第38話 〝小覇王〟大喬、襲来――しかし、その時――!
――――――★女軍師・甄嘉のやわらか人物評★――――――
『大喬』プレイヤー選択可能ヒロイン(敵対勢力)
名前の由来は〝喬公〟という人物の娘という意味。
姉の大喬と妹の小喬は、合わせて〝二喬〟と称えられる絶世の美女姉妹で、演義なんかでは「あまりの美しさに月は光を消し、花も恥じらい蕾に隠れる」なんて表現されるほど。
〝ロード・オブ・三国志〟シリーズでも姉妹共に選択可能ヒロイン。
特に姉の大喬は……清楚でお淑やか、触れれば手折れそうな花の如く儚げな細身、争いを好まず虫一匹も殺せぬ、乱世において清廉潔白を貫く心優しい美女……。
はい、ここ大事なので、ちょっと覚えておいてくださいね――(女軍師、困惑中)
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果たして、私の目の前に現れた、ゲームでも清楚系美少女として名を馳せた大喬の、その見目はといえば――
その五体は、あまりに筋肉。2M近く見える長身に、長い四肢は鍛え上げられた筋骨が隆々と盛り上がり、全身で豪傑を主張していた。
出で立ちは〝ここ中華やぞ〟とツッコみたくなる、どこで作ってきたのかタンクトップ――ゆえにこそパッツンパッツン、堂々と腕組みする姿が強烈すぎる。
クセ毛気味のロングへアと、美人だけどもはや精悍に結果なっちゃってる系の顔立ちで、不敵な笑みを浮かべている。そんな大喬……いや大喬さんを見て、私は思わず叫んだ。
「こ、こっ―――これじゃ〝大喬〟っていうか〝大強〟じゃん!?」
「オッ、それイイな♪ 満更でもないぜ♪」(好感度↑)
満更でもあって欲しかった……と、あまりのインパクトに呆然としてたけど、今はそんな場合じゃない。至らせてしまった〝赤壁〟を、巻き返さないと……。
なのに、当然というべきか、大喬さんは私の前に立ちふさがってくる。
「おっと、まあ慌てんなって。ウチが用あんの、アンタなんだからサ……ええと、何だっけ……甄氏、だっけか?」
「! ……ええ、ですが今は、甄嘉と名乗っていますけど」
「へーえ、甄嘉ちゃんね……おし、覚えた。んじゃ……一緒に来てもらうかな♪」
「ッ。だ……誰が捕虜になんて!」
身を抱きしめ庇うように後ずさると、控えていた私兵が数十人と飛び掛かる。
『ええい、我らが主、甄嘉さまに手を出させるか――怪しげな賊徒め!』
「オイオイ、邪魔だよ……軟弱野郎が、ウチの邪魔してんじゃあネェ――!」
『へ。……ぎ、ぎっ……ギャアアアアアッ!!』
『なんと不如意な!』『我が力、及ばざり!』『またのお越しを――!』
「なっ。へ、兵士たちが、一瞬で……こんな武力、しかもヒロインで……あ、ありえない……」
今現在、私を護衛する私兵は千――その多勢でも歯が立たない異様な豪腕で、むしろ誇らしげに力こぶを作り、大喬さんは不敵な笑みを深める。
「ウチは転生前、女子総合格闘技で、それなりにやってたからねぇ――まあ諸事情あって、非公式の地下格闘技がメインだったけどナ。で、後は、アレだ……孫策ってヤツから、〝小覇王〟とかって技能を継承した……とか何とか?」
「え。……えっ!? そんな、まさか……」
その事実は、最悪――今の状況において、最悪の一言だ。
――――――★女軍師・甄嘉の技能解説★――――――
・孫策専用の固有技能〝小覇王〟→大喬専用の継承技能〝小覇王〟
孫策の異名にして〝ロード・オブ・三国志〟では固有技能となっている〝小覇王〟――物凄く端的に言えば『技能所持者の武力を瞬間的に、劇的向上させる』効果だ。
この技能を発動させれば、本来は武力が低いヒロインでも、武力上位の武将とも戦えるほど……それを元から総合格闘技をやってる強い人が使うなら、そんなの……瞬間的にとはいえ、呂布レベルの強さに、なっちゃうんじゃ……。
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目の前の〝敵の転生者〟が、とんでもない脅威なのは理解できた――けど、推しから技能を継承とした同志としては、少しばかり思うところがある。
「っ、そう……大喬さん。貴女も、大切な人から技能を継承して……その遺志を継いで、戦いを――」
「イヤ? ウチこのゲームとか、三国志? とか良く知らねーし、思い入れとかナイけど……何か孫策ってのコッチの世界きた時点でもう死にかけで、何か知らんケド挑んできたからブッ倒して、そしたらくれたんだよ、技能」
「あのそれって孫策さん、毒とか受けた後じゃないです? 大喬さんがトドメさしたんです?」
「いやーでも挑まれたからには、しょうがないジャン? っても瀕死だったクセに、とんでもなく強かったよ。ああいう喧嘩なら、またやりたいネェ……ハハッ♪」
せ、戦闘民族すぎる……何だろ、サイちゃんといい、転生してくる子にはヤベー子しかいないのかしら。何か今の、私にも刺さったけど。
けれど今は、そんなヤベー人――大喬さんの狙いが、問題だ。
「で、だ。甄嘉ちゃんよぉ――ウチの愛する妹様が、アンタをご所望だ。てなワケで、連れて行かせてもらうよ」
「!! 妹……小喬。彼女も、転生者……なのね?」
「オッ、話が早いねぇ♪ そうそう、そんなワケだからよ……アンタだって、会ってみたいだろ? なあに、悪いようにゃしないサ……ちょっとは怖い目、見るかもだけどな♪」
「…………ッ!」
他の転生者に興味がある、それも確か――だけど〝怖い目〟なんて、捕虜になると考えれば、言われるまでもない。相手の狙いによっては、どんな酷い目に遭わされるか。
けれど〝烏林〟の陣営は大火計により、火の海だ。しかも目の前には、技能〝小覇王〟を持つ、恐るべき相手が構えている。
策を施す暇も無ければ、神技能〝神算鬼謀〟とて、効果を発揮しきれない……私の貧弱な腕力では、抵抗なんて無意味。
もはやここまでか――諦めかけた、その時。
『――させません。その人を、アナタになんて渡しませんから!』
「えっ。……えっ、ウソ……ウソ? この声……まさか」
信じられない――ちょっと色んな意味で、信じられない。
こちらの世界に来て初めて出会った、私と同じ境遇の彼女の声に――思わず涙が溢れそうになる――!
「甄お姉さまは、渡しません――なぜならば!
甄お姉さまに寄生してイイのは、わたしだけだからだぁ――!」
「寄生を許した覚えは無いわサイちゃん。働いてサイちゃん」
溢れかけた涙も引っ込んだわ。
対する大喬さんも、怪訝そうな表情で首を傾げている。
「あん? アッチも転生者か? にしたって、頼りないねぇ……まあ甄嘉ちゃんも、か弱そうで大差ないけどよ♪」
「……ええ、仰る通り。でもね、大喬さん……この世界における強さは、武力だけじゃないのよ。それを今から、教えてあげる――」
「……なんだって?」
大喬さんは要領を得ない様子だけど、私だって驚かされてばかりじゃいられない。
来なさそうだな……と心配していた蔡琰ことサイちゃんだけど、来てくれたなら、つまり切り札が完成したことも意味している。
その証拠に、援軍まで率いて来てくれたナイスミドル、程昱殿が、燃え盛る陣営に消化の指示を出しつつ、私に向けてウインクしてくれた。
そう、今まさに、開発してもらっていた兵器は、サイちゃんの手にある。
元は歌動画から始まった〝Si-Ren〟を歌姫へと押し上げた、相棒とも呼べるだろう存在。
即ち――アコースティックギターが、三国志の舞台に誕生したのだ――!
その開発者の程昱殿が、堂々と叫ぶ。
「これぞ甄嘉殿からご依頼を受け、造り上げた、この程昱の発明――
その名も〝亜光洲程昱魏立阿〟也――!」
「さすが程昱殿ッ……ん? ……ん? あれ、まさか……ん?」
あこう、す……ていいく。……程昱?
…………。
今、この瞬間。
とあるバーテンダーじみた軍師さんの、さりげねぇ自己主張がひっそり垣間見える中。
「さあ、いきますよぉ――兵士の人たち! わたしの歌を聴っけぇ~!」
逆転の、まず一手目が――サイちゃんの手で奏でられる――!




