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輸送作戦

……………………


 ──輸送作戦



 俺たちは巨大なミュールボットを引きつれてダンジョンに潜る。

 目指すは60階層だ。


「20階層までは一気に進みたい。大丈夫か?」


「ああ。こんな低層で問題になるような連中は連れてきていない」


 俺が確認するのに指揮官がそう応じる。

 太平洋保安公司の指揮官は高橋と名乗っていた。

 元陸軍の兵士であり、俺と同じ戦場帰りだそうだ。

 従軍したのは東南アジアでミャンマー強襲作戦に参加したと言っている。


 なので一定の信頼はおけた。

 荷物を届けるだけの仕事だが、ひとつも欠けるなとのオーダーだ。

 クリーチャーは当然として人間にも気を付けなければならない。


「しかし、大井は深層で何かしているのか? この間から大井やその下請けから輸送を請け負う探索者が多いぞ」


「分からん。俺たちには知る必要がないと言われているし、俺自身もそこまで深層の仕事には関わっていない。だが──」


 高橋は続ける。


「大井は最深部に到達するのを何かに阻まれているって話だ。次々に戦力を送り込んでいるが、その何かによって返り討ちにされているって噂を聞いた。だから、俺たちが運んでいるのはその何かを撃破するためのものかもしれない」


「何かを撃破する、か……」


 クリーチャーがいくら強力でもメガコーポを相手にいつまでも粘れるとは思えないのだが、一体何が出現したというのだろうか?


「案外、この積み荷は戦術核辺りだったりしてな」


「おいおい……」


「冗談だよ。流石にダンジョン内で核を使うことはないだろう」


 俺たちが従軍した戦争でも核は使われなかった。

 もっとも使うことを検討していた場面は多くあったと聞いている。

 しかしながら、人類の理性が何とかそれを阻止した。


 だが、戦争が終わり、混乱の時代が訪れると世界のあちこちで核兵器が流出。

 そんな中で大井のようなメガコーポも戦術核を入手したという情報がある。


 なので、高橋が言う核の話も全くの冗談には聞こえなかった。


 それから俺たちは20階層まで一気に下った。

 ミノタウロスは先遣隊が排除したのだろう。出くわすことはなかった。


「20階層だ。補給などの必要性はなかったな?」


「ああ。一気に60階層まで下る。ここで寄り道はしない」


 今回の輸送は強行軍だ。

 途中の休憩や補給はなく、一気に60階層まで下るのである。


 そういうことから俺たちが20階層を通過しようとしたときだ。

 銃声が響いた。


「撃たれた!」


「敵襲だ! 応戦しろ!」


 高橋の部下のひとりが悲鳴を上げ、高橋がすぐにそう命じる。

 俺も銃声がした方向に素早くアサルトライフルの銃口を向けた。


 襲撃者は5名程度。

 覆面をして顔を隠し、統一ロシア製のアサルトライフルで武装している。

 しかし、動きは素人のそれだ。

 でたらめに銃弾をばらまいているだけであり、狙いはまともに定まっていない。


「素人だな」


 高橋もその様子を見てそう呟く。


「素人でもアサルトライフルを持っていたら脅威だ。殺すぞ」


「もちろんだ」


 俺がそう言うのに高橋が部下に指示を出す。

 応射が始まり、襲撃者たちが次々に射殺された。

 それからすぐに襲撃者の敗走が始まり、その背中に向けても銃弾が叩き込まれる。


「クリア」


「クリア」


 俺たちは襲撃者たちが排除されたことを確認し、声を掛け合う。


「早速人間に襲われたな……」


 幸先の悪いスタートだ。

 この積み荷が何かは分からないが、人間にとっても襲う価値はあるらしい。

 全く、一体何を運ばされているのか……。


「高橋。情報が洩れている可能性はないのか?」


「こいつは雑な下請けの仕事じゃない。情報漏れはないはずだが……」


「用心した方がよさそうだな」


 情報漏れがないと高橋は断言できなかった。

 可能性があるならば、備えなければならない。

 さっきのは素人の襲撃だったが、もっと計画的に襲撃されれば積み荷が欠ける。


 それから負傷したコントラクターは後送されることになり、俺たちは20階層を急ぎ足で出て60階層を目指す。

 アサルトライフルや機関銃で武装していない分、クリーチャーの方がまだましだ。

 俺たちはクリーチャーたちを蹴散らしながら30階層、40階層と潜っていく。


「ここから先はワイバーンが出没する。注意しろ」


「了解だ」


 40階層以降にはワイバーンが出没する。

 空から襲撃してくるワイバーンはこれまでのそれよりも脅威だ。

 しかしながら、やはり脅威はそれだけではなかった。


「止まれ」


 先頭に立っている俺が隊列を止める。


「地雷だ。赤外線センサーで起爆するしろもの」


「クソ。待ち伏せか」


 仕掛けられていたのは以前にも見かけた地雷。

 大井から五十嵐を引き抜こうとしていた民間軍事会社(PMSC)が使用したものだ。

 赤外線センサーで起爆するものが、俺の目に入っていた。


「先遣隊が偵察を済ませていたはずだが、待ち伏せとは……」


「近くに潜んでいるかもしれない。改めて斥候を出した方がよさそうだ」


「同意だ。こちらから人間を出す」


「俺たちも出る。ひとり貸してくれ」


 俺は高橋にそう言い、高橋の部下ひとりとともに地雷を解除すると先に進んだ。

 俺たちは足音を立てず、慎重に進んでいく。

 地雷は複数設置されており、俺たちはそれを解除して進む。


「ワイバーンがほとんどいない。先遣隊が片付けたというより、待ち伏せしている連中が排除したか?」


 本来なら41階層にいるはずのワイバーンの姿が見えない。

 ワイバーンは全滅しているのかダンジョン内は静かだ。


「はあ。どうやら俺たちを木っ端みじんにしたくてしょうがなかったらしいな」


 そして地雷の中には対戦車地雷のような強力なものも含まれていた。

 機械化している人間でも粉々にできる威力のあるものだ。


「あらあら。やっぱり人間同士の悪意と言うのは侮れませんね」


「そうだな。ダンジョンでクリーチャーではなく、地雷で吹っ飛ばされかかるとは」


 サタナエルは笑いながらそう言い、俺は肩を竦める。


「ん! 敵の気配がする!」


 マルキダエルは不意にそう叫ぶ。


「おい。勝手に動くなよ。どこから気配がするんだ?」


「あの奥だ! 俺に任せろ!」


「だから、勝手に動くなと──」


 マルキダエルは俺の制止を振り切って勝手に走り出した。

 まだ地雷があったりする可能性もあるってのに、あの馬鹿!


「サタナエル、行くぞ!」


「はい、旦那様」


 俺たちはマルキダエルを追いながら、そして地雷に注意しながら、マルキダエルの方が示した方角に向かう。

 銃声が聞こえてきたのはマルキダエルが角を曲がったすぐあとだ。


「銃声……!」


 クリーチャーにも通じる中口径ライフル弾を使用するライフルの銃声。

 それが複数回響いてくる。ダンジョンに銃声が反響し、よく響く。


「マルキダエル!」


 俺が叫んで呼びかけるのにマルキダエルは返事をしない。

 流石のドラゴンでもやられたか……?


 俺がそう不安になりながら角を慎重に曲がると、炎が舞う音が聞こえた。


「はははっ! 弱い、弱い!」


 しかし、俺の心配はいらぬ心配だった。

 マルキダエルは武装した人間を相手に無双していたからだ。


……………………

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