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54話「ウルトラレア」


「詳しいことを話してくれ。昔に何があった?」


「井伊は井伊谷に古くから住む国人でございます。南北朝の折には我ら今川は北朝に与しましたが、井伊は南朝に付いて我らと争いました」


 なるほど、昔から今川家と井伊家は争ってきたのか。今川と井伊は微妙な関係ってことだな。


「その後今川家が遠江の守護職を得ますと、井伊は今川に従いました。しかしおよそ十五年ほど前に前城主、井伊直盛の叔父であった井伊直満と直義の兄弟が謀反を企んでおったことが露見、大殿の命で自害致しました。当時幼かった現城主の直親はその直満の子でしたが、城主の直盛には男子が居りませんでしたので将来娘と結婚させるつもりで養嗣子ようししとしておったのでございます」


 話がややこしいな。前の城主井伊直盛には後継ぎの男子がいなかったから、叔父の息子である直親を娘の将来の婿と跡取りを兼ねて養子にした。ところがその後その叔父が謀反の計画がばれて切腹させられた、ってことか。ひょっとしてその娘っていうのが……なるほどね。


「そりゃあさぞかし揉めただろう」


「はい、謀反人の息子の直親も童とはいえ罪に問うべしという声はありました。しかしいつの間にか姿をくらまし、生死も不明のまま十年もの間身を隠しておったのでございます」


「それが何故今は城主になっているんだ?」


「五年ほど前に突如姿を現し、井伊直盛が亡き大殿様に許しを乞うたのでございます。大殿様はそれを御許しになりました。それが桶狭間にて大殿と共に前城主の直盛が討ち死に、直親が跡目を継ぐことになったのでございます」


 そうか、そういう事か。


「直親は謀反を企んだ直満の息子、実の父を自害させた今川を恨んでおるに違いありませぬ。謀反の理由は明らか。先手を打ってこちらから兵を差し向けるべきでございまする」


 読めたぞ。きっと史実ではこの謀反騒ぎで井伊直親が死んで、後継ぎがいないから仕方なく女である直虎が城主になったんだ。で、その直親の子が井伊直政になるに違いない。こりゃあ慎重にしないと、ウルトラレアのチート武将を取り損ねるだけじゃなくて、今川滅亡ルートへの分岐になりかねないな。


「なあ、その井伊直親には男の子がいるか?」


「はて、確か子はおらぬはずですが」


 なんだって、まだ生まれてないってか! そりゃ大変だ。俺が歴史に関わったせいでイベントの流れが早くなってるのかもしれない。これは絶対に井伊直親を殺すわけにはいかないぞ。




 

「氏真どの、いかがなされるおつもりです。兵を送られますか」


 俺が悩んでいると、寿桂尼様ばあちゃんが尋ねてきた。いかん、兵を差し向けるのは絶対にダメだ。少なくとも息子が生まれるまでは直親を殺す訳にはいかない。


「いえ、まずはもっとちゃんと真相を調べたいと思います。井伊をどうするかはその後で」


「しかしっ。今にも謀反が起きるやもしれぬのですぞっ」


 三浦正俊オッチャンはあくまで征伐するべしという考えのようだ。困ったな。


「信置、どう思う?」


「どうやら殿は井伊を討つことに気が乗られぬようですな。でしたらまずは他への備えを優先させては如何でしょう。小野道好からの知らせでは、井伊が立つ前に天野影信、飯尾連竜、小笠原氏興らが謀反を起こすと。でしたらとりあえずそちらの備えはしておくにしかず」


 なるほど、それがいいかもしれない。井伊直親を殺すのはまずいが、反乱を放っておくのはもっとマズい。とりあえずはその路線で行くか。


「よし、ではその線で行こう。明日の評定はそれで進めるからよろしくな」


「しかし、それでは手遅れになるやもしれませぬぞっ」


「三浦殿、氏真どのには何かお考えがあるご様子。ここは従いなされ」


 オッチャンもばあちゃんに諭されては弱い。不満げながらも黙った。ばあちゃん、サンキュー。





 評定の間に続々と家臣たちが集まっている。だが井伊直親や天野影信、飯尾連竜、小笠原氏興らの姿はない。来てないってことはやっぱり、なのかな。


「みんなご苦労。実はある者達が謀反を企てているという情報が入った。それで集まってもらったんだ」


 俺が話し始めると皆驚いた様子で聞いている。庵原忠縁の兄、忠胤ただたねが声を上げた。


「ある者達とは誰に御座いまする」


「今挙がっている名前は天野影信、飯尾連竜、小笠原氏興の3名だ」


「どれも遠江に城を持つ者どもですな」


 岡部元信が言う。相変らずの山賊顔だな、いいかげんその無精髭は剃った方がいいぞ。


「そうだ。あとこれもまだ未確認の情報だが、その背後で井伊直親が糸を引いているという情報もある」


 俺がそう言った途端、年配の男が立ちあがった。


「お、お待ちくだされっ。それは何かの間違いでござりまするっ」


「ほう、どうしてそう思うんだ?」


 俺が尋ねると男は慌てて頭を下げた。


「舟ケ谷城を預かります新野親矩にいのちかのりにございます。井伊は我が縁戚、当主直親は幼い頃からよう知っております。決して今川家に反意を持つような男ではございませぬ。何かの間違いかと」


「そのような言葉、信ずるに足らぬ。そもそも井伊直親の実の父は謀反人ではないか。その縁戚となればお主とて下手をすればどう転ぶか分からぬ」


 新野親矩が必死に言う横で掛川城主、朝比奈泰朝やすともが言い捨てた。


「我らが今川に弓引くなどとんでもございませぬ。直親の父の件にしても疑わしき所もございます。此度は何とぞご寛恕を賜りたくっ」


 なおも必死に言い立てる。親戚とはいえ他人の事なのに、このお爺さんいい人だな。

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