五十四頁目
一方、Dが連れ去られるのを隠れて見ているしかなかったバンたちだったが、こっそりユーリの部下、ガイウスの後を尾け、運び込まれた場所を特定することに成功していた。
そこは元は太子宮とも呼ばれていた王家の持ち物の屋敷で、守りは堅牢、警備は厳重、とてもじゃないが探索者四人のパーティが忍び込んだり正面から突破して女の子を奪還しようなんて考えられるようなヤワな建物ではなかった。
それでも、Dに命を救われた四人は彼女を助けようと屋敷の出入りをこっそり監視しながら機会を窺うことにしたのだった。
「あの側近みたいな奴は、出てったきり帰ってこないな」
「夜明けを狙って忍び込む……?」
バンの言葉に、エーメが小さな声で物騒な提案をする。いつも口の中でボソボソ喋る彼女が声を潜めると何を言っているのかよく分からない。バンはちょっと考えてから聞き返した。
「ごめん、なんだって?」
「夜明けに忍び込むのかって」
「夜明けか……。交代の直前や直後を狙うより、ちょっとダルくなるタイミングを見計らった方が良くないかい?」
「バンの言う通りじゃないかな、私でもそうするよ~」
「ほら、Dちゃんもそう言ってるし。……アレ?」
円陣を組み、顔を突き合わせて相談していたバンたちの輪の中にいつの間にかしれっと加わっていたのは……
「Dちゃん!」
「Dちゃん!?」
「にゃんで!?」
「無事だっ…………左手、どうしたの……?」
エーメの問いに、手首から先のない左手を持ち上げながら、事も無げにDは言った。
「ああ、これ? 出てくるのにどうしても輪っかが邪魔だから仕方なくね~」
「大変だにゃあ……」
「慣れたら簡単だよ?」
「……自分の手首を切り落とすことに慣れるんじゃありません!」
女の子三人はさすがにドン引きして言葉もない。代わりにツッコミを入れたバンに、Dはへらへらと笑いながら抱きつく。
「やぁん、バンママ優し~!」
「誰がママか! 俺は子ども生んだ覚えなんかありませんよ!」
「きゃはは、こわ~い!」
夜中だというのに漫才を始める二人。アイは安心したように笑い、ティナは「しょうがないにゃあ」と肩をすくめる。エーメはバンの袖を引っ張り、「移動しよう」と促した。
「……まず聞くけど、その手首から先はどこへやったの?」
「ちゃんと冷やして持ってるよ~。最初はくっつけようと思ったんだけど、私の力で切断するためには、間接部分を壊しちゃうのが手っ取り早かったから……くっつかなくなっちゃったんだよね~!」
「そう。後で見せて。ワタシが、ちゃんと治すから」
「ありがとう、エーメ!」
療術士であるエーメはこんな会話ぐらいではオタつかない。近くで聞いていたティナは「うへぇ」と顔をしかめた。痛い話は苦手なのだ。でも、ここで何か言うとさらに具体的な話になってしまうことは経験から分かっていたので黙ることにした。
(お触り厳禁にゃ〜)
◇◆◇
移動すると言っても、人里まではかなり離れている場所である。休めるような酒場も宿も、一番近場を選んだとしてたどり着く頃には明け方だ。青銀の月に照らされた獣道を用心深く歩きながら、これまで離ればなれになっていた間の情報を擦り合わせることになった。
Dは最初から、ユーリの屋敷での詳細な出来事を彼らに語るつもりはなかった。バンたちが自分を助けるために危険を承知でユーリの部下、ガイウスを追ってくれたことには感謝していたから、彼らを危険に晒したくなかったのだ。どこまで伝えるべきか、下手を打つとDはともかく彼らの命が狙われることになる。そのため、ユーリの目的がケテルの玉座であることと、優秀な後継者を得るために手当たり次第に女の子を集めていたことをぼかしながら説明した。
「胸くそ悪い話だなぁ」
「ええ、でも、“選定の儀”から漏れたユリウス王子では王位を継げませんから、子どもを欲しがるのはわかります」
「そうは言ったって……」
感情で動く善人に理屈屋、良い意味でも悪い意味でも場を動かすトリックスターに全体のフォロー役。
彼らの会話を聞きながら、戦力バランスだけの問題でなく、なかなか良いパーティに育ったなぁとDは思った。麗筆の言った通り、Dがそのまま彼らと行動を共にしていてはここまでの成長は望めなかっただろう。
Dが捕らえられた時にも、自分たちではユーリに敵わないと、彼我の戦力差をきちんと分析できていた。感情論で飛び出していたら、殺されて終わりだったろう。それに、焦らずに敵を追跡し、情報収集に努めるなど救出作戦を立てるための前段階はクリアしている。
Dは確信を持って頷いた。今の彼らになら、手助けを頼んでもいいかもしれない。自分たちの力を見極められるなら、途中で危なくなったときに依頼を破棄して逃げる判断も下せるだろう。
「ねぇ、みんな、私からみんなに依頼をしたいんだけど受けてくれない?」
「……聞こうか」
四人はさっと顔を見合わせた。リーダーであるバンが口を開く。
(ん~、グッド~!)
知人の頼みとはいえ、バンが依頼を受ける前に内容を確認しようとしたことにDは満足して頷いた。心の中では拍手喝采である。
(これで、心置きなく依頼できるね!)





