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不穏な兆候

……………………


 ──不穏な兆候



「撃て、撃て!」


「畜生、この化け物め……!」


 中口径ライフル弾を使用するアサルトライフルで武装した集団がマルキダエルに銃弾を浴びせるが、マルキダエルはその全てを炎の剣で叩き落としていた。


「雑魚め! 死ね!」


 マルキダエルは横なぎに炎の剣を一閃。

 炎が火炎放射器のように伸び、武装集団を焼き払う。

 悲鳴が響き、銃声が途絶え、やがて炎がぱちぱちと燃える音だけが残った。


「満足っ!」


 いつものようにふんすっと鼻を鳴らすマルキダエル。

 俺はその後頭部をぺしゃりと叩いた。


「何するんだ!」


「大井の人間がいるから力を使うなってあれだけ言っただろう。聞いてなかったとは言わせんぞ」


「連中は見てなかったからいいだろ!」


「ダメ」


「むぐぐぐぐ!」


 マルキダエルは不満そうに頬を膨らませる。

 だが、本当に不幸中の幸いはこの場に大井の人間がいなかったことだ。

 俺についてきたコントラクターは俺を追いかけず、周囲の安全を確認していたのでマルキダエルの力を見ていない。


「反省しないとダメですよ?」


「ふんっ!」


 サタナエルに注意されてもマルキダエルは不満げに鼻を鳴らすのみ。


「お前が大井に目を付けられてモルモットとして拉致されても救出はしないからな」


「連中のような雑魚に俺が捕まえられるものか!」


「メガコーポをあまり甘く見ない方がいいぞ」


 大井はメガコーポだ。

 人間の欲望と権力の象徴であり、金のためならばなんだろうとやる。

 ドラゴンを生け捕ろうとすることぐらい、どんな犠牲を払おうとやるだろう。


「さて、仕事に戻る前にこいつらの身元を確認したい。高橋を呼ぼう」


 俺は偵察は終わったとして高橋を呼びに向かう。

 高橋はやってくると驚いた表情を浮かべた。


「火炎放射器でも隠し持っていたのか?」


「業務上の秘密だ。それより、こいつらに心当たりは?」


 俺はマルキダエルのそれについては説明せず、待ち伏せていた人間について尋ねる。


「装備は揃っているし、あの地雷からしてどこかの大きな民間軍事会社(PMSC)だろうが、具体的な所属は分からん。大井は敵が多い企業だからな。誰から狙われても不思議じゃない」


「そうか。先遣隊が無事だといいが」


「ああ。こういう待ち伏せがあるってことは先遣隊が壊滅している可能性もあるな」


 太平洋保安公司が先に送り込んだ先遣隊が作戦に失敗している可能性はあった。

 ここで待ち伏せが行われていたのがその兆候だ。


「連絡は取れないのか?」


「用心のために無線封鎖している。だが、この状況なら連絡を取るべきかもしれない」


「そうしてくれ。50階層のワームが生きていれば、対処しなければならない。楽な仕事じゃなくなるぞ」


「了解だ」


 高橋は俺の求めに応じて先遣隊に連絡を取る。


 ダンジョン内では不思議なことに電波の類はよく通る。

 地下街メイロがダンジョンから配信を行えたように、ダンジョンから外に向けて電波を発することもできるのだ。

 この仕組みは謎だが、無線もちゃんと友軍に通じるはず。


「先遣隊と連絡が取れた。連中は無事に50階層のワームを始末したらしい」


「そうか。では、進もう」


 俺たちは次に50階層を目指して潜る。

 先遣隊は59階層で待っているので、彼らと合流することを目指していた。

 今の状況下では少数の友軍を別行動させておくのは危険だと高橋も判断している。

 先遣隊を回収し、それからグリフォンと再び対峙するのだ。


「50階層はクリアだ」


 それからは待ち伏せもなく、50階層にワームはおらず、俺たちはそのまま59階層へ。


「そう言えば聞いてなかったがグリフォンと戦ったことは?」


「ある」


「つまり60階層までの経験があるんだな」


「いや……。グリフォンと戦ったのはダンジョンの外だ。いろいろ事情があってな。あんたらグリフォン戦の経験は?」


「一応ある。しかし、ダンジョンの外でグリフォンと? どういう状況だったんだ?」


「聞かないでくれ。雇い主はあんたらと同じだったが、これも業務上の秘密だ」


「そうか。なら、これ以上は聞かない」


 プロらしく無駄に不可掘りすることなく、高橋は会話をやめた。

 それから俺たちは59階層を目指す。

 道中に存在する予定のオーガはすでに死体になって転がっており、先遣隊の優秀さが窺える。

 流石は大井の民間軍事会社(PMSC)だ。


「先遣隊との合流地点までは間もなく」


 高橋がそう言い、俺たちは用心して進む。

 先遣隊に敵と誤認されて撃たれたくはないからな。


「いたぞ。ロメオ・チームだ」


 偵察と露払いに放たれていた先遣隊──ロメオ・チームと俺たちは合流。

 先遣隊は迷彩服にクリーチャーの返り血を浴びており、これまでの激戦をうかがわせたが、不思議とその顔に疲労感はない。

 プロフェッショナルらしいと俺は思う。


「アルファ・チーム。掃除はしておいたぜ。ただ60階層のグリフォンはまだだ」


「道中で人間に待ち伏せされたが、お前たちはどうもなかったのか?」


「人間に? 俺たちが潜ったのは4日前だが、誰もいなかったぞ」


「ふむ。情報漏れがありそうだな……」


 高橋が先遣隊のメンバーからそう聞き、彼はそう疑りを持っていた。

 先遣隊と本隊の間に割り込むならば、その情報が必要だ。

 そして先遣隊は無線封鎖していたから、通信傍受の可能性はない。

 となると、だ。

 情報漏洩は作戦が始まる前から起きていた可能性が出てくる。


「60階層のグリフォンに変化は?」


 だが、それは大井の問題であって俺の問題じゃない。

 俺の問題はグリフォンが変異種ではないことを確認することだ。


「どうだろうな。妙な感じではあった」


「妙な感じとは?」


「いつもよりサイズがデカいんだ。前に見たときはあれほどの大きさじゃなかったと思うんだが……」


「なるほど。サイズ違いか」


 デカくなったらそれだけ脅威だ。

 質量は通常、そのままパワーになる。

 クリーチャーもゴブリンよりオーガの方が厄介なのは言うまでもないだろう。


「分かった。では、俺が潜る。それで状況を確認してから本隊を投入だ」


「ああ。頼むぞ」


 俺は危険な偵察を引き受けて、高橋たちよりも先に前に出る。

 もし、グリフォンが変異種である場合、迷宮寺院で戦ったときよりも厄介なことになるだろう。

 俺はその可能性に備えていた。


 ゆっくりと音を立てずに階段を下れば、60階層だ。

 ここら辺のダンジョン空間と同じで高い天井に開けたフロア。

 飛行するクリーチャーが活躍できる空間が作られていた。


「……いたぞ。グリフォンを視認」


 確かにデカい。

 前に迷宮寺院で相手にしたグリフォンより一回りはデカいか。

 そいつが獲物を探すようにうろうろとフロアを歩き回っている。

 そこからは迷宮寺院のときとは違う殺気が感じられた。


「サタナエル。高橋たちを連れてきてくれ。戦闘開始だ」


「はい、旦那様」


 俺はサタナエルに伝令を任せ、マルキダエルとともにグリフォンを見張る。

 どうやってあれを倒したらいいものかと思いながら……。


……………………

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