい包帯を巻き、ボロボロの姿で惨めにおどおどとカメラの前で言い訳をしている情けない映像が映し出されていた。


『――また、同ダンジョンでは「白い軽トラが時速数百キロの猛スピードで垂直竪穴を爆速ダイブし、襲いかかる無数のモンスター群を一瞬で粉砕しながら深層へと消えていった」という目撃情報が多数寄せられており、SNS上では「白軽トラ神話」「伝説の農家」として大バズりしています。ギルド本部は規格外の超絶探索者の存在について緊急警戒態勢を敷いていますが……』


アナウンサーが深刻な顔でニュースを読み上げるのを、ソファに並んで座った二人は冷たい麦茶を飲みながら見ていた。


ふふっ……ネットでも大騒ぎになっていますね、島崎さん。『白い軽トラ無双』ってトレンド1位に入ってますよ!」


「ふっ……まあ、あんな面倒なギルドの権力争いや取材の騒ぎに巻き込まれるのは御免だからね。僕たちはギルドのランク飛び級手続きも、報酬の受け取りも全部無視して大正解だったよ」


島崎は苦笑いを浮かべながら、テレビの電源をリモコンでオフにした。

ギルドでの名声やSランクの称号、世間からのチヤホヤなど、今の二人には何の意味も価値もない。自分たちのペースで、自由に人生を楽しむことこそが最大の贅沢なのだから。


「さて……ポーカー。今回の富士ダンジョン攻略と、異世界で獲得したドロップ素材の自動換金結果はどうなった?」


『ピピッ! 報告シマス、マスター! 車載ストレージ内ニ溜まっていた最上級魔石、ワイバーンノ竜骨、アステロイド・ドラゴンノ星核、レヴィアサンノ魔結晶等、不要ナ素材ヲ全自動オークションシステムテ即座ニ完全換金完了シマシタ!』


『――島崎様ノプライベート口座残高:日本円換算【182億4,500万円】トナリマス!』


「じ、182億円ぇぇぇぇっ!?」


コンソールの液晶画面に表示された天文学的な桁数の数字を見て、葵が可愛らしく目を丸くして跳びあがった。


「182億か……ふむ、これだけの資産があれば、もう一生お金の心配も、仕事の心配も一切することなく、二人で気ままに遊んで暮らせるな。美味しいコーヒー豆も、好きな食材も、買い放題だ」


「182億円なんて、想像もつかない金額です……! ブラック企業にいた頃は、毎月の残業代がちゃんと支払われるかどうかでビクビクしていたのに……」


かつて地獄のようなブラック企業で、連日深夜まで残業させられ、月手取り二十万円に満たない薄給で上威張りする上司から理不尽に怒鳴られていた日々が、まるで遠い昔の出来事のようだ。

二人は今、完全な経済的自由と、誰にも命令されない最高の『人生の自由』を手に入れたのだ。


「よし……それじゃあ葵。この軽トラの仕上げのカスタムを完了させようか」


島崎がポケットからスマートキーを取り出し、システム錬金術の最終プログラムを静かに起動させた。


『――システム錬金術・最終形態:インフィニット・スローライフ・キャンパー 起動』

『――全次元適応型エンジン&無限ストレージ&全自動調理・高級居住空間、完全固定完了』


純白の軽トラ『天空スイート号』は、地球のどんな舗装道路も滑らかに駆け抜け、空も飛べ、宇宙も泳ぎ、異世界へも一瞬で移動できる、世界に唯一無二の『完全無欠・全自動移動マイホーム』へと最終進化を完了したのだった。


「さあ、葵。これからはブラック企業の嫌な上司も、ギルドの煩わしいルールも、報告書も何もない。どこへ行くのも、何を食べるのも、いつ休むのも、全部僕たちの自由だ」


「はいっ! 島崎さん!」


その日の夜、二人は自宅の広々とした庭にウッドテーブルとふかふかの椅子をセットし、帰還祝いのスペシャルバーベキューを始めることにした。

軽トラのシステムキッチンで焼き上げるのは、ダンジョンで手に入れた極上の極厚魔導ステーキ肉と、フレッシュな高級野菜。

香ばしい肉のジュージューという音と芳醇なタレの香りが庭いっぱいに広がる。


「わぁぁ……! このステーキ、お肉がすっごく柔らかくてジューシーです! こんなに美味しいお肉、生まれて初めて食べました!」


「はは、だろ? 特製のガーリックしょうゆダレがよく合っている。ほら、冷えたジュースもお代わりがあるぞ」


『マスター! アオイ様! 明日ノ『お出かけドライブ候補地』ノホログラムマップヲ作成シマシタ!』


ポーカーが空中でくるりと旋回すると、テーブルの上に綺麗な立体ホログラムマップが浮かび上がった。

そこには、北海道の美しい花畑ライン、沖縄の透明な海を臨む海中道路、さらにはグランドキャニオンの上空ドライブコース、そして今日訪れた異世界の未開拓の絶景リゾート地がズラリとリストアップされている。


「うわぁ……! どこも凄く楽しそう! 島崎さん、明日はどこへ行きますか!?」


「そうだなぁ……まずは北海道で美味しいウニ丼でも食べて、午後は異世界の綺麗なビーチで泳ぐのもいいかもしれないな」


「きゃぁっ! それ、最高です! 私、水着持って行きますね!」


葵が満面の笑みを弾けさせ、冷たいグラスを掲げる。


「島崎さん……私、あのブラック企業で島崎さんと出会えて、一緒に会社を辞められて……今、本当に世界一幸せです!」


葵が膝の上の小太刀をそっと脇に置き、両手でグラスを包み込みながら、溢れんばかりの感謝と深い愛しさを込めた飛び切りの笑顔を島崎に向けた。


「ああ、僕もだよ葵。君が隣にいてくれたから、こんなに楽しく走って来られたんだ。……これからも、ずっと一緒だよ」


「はいっ! どこまでも、島崎さんとこの軽トラについていきます!」


夜空には満天の星々が美しく輝いている。

誰にも邪魔されない、最高に爽快で、最高に贅沢で、最高に自由な二人(+一台と一機)の爆速スローライフ。

常識を遥か彼方に置き去りにした最強軽トラの大冒険は、最高のハッピーエンドとともに、ここに堂々の大団円を迎えるのだった――!


【全20話・完】

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