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女神に騙され転生したら違う世界だった件 魔女とダンジョンの運命の星(アルカナム・スター)  作者: 正体不明
安部家誘拐騒動

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月姫vsリリス

10月全然投稿できなかったけど、新しく投稿しました!

安倍家誘拐騒動も着々と進んでいるので、11月には終われそうです。


リリスが干渉できないと言った悪夢と言える空間において、『白虎院 月姫』が空間を貫いて来れたのには、2つの理由があった。


1つ目は、リリスの作った空間がレイのオーラ完全解放によって不安定になり、隔てられていた筈の夢空間が現実世界にひび割れを生み出すという現象で繋がってしまったこと。


2つ目に白虎院家当主、『槍神』白虎院 月姫が空間に干・渉・し・う・る・力を持っていたこと。


そして、2つの理由と月姫を繋げた要因は、彼女自身が持っていた黒い質素な槍にあった。

それは、魔女に見初められ、かの幻想たる存在から与えられし眷属たる証。

人の身では到達できぬ、幻想へと至るために必要な鍵・眷属器。

その槍に銘は無く、有する効果はただ一つ『万触』。

この槍の所有者が認識したあらゆる物に干渉し、攻撃する事が出来る。


『月光』白虎院 月姫の空間破壊による増援。

ここまでが、万能を本質とする善行の機械 アルファの策であった。


『安倍邸の廊下で唐突にヒビ割れが起き、それを貫く事でここに参戦する事が出来た。師匠には、銘を付けるなと言われているがここまでくると愛着が湧いてくる』


月姫は槍を両手に構え、魔女でもあり、師でもある幻想たる存在の言葉を思い出す。


『武器を大事にするのも、名誉を大事にするのも結構だが、大事なのは生き残る事だ。くだらん誓いや、プライドなどは、さっさと捨てて仲間を頼れ。どんなに才を持ち、優れていても重荷があれば敵に喰われる』


師の言葉の意味を理解しつつも武人である彼女は、結局、この誘拐騒動後に銘を付けた。

槍の銘は『万触』。それ以降、彼女が持つ眷属器の名は、世界に轟く事になる。


『フゥ、ようやく事をここまで持ってくる事が出来た』

月姫がこの場に助けに現れ、気持ちの悪い感覚に侵されながらレイは一息つき休憩する。

張り詰めていた緊張は解け、体力を回復する事に専念していた。

その間アルファは何も声をかけず、レイ同様、回復に専念している。

それほどに魂の輪郭のズレというのは、重大な損傷であり、世界という情報の大きさでもあった。


しかし、それを踏まえた上でもレイは、緊張を解いて思考を停止するべきでは無かった。

目の前の事柄が決着間近であったとしても、絶対に上手くいくという保証は無く、うまく行ったとしても問題が起こらないとも限らない。

自らの決意した行動を最後は他人任せにし、当人は何も考えず傍観する。そんな愚かな行動には、凄・惨・た・る・結・果・が・待・っ・て・い・る・だ・ろ・う・。


▶︎▶︎▶︎▶︎

「レイ、よくエリーナ様を守りきった。後は私に任せて休んでいろ」

「はい、分かりました」

月姫に稽古時のように命令され、レイは即座に答える。

月姫は、レイの答えを聞いた後、リリスを見て静寂な気を纏って声を掛けた。


「貴公が今回の襲撃者で間違いないか?」

「そうだよ〜」

月姫の凜とした表情と問いにリリスは、言葉とは裏腹に真剣な眼差しで答えた。

「そうか。エリーナ様の誘拐と言い、隠蔽能力といい見事な物だった。善悪はともかく、武人として強者に敬意を表する」

「本当に言ってる?あたしは、安倍家を襲って、エリーナ・ペンドラゴンと坊やを誘拐したんだよ?」

月姫の場違いな言葉に、リリスの顔に少しの苛つきが垣間見える。


リリスと月姫のやり取りは、敵同士が話しているようには思えないほど、落ち着きがあり、静かな話し合いにレイには見えた。しかしそれは、嵐の前の静寂かのようにこれから起きる事を暗示しているかにも思える。


「そうだな。だからこそ私は、ここに来たと言える。そしてこの言葉を言うのも必然と言えるだろう・・・」

空間に突如、月姫の闘気が肌に針を刺すかのように広がる。

「構えろ」

しかし、そんな闘気を溢れ出している女性は、話している時と全くと言っていいほど表情が変わっておらず、その異様さをレイは何故か怖いと感じた。


「正気?エリーナ・ペンドラゴンと坊やがあたしの手から離れてる時点で、一緒に脱出したほうが良いんじゃない?」

「そうだな。しかし、私達が脱出する時に貴公が邪魔しないとも限らないだろう」

互いに正論だった。

リリスにとって、エリーナとレイを無事に連れ帰ってくれる保護者が来たのだから彼女に任せトンズラをしたい。

月姫にとって、相手はいつ邪魔をしてくるか分からず、足手纏いと言える子供を2人守らなければならない。

しかし、彼女には別の理由もあった・・・・


「そうなの。じゃあ邪魔しないから帰っていいわよ。ここに貴方が来た時点でこの依頼は失敗だし」

「これまでの行動、現在の状況を踏まえて貴公の言葉がどれほど信用があると思う?」

『?、何かおかしい』

リリスは月姫の答えに疑問を抱く。

「信用って言うなら、そこの2人が無傷っていうのは信用にならない?」

「ああ、そうだな。しかし、それでもだ」


ルナの言葉には、明瞭さと曖昧さ、その両方が先ほどから含まれており、何か意図を隠しているようにリリスには思えた。


「ちょっと待ってくれよルナさん。この空間はすでにボロボロだ。帰るのなら早くした方が良い」

レイも疑問を感じたのか、周囲の空間を見渡しながら2人の会話に横やりを入れる。


「安心しろレイ。私が入ってきた時よりも空間のヒビが減っている。この空間が崩れるという事には、なら無いだろう」

「それでも!」

自身の胸にざわつく不安を感じ、レイがルナに食い下がろうとする。

「少し黙ってて坊や」

そんな中、リリスがレイを制止した。

そして、目の前の凶暴な虎に決定的な言葉を投げかける。


「もしかして、あたしと闘いたいからあえて逃げないなんて事はないよね?」


子供が誘拐されたこの現場において、あり得ない筈の質問、それに対してのルナの答えは、、


「・・・そうだな。その気持ちが無いかと言われれば、有るだろう」


「な!?」

ルナさんの言い放った言葉に俺は思わず驚愕し、柄にもなく叫んでいた。

「待ってくださいルナさん!こっちにはエリーナがいるんだ。そんな事をする暇があるならさっさとここから脱出するのが何よりの優先事項だろ!!」


「そうだな・・・・」

レイの指摘に月姫は肯定し、目には目をと少年の矛盾を突き返す。

「お前から溢れ出ている莫大なオーラさえ無ければ、お前の言った通りにしていただろう」

「それは!?」

月姫から放たれた強烈な言葉は、レイの思考を真っ白にさせ、アルファにさえ『今のマスターでは、彼女を説得する事は不可能です』と言わしめた。


「《何故、そこまでの強さを持っているのかという矛盾を》」


「それに目の前の存在から感じる美桜様を超える魅惑効果を踏まえれば、何もせず脱出はありえない」

「・・・・・」

ルナさんの言葉に、俺の思考はどれだけ回転しても言い訳が浮かばず、何も言えなかった。


「もう一度言うよ、あたしは貴方達の脱出を邪魔しないし、危害を与えるつもりもない」

「ああ、その気遣いには感謝する。それでも白虎院の当主として、安倍家の矛として貴公に何もせずの撤退はあり得ない」

これ以上の話は、まさしく平行線で意味はないとリリスは理解し、思考を切り替える。


「けど、それで言うなら、あたしを見た時点で攻撃してれば良かったじゃん。何でしなかったの?」

「エリーナ様とレイがそちらに捕えられていれば、そうしただろうがそうでは無かった。それに貴公の戦闘スタイルは中距離と長距離だろう?武人として自身が圧倒的有利な状況で勝ちたいとは思わん。それと安心してくれ、貴公が動くまではこちらは動くつもりは無い」

「なにそれ?あたしに対しての嫌味のつもり?」

「そう言うつもりはない。不快だったのならば謝ろう」


こうして戦うか戦わないかの問答は終わり、後は互いにぶつかり合うのみ。


『坊やの名前、レイって言うんだ・・・』


絶体絶命といえる寒気さえする状態の中、リリスは何故か自身の胸の奥に何か暖かい物があり、ジワジワと震える体を溶かしているように思えた。


▶︎▶︎▶︎▶︎


『白虎院 月姫、ハンタークラン”安倍”の中で最も強いとされる槍の名手で――その技巧は、日本ランキング1位の女帝と肩を並べるほど。それなら近距離はダメ、中距離、長距離から攻撃したとしても近づかれて終わる。なら・・・』


目の前に立ちはだかる虎を見据えて、リリスは月姫に話しかけた。


「あたしの準備が整うまでは、待ってくれるんだよね?」

「ああ、ずっとは無理だが、ある程度までは、こちらから手を出す事はない」

「そう、ならよかった」

その言葉の後、リリスから膨大なエネルギーが放出される。空間が蠢くように胎動し、その異様は、怪物の腹の中にいるようにさえ思わせるほど、鳴動が響き、空間が波打っていた。


「あんたの名前は、裏社会でも聞いた事がある。最年少で国家級ハンターになって、魔女の中でも最強と謳われる怠惰の魔女の眷属にもなった怪物。ならやっぱり、物量で押し潰すしか無いよね!」


リリスの美しい声は、まるで号令のように空間に響いた。

そして号令に導かれたかのように空間に万を超える異形の怪物達が現れ始める。

それは、ライオン、ヤギ、ヘビの体が一つに融合した、火を噴く怪物や同等以上に巨大な怪鳥、無数の頭を持ち、見た目から毒々しい巨大な蛇の怪物、それ以外にもあらゆる異形の怪物達が空間を埋め尽くしていた。


「キマイラに加えてヒュドラやガルーダまで、どれもがSランクのモンスターばかり、驚嘆に値する力だ」

月姫の顔には、笑みが浮かんでおり、闘いを待ち望んでいるのがリリスの目から見ても分かった。


「一つ聞きたいんだけど、これって別に逃げても構わないんだよね?」

「ああ、闘いとは、最後まで生き残ったものが勝者だ。逃げられるのなら逃げても構わない」


それは、月姫が師から正しく、そして何より大事だと言い聞かされてきた哲学。

その哲学に感化されたのか、リリスは、月姫に闘いたい理由について問うた。


「ごめん、やっぱり最後にもう1個聞かせて。なんでそこまでしてやりたいの?」

「なに、単純な事だ。この世界には、私以上に武を極めている人間が数人いる。その内の2人は、私であっても底が知れず、到達する軌跡すら見えない。だからこそ私は強者との戦闘を求める。目の前に至高と言える頂きが存在しているのに、諦めるという選択は私にはない」


「純粋なんだね」

「ああ、師匠からもそう言われた」


リリスの優しさすら感じる純粋な言葉に、月姫は、惚れ惚れするほど凜と答えた。


先の言葉により、互いに心技体すべてが万全、後は、リリスが賽を投げるのみ。

こうして安倍家誘拐騒動、最後の火蓋が切られる。


「やっちゃえ!みんなー」

リリスの言葉により万を超える怪物達は知覚する死への誘いにも構わず、自分を生み出してくれた絶対的な存在として――あるいは無条件に感じる愛と憎悪を孕んだ母のために自ら死の方舟へと進む。


ある怪物は、生物として隔絶している絶対捕食者へと無謀にも向かっていき、、ある怪物は、自らを生み出した母を守るために肉壁へと、、

そして、まさしく万の怪物万物の母と言える彼女は、豊穣と混沌を兼ね備えたかのように神々しくも禍々しく浮遊していた。


「敵対している者とこんなに喋ったのは、初めてだ。貴公に感謝の意を込めて、全身全霊で挑ませて貰う」


一方、この空間において頂点捕食者と言える虎は、静かにその場を動かずに佇み、ただひたすらに闘気を練り上げていた。それは、槍を振るう構えであり、自らの究極の一撃のための繋ぎでもあった。


「スキル発動・・・・」

そう言葉を発した時、夜空に似合う月白色のドレスを着た少女がまるで蒼い満月になったかのように闇夜を照らす。

月の光は、青白い照射光のように怪物達を捉え、照準を合わせる。


《それは、繰り返し体に覚え込ませた究極の一撃ではなく、思考し、体へと伝達する究極の一撃》

少年は、月夜の源である球体の中で槍を振るおうとする武人に、心に抱く恐怖を忘れるほどただひたすら見惚れた。


能力に覚醒したこの世界において、近距離攻撃に最適とされている速度は、1秒を切る事。

動作を早くし、相手を見切り、駆け引き、技を持って、攻撃に要する時間をコンマ以下にまで縮める。

それこそがこの世界における強者においての近距離攻撃の当たり前、しかし彼女の一撃はとても遅かった。


槍を構え、自身の体を把握し、自身の感覚と集中を槍へと収束させるのに1秒。

軸足で踏み込み、推進力を生み出しながら骨盤の回転、体幹・肩の連動、腕の突き出し、絞りを行うのに1秒。

計2秒も掛かる。近距離で戦う槍の実戦において、例え強力だとしても使える筈もない緩慢な攻撃。


しかし、突く前に照準が定まっていたのなら話は別である。

考え尽くされ、その上で鍛え抜かれた技と体から繰り出される一撃は、想像を絶する。

その突きが繰り出されると同時に、魔女の眷属は、その名を唱える。

それは、リリスが言った名と同じ・・・


「月光」

槍を振るった時、蒼き月は光を一層増し、その光は照射光へと伝播する。

伝播した光は、空間に存在する万を超える怪物達をまったく同時に穿ち、その衝撃波により眷属達リリンは四散。

穿たれた怪物達は、痛みすら感じる事なく空間の塵芥となった。


当然、穿たれた肉壁の後ろで浮遊していた彼女にも回避不能の月光は届いている。

「・・・・・ゴホ」

リリスは、自身の上腹部を抑えて、吐血する。

筋肉質では無いが、細く絞られた美しい腹部に10センチ近くの空洞。

空洞からは、外見から想像できないほど朱く、ドロリとした粘性の液体が美しい肢体を瞬く間に染め、狂気的な快感と恐怖を併せて濁らせたかのように鮮烈な生命の躍動を本能的に感じさせる。


「・・・なんで・・」

その光景をただ傍観していた愚者は、今まで感じた事のない寒気と口を押さえたくなる程の吐き気に襲われていた。


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