お金稼ぎ
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──お金稼ぎ
マイホームを有するようになってから俺はまた商業地区を訪れていた。
「ううむ。やはり高い……」
俺が購入を考えていた偵察用の無人地上車両は1000万円。
ぼったくり価格のようにも思えるが、これは軍の横流し品だ。高くもなる。
「旦那様。次の目標はどの階層を?」
「50階層を目指したい。いつもソロではその手前で限界が来ていたからな」
俺の到達深度は49階層が限界だった。
というのも、40階層以降では雑魚も強くなるからだ。
弾薬と体力を損耗し、休憩もできない状態では50階層のエリアボスには挑めない。
だから、金を貯めて必要な装備を整えて、50階層に挑みたかった。
「では、また仕事を探さなければいけませんね」
「ああ。とはいえ、毎回美味しい仕事があるわけでもないのが現実だ」
これまではとんとん拍子に仕事が入ってきたが、今は音沙汰ない。
となると、地道にダンジョンに潜って生活費を稼ぐために金品を拾ってくるしかないだろう。
「今日はこれからダンジョンだ。30階層ぐらいまで降りて、金品を回収しよう。それで仕事が入るまでの生活費を稼ぐぞ」
「はい、旦那様。頑張りましょう」
おー、とサタナエルが控えめに声援を送ってくる。
それから俺たちはダンジョンの入り口へと移動した。
今日もダンジョンは人で賑わっている。
ここにいるのは命知らずと言うより、リスクを把握していない人間が大半だ。
きっと『自分は死ぬことなんてない』と思っている人間がほとんどだろう。
「では、行くぞ」
浅層では金品がドロップしても群がる探索者によって、すぐに回収されてしまうのであまり稼げない。
30階層ぐらい潜ってやっとまともに稼げるというぐらいである。
「さてさて、今日は稼ぎがあるといいんだが……」
俺たちは20階層までまずは下ることにし、ゴブリンなどの脅威を軽く蹴散らしながら下り続ける。
しかしながら、積極的に交戦はしない。
そうすることに意味はないからだ。
クリーチャーを殲滅したところで、何かしらのボーナスがあるわけじゃない。
それに弾薬費も考えて戦わなければ。
「ミノタウロスは復活していないし、他のクリーチャーが変異種になったりもしていないな……。そして、お宝もほとんどなし……」
拾えたのは僅かな宝石と小さな銀のインゴット。それぐらいである。
だが、まだ20階層手前であることを考えれば、望みを捨てるには早いだろう。
「ん……?」
俺たちが20階層に近づくと不意に男の叫ぶ声が聞こえてきた。
それに加えてこの足音は──ゴブリンか?
「た、助けてくれっ!」
声のする廊下の向こうから這う這うの体で逃げてくるのは、ひとりの探索者らしき装備の若い男。
その向こうからは無数のゴブリンが押し寄せてきている。
「そこの! こっちだ!」
このままではゴブリンに嬲り殺されてしまうだろう。
このまま見捨てるというわけにもいかず、俺は男とすれ違う形で前に出て、ゴブリンたちと対峙する。
「────ッ!」
3、4匹のゴブリンが一斉に俺に飛び掛かってくる。
「そらよっと」
俺はショットガンからバックショットを浴びせてゴブリンたちを薙ぎ払う。
しかし、後方からは次のゴブリンたちが。
すぐさま次弾をチャンバーに送り込んで引き金を引く。
9発装填されていたショットガンの弾薬を撃ち尽くすと、俺は素早く腰のナイフを抜き、ゴブリンたちに向けてそれを構える。
ゴブリンたちはショットガンの銃撃でミンチになった仲間の死体を乗り越えて迫り、俺はナイフを振るってそれを迎撃。
「旦那様。お手伝いしますよ」
そこでサタナエルが囁く声が聞こえ、残るゴブリンたちが突然青白い炎によって燃え上がって全滅した。
「助かった、サタナエル」
「いえいえ。たまにはお役に立たななければ」
俺が礼の述べるのにサタナエルはにこにことその言葉を受け取った。
「お前、大丈夫か?」
俺は逃げてきた男の方を向いてそう尋ねる。
男は黒髪のぼやっとした感じの風体で、細身だが筋肉があるわけでもなさそうだ。
しかし、装備は立派なものだ。
民生品だが高グレードの強化外骨格、本物の迷彩服、それからドイツ製の最新のアサルトライフルと。
「た、助かった……。恩に着ます!」
男はそう言って俺の方に深々と頭を下げる。
「気にするな。だが、どうしてあんな数のゴブリンに追いかけられてたんだ?」
「それが……分からないんですよ……。最初は数匹だったのに逃げ回ってたらあの数になっていて……」
「誰かにけしかけられたとかではないな?」
「それはないと思います」
「ならいいが」
トレインの連中はクリーチャーを探索者にけしかけて、その隙に背後から探索者を襲うというやり方をやっていた。
その真似事をする人間が出たのではないかと思ったが、そうではないようだ。
「これからは気を付けて逃げることだ。俺だったからいいものの、他の探索者だとお前ごと撃ち殺された可能性があるぞ」
「き、気を付けます……」
ダンジョン内でクリーチャーを意図的に集めて回る行為は、トレインのやっていたことと同じで嫌われる。
この男に悪意はなかったのだろうが、他の探索者は俺ほど寛容じゃない。
「あの、これからまだ下に潜る感じですか?」
「ああ。そのつもりだ」
「よ、よければなんですが20階層までご一緒してもらえませんか……? 一度でいいから20階層が見てみたいと思って、今回ダンジョンに挑んだんですよ」
「へえ。20階層を、ね。別にいいぞ」
「ありがとうございます! お礼は必ずしますので!」
「なら、行くぞ」
思わぬところで仕事にありついた。
まあ、20階層までの護衛だと大した金にはならないだろうが、それでもただ潜るよりは大きく黒字だ。
「ところで、お前の名前は?」
「……星野新と言います」
「分かった、星野。では、20階層に向かうぞ」
俺は新たに同行することになった星野を連れて20階層に。
「しかし……やっぱりダンジョン探索者というのはあなたぐらい動けないとダメなんでしょうか……」
「そうだな。ソロで潜るつもりなら。他に同行者はいなかったのか?」
「低層ならば大丈夫かなと思って……」
「低層だろうとダンジョンはダンジョンだ。危険は常にある」
「身に沁みました……」
俺たちはそれから20階層へと降りていく。
「ここが20階層だ」
「おお。ここが……!」
俺たちが20階層に降り立つと、星野は目を見開き、周囲を見渡す。
「どうして20階層なんかに来たかったんだ?」
「しいていうならば……冒険のためですかね」
「冒険、か」
恐らく星野は最近ダンジョンに来た余所者だ。
外から来た人間にはダンジョンは未だに神秘の場所に見えるのかもしれない。
実際は人間の欲に塗れた場所なのだが。
「この20階層から地上までは自分で行けるのか?」
「……ここで護衛を探して引き上げようかと思います」
「そうか。よければ付き合うが、どうする?」
「おおっ! あなたであれば信頼できます! よろしくお願いします!」
星野はそう言い、暫くの間20階層を探索すると告げて20階層を歩き回り始めたので、俺たちもそれについて回ることに。
星野は無理やり建てられた建築基準法もクソもない建物や薄汚れた銃火器店などを物珍しそうに見て回っていく。
「おや。竜殺しのお兄さんじゃないか!」
そこであのラーメン屋の店主が目ざとく俺のことを見つけて声をかけてくる。
「竜殺し?」
「知らないのかい? そこのお兄さんは前にこの階層に現れたドラゴンをソロで討伐した人なんだよ!」
店主がそう言うと星野は驚いたように目を見開いて俺の方を見る。
「まさか、あなたが地下街メイロとコラボしたシエラさん!?」
ああ。また面倒なことになりそうだ……。
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