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4.弔い


「うわあ…………B級映画に出てきそうなグロデスクさだぞ」


『B級映画と言うものが分かりません』


「そうだな、ここから帰れたら教えてやるよ」


 突然右腕から生えてきた槍の様なものをまじまじと眺めながら気を紛らわすための軽口を叩く。


 だが男の顔にはとんでもない量の汗が噴き出ていた。


 相当な負担が掛かったのか、それともいきなりな事で動揺していたのか。


 ともかく、腕から生えた槍を軽く振り回し武器として問題ないと判断した。


「…………槍?」


『槍です』


「槍って腕にくっつけるものじゃなくて、手に持って突くものだろ。じゃあこれ引っこ抜けるのか?」


『その場合、右腕部ごと失い不明なユニットの2つも失います』


「槍は腕から外れなきゃいけないんだよ」


 もう槍じゃないだろという尖ったものを槍といいはるAIの頑固さに辟易するも、少なくとも戦える武器を手に入れたことは間違いない。


 生々しい爪の様に見えるが、敵生命体に対しえて戦うのであるなら十分に思えた。


 しかし武器を持ったことで男に一つの考えが浮かび上がる。


「これでコックピットをこじ開けられないか?」


『可能ですが繊細な技術を要求されます』


「お前は補正してくれないのか?」


『パイロットの奇想天外な動きを補填する能力は当機にありません』


「誰が奇想天外だ」


 AIから拒否されたとはいえ物は試しと言うやつだ。


 同型の機体、浸食されているとはいえコックピットの位置も熟知しており前開きタイプのコックピットである故にどこからこじ開けたらいいかも知っている。


 上から丁寧に槍を引っかけるようにしてコックピットと胴体の境目をこじ開けようと。


「あ」


 ばぎり、と前面を完全に破壊してしまった。


 破壊してしまったら見えるのは男と同じように拘束された人間の筈だがドロリと何かが流れ出る。


 まるで羽化途中の繭を壊してしまったような、中途半端な肉塊が培養液らしきものと共にボトボトと落ちていく。


「……………………すまない」


 それ自体が何かわからなくとも、元々が何だったかは察しが付く。


 一歩何か運命が違えば自分もああなっていたかもしれない、そのような感傷を数秒抱いて男は浸食された『アクティブ』の中枢、エンジンとなる核を槍のようなもので貫いた。


 今の男のように浸食された『アクティブ』を動かすのがかつてのパイロットでなく敵生命体であるなら後でどうなるか?


 考えたくもない恐怖が頭をよぎる。


 かつての味方が敵に吸収され敵となってしまうことはこちらの士気が下がることは間違いない。


 それに、パイロットだった者達が仲間や家族を攻撃するという事態も防ぎたい。


 他にも吊られていた機体も槍のようなもので地面に落とし、コックピットを開いてはエンジンを破壊する。


 ただ、心臓をやられたとしても代わりになるものを埋められたら動き出す懸念もあった。


 念入りに関節部も破壊して二度と立ち上がれないようにする。


 男を除いた全ての機体に、パイロットは誰も居なかった。


 語れることは何もない。だが、仲間を手にかけたことで好みは地獄に落ちるだろうという予感はあった。


『パイロット、敵生命体が接近しています』


「…………レーダー、生きていたのか」


『機能は戦闘前と比べて大幅に上昇しています』


「数字は出さないのか?」


『先ほどの急激な出力上昇があったため、外的要因によるふり幅が激しいと判断し計算不能になりました』


「要するに、どれくらい上がるかは分からないってことか」


 脱力するかのように溜息を吐き、前のめりになる。


 後頭部についているチューブがぴんと引っ張られて前屈は出来ないが、今の男は相当なストレスが溜まっている。


『敵生命体総数30を超過。迎撃しますか?』


 徐々に敵が近づいてきていることを示すアラームがコックピット内に鳴り響く。


 その騒音の中でAIは選択肢を与えたつもりになっている。


 周囲は文字通りの肉壁だらけ、逃げ場らしい通路も一つしか見当たらず、正面突破以外ありえないといわんばかりの配置だ。


 そもそも逃げられることも考えていなかったのだろう、何故なら敵生命体からすると乗っ取るのに丁度いい死骸しかないのだから。


 だが、そのうちの一つが蘇生した。


 そのうちの一つの心が燃えていた。


 ガサガサガサ、と爪が肉の床を刺しながら歩く不快な音を奏で近付くのを確認した男はゆっくりとかつての仲間に背中を向け両手のこぶしを握り締める。


「丁度いい、この行き場のない感情をどうにかしてくれるんだよな?」


 男が手を握る行為と機体が手を握り名状しがたい音を鳴らすのはいい。


 それよりも男の顔は笑っていたのだ。


『何故、笑顔なのですか?』


 AIは理解できない、人間が笑顔になる時は嬉しい時だけとしか学習していないのだ。


 本来、笑顔とは攻撃的な表情であるとどこでも聞くような内容をAIは知らない。


「ブチ切れたら一周まわって笑っちまうのさ」


 唯一の出入り口に敵生命体が現れる。


 蜘蛛のような足ではあるが、妙に長い首らしきものに鉄すら裂く鋭い歯と岩を小麦のように変えんとばかりに噛み砕ける潰れた歯のアンバランスな口、眼球も光を全て吸収してやると主張するどす黒い目。


 生理的嫌悪を催す最悪のスタイルである所以に一切抵抗なく殺せる相手であった。


 しかし、人間にとっては普通に猛獣であり『アクティブ』ほどの兵器が無ければ更に被害が拡大していたであろう戦闘力を有している。


 それが数を伴えばどうなるか、それは先の戦闘で証明されている。


「てめえら、全員ぶっ殺してやる!」


 ただし、浸食された『アクティブ』は既に既存の物と大きく変質しているため勝手が違う。


 人型兵器『アクティブ』は歩行での移動は大前提ではあるものの高速移動をする際は脚部の底についてあるローラーを駆動させる。


 男が乗る『アクティブ』のローラーは既に肉に浸食されており使用は出来ない。


 その代わりに人間と同じような動きが可能であり、全力ダッシュも可能となっている。


 機械ゆえに制限された動きしかできなかった前とは大きく違い、人間と同等の動きが出来るとなれば話は違ってくる。


 何故か動き出した死骸を止めるのか、はたまた再度殺すのかは不明であるが多数の敵生命体が飛びかかってくる。


 男は冷静に、そして怒りに身を任せ槍のようなものを横に振り敵生命体を一度に薙ぎ払う。


 パワーも以前とは比較にならないほど出ているため飛びかかった敵生命体はあっさりと切り払えてむしろ拍子抜けするほどであった。


 それでも敵生命体はひるむことは無い。


 そして男の怒りも止むこともない。


「この虫野郎が!ぶっ殺して練り物にして捨ててやる!」


『当機に火炎放射の機能は搭載していません』


「ぐちゃぐちゃにしてやるって意味だよ!」


 人間特有の変な言い回しはAIには通用しない。


 単純に学習不足であるため反応が頓珍漢になるのだが今は気にしていられない。


「弔い合戦だ!あいつらの墓にするのももったいないくらいの山にしてやる!」


 虐殺されたので逆に虐殺してやると宣言する。


 しかし、外に言葉を伝える機能が現在無いため誰にも伝わることは無い。


 ただし、浸食された『アクティブ』に生物の様な口がいつの間にかついており、怒りを噛みしめるかのような吐息が漏れていたことに、中の男だけ気づいていなかった。

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