19話「論戦」
10日連続2話投稿、最終日です。
今日もよろしくお願いします。
俺の言葉を聞いた朝比奈信置が発言を続ける。
「まずは家中をまとめる、それも良いでしょうが織田を捨て置いて良いという事にはなりますまい。勢いに乗る織田は兵もしくは調略により南尾張や三河に手を出して来ましょう」
「それも考えてある。まず、尾張の城は全て諦める。あんなもの守る価値はない。既に鳴海の岡部元信にも城を引き渡して出ろと使いを出してある」
「ほう、南尾張は鶏肋という訳ですな。ですが三河はどうなされます」
豊かな尾張北部と違い、今川が抑えている尾張南部は不毛の地だ。こっちから尾張に攻め込む意志がない以上、死守する意味はない。信置が言った『鶏肋』っていうのは確か三国志に出てくる言葉で、肉のほとんど付いてない鶏の骨のように捨てるのは惜しいが持っていても仕方ない物っていう意味だったと思う。その通りなんだけど洒落た言い方しやがって。俺が三国志読んでなかったら通じないぞこのキザ野郎。横山先生ありがとう。
「三河にも手を打ってある。三河西部を松平元康に与え、国人衆をまとめて織田を防げと命じておいた。今ごろもう岡崎に入っているはずだ」
「なんとっ! 誰にも諮らず尾張の城を捨て、松平に西三河を与えるなどかつて前例が御座らぬ。いくら当主と言えど独断もすぎるというものではございませぬかっ」
また葛山氏元のオヤジが立ち上がってわめき始めた。だが今回は何人もの家臣たちも一緒になって騒いでいる。それだけ反発が強いってことだろうが、こっちだって必死だ。何がなんでも松平元康を引き止めなきゃいけないんだ、負けるわけにはいかない。よろしい、では戦争だ!
「俺が今川の当主だ。自由にやらせてもらう。それが納得いかない奴はすぐに自分の城に戻り兵を起こすなり、他家に走るなり、好きにすればいい。ああ、それから今預かっている人質も全て帰してやるから安心しろ。人質を盾に脅して言うことを聞かせようなんてケチな事は言わん」
「我らの具申には耳もお貸し頂けぬと仰られるのですかっ」
俺の剣幕に驚きながらも氏元のオヤジはなおも喰いついてくる。なかなか根性入ってるじゃないか。
「もちろん必要な時は聞くさ。だがな、前例がないだのこれまでと違うだのっていう下らない意見を聞くつもりはない。今は戦国、しかもこの今川は大殿を失って重大な危機にある。こんな時に前例や身分にこだわる気はさらさらない。これからは身分が低かろうが過去に何があろうが、能力とやる気のある奴はどんどん引き上げる。俺のやり方に文句のある奴は掛かってこい。正々堂々相手してやる。どうだ氏元、お前は葛山の城主だったな。戻って兵を挙げても構わないぞ?」
「いえ――この葛山氏元、殿に背く気など毛頭ござりませぬ」
一瞬こっちを睨んで黙った氏元だが、渋々座って頭を下げた。さすがにここで堂々と反旗を翻すような度胸はないらしい。他の家臣たちもそれに続いた。正直良かった。いくら舐められない為とはいえ、強く出るのも楽じゃない。ばあちゃんの言う通り頑張ったけど、そこまで言うならやったろうやないか! みたいな逆切れパターンにならないかドキドキしたよ。
「能力とやる気次第で誰でも重用されると。これはまたずいぶんと大胆な事をおっしゃる」
そんな空気の中、朝比奈信置が一人声を上げて笑い出した。なんだ、文句があるのか?
「信置、言いたいことがあるなら言ってみろ」
「いや、義元公とずいぶん異なることをと思いまして。拙者は以前、ある者を義元公に推薦したことが御座る。その者は知略に長け、あらゆる軍略に通じてござった。ところが義元公はかの者の見てくれが異形であった為にそれを嫌われ、お使いになりませなんだ」
「ほう、それは初耳だ。それでそいつはどうなった?」
「甲斐へ赴き、信玄公にお仕えし申した。その者こそ今や信玄公の軍師として名高い山本勘助にござる」
なにぃ、山本勘助が今川家に仕える可能性があったってことか?知らなかった。
「それは惜しい事をしたな。山本勘助が居れば今回の負け戦もなかったかもしれないのに」
俺がそういうと、信置は首を振っていった。
「まことに。しかし義元公は気位が高いお方でしたからな。優れた資質はお持ちでしたが、無駄に形にこだわられるところがお有りでござった。しかし氏真公はどうもそうではないご様子」
「信置、亡き大殿様に対しその口の利き方は無礼であろうが」
信置の言葉に、空気に飲まれて黙っていた三浦正俊が噛みつく。これもライバル心がなせるわざか。
「正俊、いいから。そうだな、俺なら喜んで勘助を雇ったさ。見た目なんてどうでもいいからな。そして、兵を預けて駿府で蹴鞠でもしてただろうな」
「ははは、これはまた面白きお方。そのように明け透けに話されるとは。松平の件もなかなか面白き策にござる。いいでしょう。この朝比奈信置、殿のお力になりまする」
信置は大げさに頭を下げて見せる。すると続いてその傍らにいた凛々しい顔つきの男も声を上げて頭を下げた。
「駿河国庵原城主、庵原忠胤にござる。我が弟と共に変わらぬ忠誠をお誓いし申す」
――忠胤殿は朝比奈泰朝殿と共にかねてより殿と親しくなされており、その弟の庵原忠縁殿は桶狭間より大殿の御遺骸を運ばれたという方でございまする。
徳兼、ショック性記憶喪失(仮)の俺に親切に教えてくれてありがとう。なるほどこの庵原忠胤君と弟の忠縁君も信頼出来るってことね。これはあり難い。庵原(兄)、庵原(弟)って呼ぼうっと。
また新たなキャラが登場ですよー。
男ばっかりで飽きられないでしょうか(汗
あ、寿桂尼ばあちゃんは女(黙
次話は20時ごろ投稿予定です。
今後の予定については次話の最後に書きます。




