第十一話
これはわたし、篠原藍樹の処女作になります。混乱部分がほんのすこーしありますが、どうかお気になさらずに。
よければ、感想欄にてお知らせください。
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『展示中。自作ラノベ&詩!!』
是非のぞいてみてください
私もまた独りだった。
私は小屋の中にいた。部屋の隅っこで三角座りをして、呟いた。
「ねぇ……なんで?」
ここには誰もいない。だが、聞かずにはいられなかった。黒羽の作ったゲームが誰かの手によって消され、家では両親が借金とりから逃げるために私の貯金全てを持ち出し、私を売った。
どこにも逃げ場などない。
仮想世界も現実世界にも逃げ場がない。
「あはは」
私の心の奥深くでアレが動き出した。
インベンションでさえただの逃げ場だった。私を変えた場所だと思っていたのに。大切な居場所だと思ってたのに。
「バカね~。アンタなんかに居場所なんかあるはずないのに。あれだけのことをして他人から許してもらえるとまだ思ってたんだ」
私に向かって言った。傷口に塩を塗ったような感覚がして、身体がブルッと震える。
私は窓の外に浮いている月を見た。三日月より少し欠けている。青い空には雲が出ていて、月は今にも隠れそうだった。
――私には隠れる場所もないのにね
高く哄笑した。自分を嘲笑った。誰かを信用するなんて愚かだと。
「バカね。アンタなんか存在しているだけでもありがたいのにね。他人に肖るなんてどういうことかしら」
「酷いな」
声がした。私以外の誰かの声が。
「綾切、今日はここにお泊まりか?」
黒羽 雄介。ここの小屋に私を連れてきた張本人。来るまでに走ってきたのか、息がまだ整っていない。ドアを閉めて入ってきた。黒ジャージに青のジーンズのダサい姿。ライダースーツのような格好だが、バイクなんて絶対に乗れないだろう。
「どうした? まじまじと見つめて」
「インベンションをどうにかするんじゃなかったの?」
呆れてしまう。なんとかするといいながら私を探しに来た。TAIのこともあるはずなのになぜここにいる。
「ほっとけ。それより迎えに来たぞ。帰るか? それともお泊まりか?」
「うざい。どっかいって!」
うるさい。黙れ。帰る場所なんてない。お泊まりだと? ふざけるな。この小屋だってすぐに出ていく。私は立ち上がり、玄関に向かった。
「どこに行くんだ?」
「宛てのあるとこ」
「……ホームレス日記よろしくな」
黒羽も手を振って、私が出て行くのを見守っている。
「ところで、なんでここにきた? 遠いだろ? 別の場所に行く宛てがあるなら、最初からここに来ないだろ?」
痛いところを突いてきた。宛てなどない。
本音は黒羽といると自分にイラつくから出ていく、だ。彼の近くにいると、まだ助けてもらえるという囁きが聞こえてくる。それで私もその気になりそうになるから嫌なのだ。
「うるさい」
私は出て行こうとした。それを彼は先回りしてドアを足で塞いだ。
「なにすんのよ」
ドスの利いた声で言い放つと、彼は足をどけた。そのまま彼の横を通り抜けようとすると、鳩尾に一発。不意打ちだった。
「ぐふっ」
デジャブ。立場は反対だったが、ここで同じことをした記憶がある。
「思い出したか? お前はここで俺を気付かせてくれたんだ。自分の心の傷と向き合わないといけないって。他人事みたいに見て、逃げたっていつか必ず向き合わないといけない日がやってくる」
私は耳をふさいでうずくまった。これ以上反撃してくるつもりはなさそうだが、聞きたくなかった。彼の言葉が痛かった。
「インベンションはそういう心の傷と向き合えないやつの逃げ場でもあった。俺みたいに逃げて、逃げて、逃げきれなくなったやつを保護する場所だった。『感性共通』。あれは、あれの本当の条件は仮想世界以外に逃げる場所が出来たやつにのみ起こる、いわゆる背中の後押しだ」
「最初から逃げ場だったの?」
「そうだ。俺の逃げ場」
「黒羽の願いを叶える為の世界じゃなかったの?」
「それは、そのあとに思いついた。二の次な」
私は目を見開いた。ただ、逃げたいがためだけにあの大がかりな仮想世界を作ったというのか。嘘をついているようにも思えないが、
「嘘ね」
「まだエイプリルフールは来てない」
「来なくても、人は嘘ついてばかりよ」
自分でも何を言っているのかよく分からない会話は続いた。
黒羽は間髪いれずに答えた。
「そうだな。誰もが嘘をついている。――自分にさえもな。辛かった記憶を放り出して逃げようとしている。それは脳が勝手に忘れようとしているから仕方がない。というのもいいわけだ。忘れるなら書いておけばいい。記録しておけばいい。それなのに、楽しい記憶しか残そうとしない」
「当たり前じゃない。辛いことなんて誰も覚えときたいなんて思わないわ!」
私はムキになって叫んだ。何にムキになっているのかは私にも分からない。彼が何を言おうとしているのか分からないからイラついているだけかもしれない。
「そうか。俺は楽しい記憶なんてつい最近しかなかったからな。分からんわ。俺には辛い思い出しかない。それだって大切な思い出だ。それなのに忘れて、なかったことにしようなんて俺には理解できん」
「そう。アンタの場合特殊だもの」
「お前もだろ? 調べたぞ。お前が幼少期に何したか」
「っ!?」
見るな。そう怒鳴り散らしたかった。私の過去なんか見るな、と。
「お前は幼少期、爆弾魔から送られてきたスイッチ……というよりか箱か? それを開けて家を爆破させた。家にはお前の本物の両親がいて、親族もいた。それをお前が開けた箱のせいで木っ端みじんにし、殺してしまったらしいな」
「言うなッ! 喋るな……ッ!」
私は彼に突撃した。口封じのために喋れなくなるほどに殴ろうと。
だが反撃むなしく、一発で気を失ってしまった。おそらく偶然だろうが、彼の拳は綺麗に決まっていた。
そして私は、意識が切れる寸前、途切れ途切れの声が聞き、ぼやけた輪郭の人間の顔を見た。
「今度は俺が……お前を…………恩返しだ」
それは薄らと笑う黒羽の顔と言葉だった。
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