ライブアクション
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──ライブアクション
俺たちは31階層から40階層を目指して進んでいる。
40階層までは極力無駄な戦闘は避ける方向で進むつもりだったが、3回ばかり交戦がどうしても避けられない局面があった。
リザードマンが階段付近をうろつき、行く手を塞いでいたのだ。
「俺が片付ける」
そこで俺が前に出た。
40階層が近づくのに地下街メイロたちの体力を温存させておきたかったのだ。
俺の方にはまだ余裕がある。
サプレッサー付きのショットガンにスラッグ弾を装填し、静かに暗闇を背中からリザードマンに接近する。
リザードマンの数は4体。これなら大した手間ではない。
静かに、静かに敵に接近して背後からまずはスラッグ弾を脳天にお見舞いする。
脳漿が弾け飛び、飛び散った脳漿が別のリザードマンの顔面に飛び掛かった。
フォアエンドを金属音を立てて動かして、次弾をチャンバーに送り込んで混乱状態のリザードマンに叩き込む。
ここでリザードマンが混乱から立ち直り、こちらに手に握ったこん棒を向ける。
俺は地面を蹴ってその垂直に振るわれた打撃を回避し、次弾を装填してまたリザードマンの脳天を吹き飛ばす。
「────ッッ!」
だが、最後の1体が雄たけびを上げて突撃してくる。
こっちの装填より敵の動きが速いと判断した俺は腰のホルスターから超高周波振動ナイフを抜いて振るった。
鮮血が線を描いて舞い、ダンジョンの壁にリザードマンの血が吹きつけられる。
そして、リザードマンは全滅したのだった。
「おお……! 噂に違わぬ凄まじい腕前……! というか、というか、コメントの盛り上がりが凄いですよっ!」
リザードマンが全滅すると地下街メイロが興奮した様子でそう言う。
「コメントが?」
「ええ! 『プロすぎる!』とか『エイムの速度が人間の動きじゃない……』とか『何をどうやればあれだけ滅茶苦茶に動けるんだ?』とか!」
「素直に喜んでいいのか分からないコメントがあるな……」
「こういうのはとにかく盛り上がれば勝ちなんですよ!」
「そうなのか? 本当に分からない文化だ……」
俺はクソッタレなクリーチャーが死ぬのにいちいち憐憫は覚えないが、それを楽しむつもりもなかった。
それをわざわざ動画で見て喜ぶ連中の気持ちは分からん。
「まあ、中にはもっと過激なのを配信している人もいますから……」
そこでヒナがどこか憂鬱そうにそう言う。
彼女の暗い声色から考えると、過激と言うのは悪趣味な方向での過激さなのだろうと窺えた。
「ともあれ40階層に向かいましょう。この調子で、どんどん!」
盛り上がってきたとばかりに地下街メイロはそう言い、俺たちは40階層への道のりを続ける。
リザードマンの他にも1階層から出没している人食いネズミなどのクリーチャーは出るが、それらは大した脅威ではない。
それらは脅威と言うよりも死体を片付けるスカベンジャーみたいなものだ。
クリーチャーの死体が残らないのも、人間の死体が残らないのも、連中のおかげ。
「次のフロアが40階層だ。注意しろ。事前の情報が確かなら、ただのキメラじゃない可能性もある」
「了解です……! 危険なときは即座に撤退です!」
俺たちは脅威が大きかった場合の確認をし、ゆっくりと40階層へと進む。
「こういうときに無人地上車両なんかがあれば便利なんだけどな……」
俺はそうぼやきながら40階層に降りる螺旋階段を下っていく。
それから静かに耳を澄ませ、40階層にいるはずのキメラの動きを探る。
だが、キメラというのはどのような動物がベースでもあまり足音を立てない。
だから、微かな動きの音を探らなければならないのだ。
「……いるな」
俺は微かに重量のある何かが動く音を捉えた。
そちらの方向にショットガンの銃口と視線を向ける。
「距離400、方向は11時の方向。警戒しろ」
「了解、了解」
俺がそう警告し、音の方に静かに歩みを進めると音が動いた。
明らかにこちらに向けてその動きを変えている。音が近づいている。
「気づかれた。来るぞ──!」
俺は暗闇の中を見つめ、そこから飛び出してくるクリーチャーに備えた。
音が近づく。
獲物を捕らえたとばかりに確信に満ちた速度に変わったそれが急速に接近し──。
「来やがったな……!」
現れたのはジャガーの頭にゴリラのような肉体、そして巨大な蛇の尾を有するクリーチャーだった。
まだら模様の分厚い毛並みをしており、ジャガーの鋭い牙の並ぶ顎が俺たちをかみ砕こうと突き出される。
こいつが今回のキメラかっ!
「喰らいやがれ」
俺はそれに向けてスラッグ弾を叩き込む。
そのキメラは俺から放たれたスラッグ弾を前足で弾き、さらに地面を蹴って跳躍し飛び掛かる。
しかし、その相手は俺ではなく──地下街メイロだ!
「メイロ! そっちに来るぞ!」
俺は素早く警告を発する。
キメラが迫る地下街メイロの方はショットガンの銃口をキメラに向けて素早く引き金を引いたが、やはり放たれたスラッグ弾をキメラは弾いた。
「嘘!? 銃弾を弾いたっ!?」
そして、瞬く間にキメラは戸惑う地下街メイロに肉薄し──。
「メイちゃん!」
ヒナが叫びとともに狩猟用ライフルを構え、キメラに向けてライフル弾を放つ。
俺と地下街メイロを視界に収めていたキメラにとってヒナからの攻撃は死角からの攻撃になり、流石に弾くことはできなかった。
ライフル弾はキメラの右肩を貫き、キメラの表情が苦悶に歪む。
それからすぐにキメラは攻撃目標をヒナに切り替え、彼女の方に駆ける。
ヒナの狩猟用ライフルはボルトアクション式のもので、精度は高いのだが反面、連射速度に問題がある。
キメラはまさにその次弾装填までの時間でヒナに迫っていた。
「お前の相手はこっちだ」
俺はそんなキメラに背後から襲い掛かった。
射線上にヒナがいる以上、銃は使えない。ここで選んだのはやはりナイフ。
俺はナイフでキメラの首を狙った。だが、やつは俺の殺気に気づいたのか咄嗟の動きで身をひねりそれを回避する。
俺とキメラの距離は1.5メートル程度となり、俺はナイフを構えて近接戦闘の姿勢を取った。
「そら、来やがれ」
俺が挑発するように指を動かすのに、キメラが乗った。
キメラは威嚇するようにどんどんと地面を腕で激しく叩くと、俺の方に飛び掛かってくる。
「よっと!」
俺は身体全体を使って繰り出されたキメラのパンチを躱す。
人狼のように鋭い爪があるわけではないが、その打撃力は激しいものと推測できる。
何せミノタウロス並みの巨体と筋肉だ。ダメージがないはずがない。
「────────ッッッッ!」
不明瞭な咆哮。臓腑を揺るがす重低音のそれが放たれた次の瞬間、再びキメラは拳を俺に叩きこもうとする。
「はあっ!」
しかし、今度は俺がカウンターを決めた。
放たれた拳を躱すと同時にやつの腕にナイフを突き立てる。
分厚い筋肉と毛皮に覆われていようとも、超高周波振動ナイフはバターを斬るようにあっさりとそれを切断した。
しかし、致命傷とはいかなかった。
表面から筋肉までを僅かに裂いただけで、敵は今だ戦闘力を保持している。
クソ。不味いな。
こいつは30階層に出た人狼変異種より強いかもしれない。
あれは皇の支援もあって倒せたが、今回は……。
「シエラさん! 援護しますよ!」
「やめろ。この距離じゃ友軍誤射を起こすだけだ」
「でも……!」
俺とキメラの距離はさっきから最大でも3メートル程度しか離れていない。
プロの軍人でもない地下街メイロたちに誤射を起こさず、キメラだけを撃たせるのは難しいだろう。
「はーっはっはっは! いよいよ俺の出番のようだな!」
そんな状況で声を上げたのは──マルキダエルだった。
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