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70階層に向けて

……………………


 ──70階層に向けて



 新しい装備との相性がいいことを確認すると、いよいよ俺たちは60階層の次の70階層を目指すことにした。


「装備は整った。あとは覚悟だけだ」


 俺はしっかりと整った装備を見てそう呟く。

 弾薬、医薬品、食料、水、そして武器。

 全てが整っている。70階層までいけるぐらいに。


「あとは情報だな。70階層の情報がほしい」


 俺が最初にしった熊本ダンジョンの最深部は69階層だった。

 だが、今は70階層、80階層の噂を聞く。

 ただ、それらの場所がどのような場所なのかの情報はなかなか流れてこない。


「斎藤から情報を買うか……」


 俺はマップなどの事前情報もなしに70階層に向かえる気はしなかったので、まずは情報収集に当たることにした。

 最初に当てにしたのは斎藤だ。


 サタナエルたちを連れていつものように半地下の酒場に向かう。


「斎藤」


「おお、切り裂き魔(リッパー)。最近、景気がいいみたいだな?」


「そうでもない。金は入ったがすぐに出ていくばかりだ」


「ははっ。それは誰も同じだな」


 1億円と言う大金も装備を整えていたら、あっという間に少なくなってしまった。


「それで60階層から70階層の情報を買いたい」


「おっと。あんたもついに70階層に?」


「70階層が存在すれば、だが。実際のところ、どうなんだ? メガコーポの連中が70階層に到達したって話は聞くが70階層は存在するのか?」


 俺はまずそう尋ねた。


「存在する。現在、ダンジョンの最下層は80階層以上に更新されているぜ。しかし、メガコーポと無関係の探索者でそこまで行ったやつはいないがな」


「やはりか……」


 今のところメガコーポ以外の連中がそこまでの深層に到達できていない。

 そのことは薄っすらと予想はできていたが、改めて言われると深刻に感じる。

 俺のような野良の探索者がそこまでの深層に至れるのかと。


「まあ、あんたが到達できるかどうかは知らないが70階層までならば情報はあるぞ」


「では、頼もう。いくらだ?」


「70万。こればかりは貴重な情報でな」


「分かった、分かった」


 俺は現金で斎藤に70万を支払う。


「毎度あり。それじゃあ、まずマップからだ。企業から横流しされた情報だ。信頼性は保証するぜ」


 そう言って斎藤はまずはマップ情報を俺に送信。

 マップはこれまでの階層とさほど変わりないものだった。


「出没するクリーチャーは?」


「まずオーガだ。それから確認されているのはアラクネって呼ばれている巨大な蜘蛛の化け物。蜘蛛は平気か?」


「好きじゃないが、問題にはならない」


 俺は別に蜘蛛恐怖症というわけではない。

 もちろん好きなわけでもないが。


「オーケー。なら、雑魚は大丈夫だろうな。問題は70階層のエリアボスだ」


「エリアボスは?」


「──3つの首を持った番犬ケルベロスだ」


 ケルベロス。それがエリアボスであった。


「本当に首が3つあるのか?」


「ああ。これも横流し情報だ。メガコーポの連中も苦戦したらしく、腕の立つクランに討伐を依頼したぐらいだ。厄介だぞ。気を付けろ」


「そうする。情報、助かった」


「幸運を、切り裂き魔(リッパー)


 斎藤とはそこで別れた。


「ケルベロスか……また神話的な生き物が出てきたな……」


 これまでのクリーチャーも奇妙なものが多かったが、まさか首が3つある番犬が立ちふさがるとは思わなかった。


「旦那様ならばきっと倒すことができますよ」


「ああ。何としても突破してやろう。そして、最深部を目指す」


 今の俺は何が立ちふさがろうとやってやるつもりだった。

 最深部を目指すと言う覚悟があったのだ。



 * * * *



 装備を整えた俺はいよいよ70階層への遠征に向けて出発した。

 ミュールボットに十分な弾薬や食料、水を詰め込み、医薬品も忘れずに詰め込んだ。


「よし。行くぞ」


 俺はそう言い、ダンジョンの入り口に立った。


「目指せ70階層ですね」


「やるぞーっ!」


 サタナエルたちもそう言い、気合を入れる。


 それから俺たちはダンジョンへと潜った。

 1階層から20階層まではいつものことだ。

 大した障害もなく、俺たちはダンジョンを突破して安全地帯の20階層で一度休憩。

 ここから70階層までは無停止で一気に進むことになる。


「改めて作戦を確認するぞ」


 俺は20階層のラーメン屋でラーメンを前にそう言う。


「クリーチャーとの交戦は可能な限り避けて進み、一気に70階層まで向かう。途中エリアボスがいたら、そいつは仕方ないので撃破する。エリアボスとの交戦で損耗してしまい、進むのが困難となったら残念だが今日は引き上げだ」


 エリアボスとの交戦は避けられない。

 もし、変異種との連戦になればそれだけで引き上げることになるだろう。

 ときには無理に進むよりも、退くことが重要であったりする。


「分かりました。ボクも可能な限り手を貸しますよ」


「ありがとう、サタナエル」


 俺はサタナエルにそう言って頷く。

 マルキダエルは……ひたすらにラーメンを貪っていた。

 話、ちゃんと聞いてたよな……?


 俺たちはそれから20階層を出て、70階層を目指す。

 幸いになことに誰かが通ったあとだったのか、30階層から60階層までのエリアボスに遭遇することはなかった。


 しかし、その誰かは途中で力尽きたらしい。


「死体だ」


 俺たちが初となる60階層以降に足を踏み入れると、最初に目に入ったのは死体。

 銃やボディアーマーなどの装備が統一されていないところからして、民間軍事会社(PMSC)の類ではなさそうだ。


 その傍にはミュールボットが積み荷を乗せたまま、放置されていた。

 積み荷であるコンテナには大井エネルギー&マテリアルのロゴ。


「大井の積み荷を運んでいたのか。だが、誰にやられた?」


 俺は倒れている探索者たちの傷を調べる。

 銃創の類はない。人間に襲われたわけではなさそうだ。

 皮膚は酷く青ざめており、何かしらの毒にやられたかのように見えるが……。


「アラクネか……?」


 この階層から出没するクリーチャーであり、斎藤の情報によれば毒を有するとされるのはアラクネだ。

 俺はまだこの探索者たちを襲ったアラクネがいないか周囲を警戒する。


「旦那様」


 サタナエルが警告するように声をかけたので俺はそちらの方を向く。

 すると大型犬ほどの大きさの蜘蛛がつうっと天井から糸を辿って降りてきているところだった。

 ぎょっとする光景で、俺も一瞬硬直してしまう。

 しかし、すぐにその蜘蛛は燃え出して黒焦げになって息絶えた。


「危なかったですね」


「ああ。一応有害物質を無害化するナノマシンは入れているが、こいつらが未知の毒を持っているとなると有効かどうか分からんからな」


「では、ここはボクにお任せを。可能な限り焼き払っていきます」


「いいのか、サタナエル?」


「ええ。ボクも蜘蛛は苦手ですから」


 サタナエルは冗談を言ったようにそう微笑み、それから俺たちは前進を再開した。

 70階層に向けて進軍だ。


……………………

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