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地獄の番犬

……………………


 ──地獄の番犬



 サタナエルが巨大な蜘蛛のクリーチャーであるアラクネを焼きながら進む。

 サタナエルの蜘蛛が嫌いという発言は冗談ではなかったのか、蜘蛛たちは根こそぎ焼き殺されていった。


 他に出没するオーガに関しては俺が対処した。

 幸いやつらにはまだ銃が効くし、ナイフでも相手はできた。

 61階層から70階層の向けての進軍はさほど困難なものでもなかったのである。


 しかし、問題は70階層のエリアボスだ。


「そろそろ70階層だな」


 俺は69階層に続く階段を見てそう呟く。


「ケルベロスは地獄の番犬だが、この先に地獄があるのかね……」


「ふふ。確かにこのダンジョンは地獄に繋がっていますよ。ですが、70階層のエリアボスがケルベロスなのはただの偶然でしょうね」


「そうかい」


 ダンジョンのクリーチャーがそもそもどうして地球の神話や伝承の怪物の姿をしているのかは分かっていない。

 なぜ連中は俺たちの伝承を真似しているのか。

 たまたま? あるいは何かの意図があるのか?

 それが分かる日は来るのだろうか……。


 俺たちはそれから69階層を踏破し、70階層に迫った。


「よし。まずは無人地上車両(UGV)を展開させる。突入はそれからだ」


 俺は早速購入した無人地上車両(UGV)を展開させる。

 無限軌道式のそれがゆっくりと階段を下って行き、センサーの捉えた映像がARデバイスに表示された。


 まず無人地上車両(UGV)が捉えたのは開けた空間であり、ケルベロスの姿はまだ見えない。

 俺が慎重に無人地上車両(UGV)を前に進めるとセンサーが音を捉えた。

 何かが重量のあるものが移動する足音と振動だ。


 俺はそれを掴んでから無人地上車両(UGV)を停止させて、その足音の主を確認しようとする。

 足音は徐々に近づき、俺は固唾を飲んでセンサーの映像を見守った。


 すると、足音の主が姿を見せた。

 それは大型トラックほどの大きさがある3つ首の犬。

 間違いない。これが70階層のエリアボスであるケルベロスだ。


「犬と聞いていたが、こんなデカいのはもはや犬じゃないぞ……」


 センサーに映るケルベロスの姿に俺は呻く。


「何だ、びびってるのか、佐世保!」


「ああ。びびってるさ。このデカブツに突進でもされたら俺たちはミンチだぞ」


「はははっ! 俺に勝ったお前がこれぐらいの犬っころに負けるわけあるか!」


 マルキダエルは俺の言葉にそう笑い飛ばす。

 そうだ。俺はこのケルベロスより強いマルキダエルに勝利しているんだ。

 負けると決まったわけじゃない。

 それに目指すんだろう? 最下層を!


「……行くぞ!」


 俺はそう自分を奮起させて70階層へと潜る。


 すでにケルベロスの位置は分かっているので奇襲の心配はない。

 俺たちは慎重に階段を降り、逆にケルベロスを奇襲するつもりで行動する。

 ケルベロスを奇襲できれば、それだけ有利になれるだろう。

 しかし、ケルベロスが犬と同じ知覚を持っていればそれは困難になる。


「動いた……!」


 やはり無理があった。

 ケルベロスを捉えていた無人地上車両(UGV)の映像からケルベロスが何かに気づき、動き出す様子がARデバイスに表示されたのだ。


「サタナエル、マルキダエル。下がっていろ。ここは俺がどうにかする」


 俺はふたりにそう言い、ショットガンを手に前に出る。

 ショットガンがケルベロスに有効かは定かではないが、いきなりナイフで挑みかかるよりは現実的だろう。


 俺たちが前に進めば暗がりの中から巨大な怪物が姿を見せた。

 ケルベロス──殺意に満ちた視線で俺たちの方を睨むように見る巨大な番犬。


「────────ッッッッ!」


 その化け物が咆哮した。

 空気がびりびりと震え、フロア中に殺意が満ちる。


「無駄にデカい声をしやがって」


 俺はショットガンを構え、狙いをケルベロスの頭部に定めて銃弾を叩き込む。

 バックショットではなくスラグ弾を使用していたが、それでもケルベロスの頭は皮膚こそ裂いたが、頭蓋骨までは砕けなかった。


「クソ。予想はしていたが……!」


 俺は無駄と分かるとショットガンをスリングにぶら下げ、ナイフを握って突撃。

 牙の並ぶ顎を開くケルベロスに向けて突進していった。


 怯えるなと自分に言い聞かせる。恐怖は足かせになると。

 俺はサタナエルにもマルキダエルにも勝った。

 こいつにだって勝てるはずだ……!


 ケルベロスの頭のひとつが俺を捉えようとするのに俺は身を低くして攻撃を回避し、滑り込むようにケルベロスの首の下に向かう。

 そこからナイフを首に突き立てるが……。


「畜生、マジかよ」


 分厚い皮膚と筋肉がナイフの刃が血管や気道に達するのを阻止。

 そのままケルベロスが首を大きく振り、俺は吹き飛ばされた。


「ぐうっ……!」


 壁に叩きつけられる。

 痛みはないが衝撃で呻き声が出る。

 そして痛みがなくとも全身のダメージを俺は感じていた。


「クソッタレめ。だが、まだ諦めんぞ」


 俺は悪態を吐きながらも、まだ手放していない超高周波振動ナイフを手にケルベロスに立ち向かう。

 ケルベロスの方も、俺を迎え撃ってやるとばかりに威圧を放っていた。


「はあっ!」


 そしてナイフを手に俺は再び突撃。

 やつの牙が俺を捕らえようとするのを強化脳でブーストされた反射神経で回避し、俺は今度はケルベロスの頭を狙う。

 首がダメならば頭だ。脳みそを抉られて死なないやつはいない。


 俺はケルベロスの頭に向けてナイフの刃を叩き込む。

 スラグ弾を弾いたケルベロスの頭蓋だが、新しいナイフの刃はその頭蓋骨をやすやすと貫き、そのまま脳に刃は達した。

 間違いなく手ごたえはあった。

 だが、やつは平然と首をふって俺を振り払うと、その爪の並ぶ前足で俺を薙ぎ払う。


「クソ、クソ、クソ! 3つの頭を全部潰さないと無理か……っ!」


 ケルベロスに脳は3つあるのだろう。

 その脳みそ3つを全て潰さないとやつは行動不能にならない。

 俺はそう読んだ。


「なら、やってやるさ!」


 俺は再びケルベロスと対峙。

 しかし、今度はやつの方から突撃してきた。

 やつは猛烈なスピードで、まさにトラックのような速度で突っ込んでくる。

 俺はそれを回避することは選ばず、機械化した身体の出力を200%、いや220%まで引き上げて迎え撃つ。


 激突。


 ケルベロスの突進に俺の身体は耐え、俺はやつの左の頭にしがみつくとナイフで何度も頭蓋にナイフを突き立てる。


「────────ッッッッ!」


 再びのケルベロスの咆哮。鼓膜が破れそうなほどだ。


 しかし、それに耐えて俺は残る中央の頭を狙うためにケルベロスからいったん距離を取ろうとした。

 それが俺に隙を生んだ。


 ケルベロスは下がろうとした俺に再度突進して俺を突き飛ばし、その上にのしかかってきたのである。


「クソ……!」


 ケルベロスの足によって抑えられて身動きできない状態で、ケルベロスの中央の頭が俺を見下ろした。


……………………

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