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ミノタウロス再び

……………………


 ──ミノタウロス再び



 俺たちはダンジョンに肩慣らしのために潜っている。


 目の前にゴブリンとダイヤウルフの群れがいる。数は4体と2体。


「行くぞ」


 俺は地面を蹴ると一気に敵に肉薄。

 この速度が段違いだ。弾丸並、いや体感では弾丸以上の加速を実現している。


「そらよっと!」


 俺はナイフを振るってゴブリンの首を裂き、ダイヤウルフに蹴りを叩き込んで撃破。

 周囲には血をまき散らしたゴブリンとぐしゃりとひしゃげたダイヤウルフの死体だけが残る。


「こんなもんか」


 さっとナイフの血を払い、俺はそう呟く。


「調子はよさそうですね、旦那様」


「そうだな。悪くない。しっくりくる」


 前にも言ったように軍に所属していたときには、この超高度軍用グレードの人工筋肉を俺は使っていた。

 だから、出力が上がるのに戸惑う気持ちはない。

 むしろ懐かしい感じだ。


 軍にいたときにはこういう高価な装備を扱わせてもらえた。

 皆から信用され、頼られ、讃えられた。

 それが戦争が終わった今となっては……。


「いかんいかん」


 ネガティブな精神状態は肉体のパフォーマンスに影響する。

 こういう考えは今は極力しないようにしなければ。

 自分を哀れに思い、世界に愚痴るのはダンジョンを出てからだ。


「このまま10階層を目指すぞ。ミノタウロスで腕試しをしたい」


「おーっ!」


 何もしないマルキダエルが一番気合を入れているのは謎である。


 俺たちは雑魚を蹴散らしながら、10階層へとひたすらに潜っていく。

 その途中で何人かの探索者とすれ違ったが、知った顔はいなかった。

 


「10階層にミノタウロスはいるのかね……」


 ミノタウロスが誰かに倒されていたら無駄足だ。

 そのときはダンジョン内の金品でも拾って帰るか。


「そろそろ10階層だ」


 と、9階層に入ったところで人間の走る音が聞こえてきた。

 ゴブリンなどではないのは間違いなく、2、3名ほどのそれがこっちに近づいてくる。

 しかし、その後ろからさらに別の巨大な何かの足音がする。


「だ、誰か! 助けて!」


 聞き覚えのある声だ。

 しかし、誰かすぐに思い出せるほど親しい相手ではない。

 その声が近づいてきて、俺は身構える。


「あいつらは……」


 ライオットシールドを持った女とショットガンで武装した女のふたりだ。

 確か九条と組んでいたリリスのクランメンバーだな。


「おい! どうした!?」


 俺はこっちに走ってくるふたりの女にそう尋ねる。


「ミミ、ミノタウロスです! 10階層からミノタウロスが上がってきて……!」


「分かった。下がっていろ。俺が相手にする!」


 俺はそう叫んでふたりを後ろに逃がすとナイフを握った。

 それからふたりのあとを追う足音の接近に身構える。


「あれは……」


 それは確かにミノタウロスだった。

 だが、その体毛はこれまでの赤褐色のそれではなく、まるで酸化した血のように赤黒いものであった。


「クソ。こいつも変異種か……?」


 俺は嫌な予感を感じながらも、ミノタウロスの動きを待つ。

 ミノタウロスは俺を視認すると、じっとその不気味なほど黒い瞳で俺を見つめて、握るこん棒を構えた。

 相手はやる気満々のようだ。


「オーケー。相手してやろう」


 俺は超高周波振動ナイフを構え、じりじりとミノタウロスとの距離を詰める。

 武器のリーチはあいにくミノタウロスの方が上だ。

 だが、ミノタウロスのこん棒はリーチが長すぎる。それが弱点だ。


「────ッ!」


 ミノタウロスがこん棒を振り回して、俺の方に迫る。

 しかし、リーチが長すぎるこん棒は狭い9階層の廊下内では壁にこん棒がぶつかってしまう。

 だから、リーチの長い武器は絶対に有利とも言えないのだ。


「そら!」


 俺は一瞬こん棒が引っかかったことで動きが鈍ったミノタウロスの懐に飛び込み、ナイフをやつの喉に突き立てようとする。

 しかし、すぐさまミノタウロスはこん棒を振り回すのではなく、盾にするように短く握り、ナイフの刃を受け止めた。

 超高周波振動ナイフは木製のこん棒など軽く切断するが、これでミノタウロスを仕留めそこなった。


「────────ッッッッ!」


 ミノタウロスは怒りに叫び、真っ二つになったこん棒を投げ捨てると闘牛の牛のように俺の方に頭をむけて突撃してくる。


「やれるか……!?」


 俺はぐっと両足に力を入れて仁王立ちになり、ナイフを構えてミノタウロスの突進に備える。

 本来ならばそれは大型トラックが突っ込んでくるようなものであり、当たれば原型を留めることなくくたばるだろう。

 だが──!


「来いよ!」


 俺はミノタウロスの突撃を前に身構えるのみ。

 そして、狭い通路をミノタウロスは突撃してきて、その巨体が俺にぶつかる。


「ふんっ!」


 俺はミノタウロスの頭を押さえて、完全に突撃を抑え込む。

 ミノタウロスの突進で多少なりの衝撃を受けたが、俺の超高度軍用グレードのそれに換装された四肢はそれを受け止めきった。

 ミノタウロスが戸惑うように小さく唸るが、俺はにやりと笑う。


「オーケー。くたばりやがれ」


 ミノタウロスの首に向けてナイフを振り下ろした。

 ぐっさりとナイフの長い刃はミノタウロスの首を裂き、傷口から鮮血が噴き出す。

 ミノタウロスはばたばたとナイフから逃れようと暴れたが、俺はやつを抑え込んだまま失血死するまで待つ。

 やがてやつはぐったりと動かなくなり、そこで初めて俺はやつを放した。

 ミノタウロスの死体が地面にどんと転がる。


「ふう。片付いたな……」


 俺はそう呟き、背後を振り返る。

 背後にはまださっきのふたりの女がいた。


「大丈夫か? 怪我は?」


 俺はふたりにそう尋ねる。


 ショットガンの方は茶髪をショートボブのちょっと童顔をしており、、ライオットシールドの方は人工的に赤く染めたミディアムロングにややつり上がった切れ長の目をして大人っぽい。

 背丈と体格は似たりよったりだ。


「た、助かりました~……」


「あ、ありがとうございます!」


 そんなふたりが俺に頭を下げて礼を述べる。


「構わんよ。だが、お前たち九条たちと組んでたろ? 九条たちは?」


「今日は私たちだけで潜ってて……。無理せず9階層までで引き上げるつもりで来たんですけど、9階層に来たらあのミノタウロスがいて……」


「そうか」


 とりあえず九条と桜庭が逃げ遅れて死んだというわけではないのに俺は安堵した。

 一度は助けてやった連中だ。死なれたら目覚めが悪い。


「それじゃあ今から地上まで戻るのか?」


「は、はい。そのつもりです。今日はもう~……」


「なら、一緒に地上まで戻るか?」


「ぜひ!」


 そこでそのふたりははっとした様子で顔を見合わせる。


「あの、自己紹介が遅れました。私は黒沢(くろさわ)(りん)です~!」


「あ、あたしは水原(みずはら)アリサていいます」


 ショットガンの少し間延びした喋り方方が黒沢で、ちょっとギャルっぽいライオットシールドの方が水原。


「分かった。短い間がよろしく頼む、黒沢、水原」


 俺はそう言い、僅かにミノタウロスの死体を振り返る。

 こいつの脳みそも五十嵐に提供したら金になったりしないだろうかと思ったりもしたが、脳みそ抱えて動き回ると言うのはちょっとぞっとするので諦めた。ホラーが過ぎる。


「では、地上に向かおう」


……………………

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