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3.武器はここに


「う、動けた」


『脚部駆動問題なし、腕部駆動問題なし、当機を吊り下げる敵生命体の一部を切り取ることを推奨します』


 宙ぶらりんになりながらも人型兵器『アクティブ』と敵生命体が融合したような姿となっている機体を動かしていた。


 手足は思い通りに動く、それも操縦桿を握らず己の身体のように、思うままに動かすことが出来る。


 大雑把な動きしかできなかった前とは大違いだと思いながら、宙に浮いているからこそ準備運動のように手足を出来る限り人間として稼働できる範囲を確かめる。


『どうされましたか?お腹が痛いんですか?』


「動作確認してるだけだ。何で腹が痛くてこんな動きをするんだよ」


『私を作成した博士が腹痛時に人間はこのような動きをすると学習させました』


「それは博士がおかしいんじゃねえか?」


 低性能とはいえ、納品する時間が相当短かったんだろうなと仕事の杜撰さを確信した。


 確かにじたばたもがいている様にしか見えないが、これを腹痛のサイン扱いにするのは奇妙過ぎる。


 そんな思考はさておき、機体が思うままに動くことを確認した男は機体の腕を上へと伸ばし、自身らを吊る管を握る。


「千切れるか?」


『当機のスペック上では敵生命体を素手で破壊することは可能です。そして敵生命体による改造を受けた当機のパワーは、スキャンの結果更なる向上が見られます』


「ならいけるってことだな」


 ギチギチと肉を引きちぎる音を全身から感じとり、自分と何かの繋がりが断たれていく事を男は感じていた。


 植え付けられた本能が引きはがすなと囁いてくる。離れるなと叫んでくる。


 手を緩めた方が良いのだろうか、このままでもいいんじゃないかと甘い誘惑が脳裏をよぎる。


『出力1.4%低下。何らかの干渉があるように思われます。休憩を推奨します』


「休憩?休憩だと?」


『出力34.6%上昇。原因が不明です』


 AIに浴びせられた言葉に男は無意識に力をさらに込めていた。


 たくさんの管に繋がれた手もギリギリと音を立て強く握りしめられる。


「もう十分休んだだろ、こんな身体になるまでなぁ!」


 込められた感情は正しく怒り。敵生命体への怒りなのか、囚われてしまった自分に対しての怒りなのかはAIに判断が付かなかった。


 しかし出力が一瞬でも上昇したことにより機体と繋がっていた管を引きちぎり、重力のままに下へと落ちる。


 ズドン、と重厚な着地音と共に膝を曲げて衝撃を逃すが、着地の重量感はパイロットである男にも直接伝わる。


「うおお!?こ、これマジで機体と感覚が一緒だ…………」


『神経との接続は良好です』


「それ先に言ってくれないかなぁ!?」


『つい先ほどまでは不明なユニットとして登録されていましたが、パイロットが不明なユニットと判断されました』


「…………まさかとは思うが、似たような不明なユニットが存在してるのか?」


『合計で14の不明なユニットが接続されており、先ほど一つを引きちぎったところです』


「だ・か・ら!先に言え!!!!!」


 拳骨を落としかねない怒声を浴びせ、これ確認してなかった自分が悪いのではと男は思い始めてきていた。


 確かにかなり混乱はしていた。現状の確認を隅々まで行っていなかったことも悪い。


 それに最初期のAIを知っていたが故に完全に侮っていたこともある。


 片言しか喋る程度の知能しか持ち合わせていないのがいけなかったと感じてはいる。


 背中を預けるにしても頼りなく、簡易な近状報告に使っていたのはかつての仲間も同じだっただろう。


 怒りを落ち着かせながら見渡すように機体の首を感覚で動かす。


 手の操作が必要ないのはありがたいが、周囲が肉塊で仲間のなれ果てと思わしき機体が吊られているという地獄の様な現状に顔をしかめてしまう。


「おい、他の奴らが生きてるかどうか確かめるぞ」


『しかし、外部への音声の出力方法がありません』


「お前が探せ、機体をチェックするのが役目だろ」


『命令を受諾、探索及び機体チェックを繰り返し調査します』


 命令さえ通ればある程度は動いてくれるのだろうか?自立思考に難があるのだろうか?


 プログラマーではない男にとってAIの挙動は摩訶不思議な物としか言いようがない。


 適度に命令を入れなければ余計な事をしでかすかもしれないと考えながらもつられた機体に近づいていく。


 重力に従い宙ぶらりんとなって動かずにいる『アクティブ』、敵生命体に浸食され今にも動きだしそうな雰囲気を醸し出している。


 恐る恐る、動かしている機体も似たように若干手が震えつつも似たような状態の機体に触れてみる。


「お、思ったよりも重いな…………」


 ずっしりとした鉄の感触と生々しい肉の感触が同時に押し寄せてくる。


 機体同士で触れているはずなのに実際に触れている感覚が来るのは何故なのだろうか。


 これこそ先ほどAIが言っていた神経接続という謎技術なのだろうか。


「おーい、聞こえてるか?こっちが分るなら返事するか身振り手振りでアクション起こしてくれー!」


『外への音声出力機能は現在使用できません』


「もしかしたらテレパシー的なことが起きるかもしれないだろ!」


『テレパシーは実在するのでしょうか?』


「お前の様なポンコツが勝手に進化してるくらいだから可能性は十分あるだろ」


 もう何が起きてもおかしくないと思いながらもぐりぐりと吊られた『アクティブ』を拳で弄ってみる。


 やはり反応はない。敵生命体のように生きてる感じもしない。


 このまま放置しておくのもいけないが、どうするか悩む。


 自分は奇跡的に起きることが出来たが、もしあのまま眠り続けていたら?


 こうして敵生命体の侵食がいずれ進みかつての仲間に牙を向くのかもしれない。


 ならばどうするべきか?


『友軍機の反応はありません。パイロットが許すのであるなら』


「始末しろ、か」


 確かに介錯してやるというAIの提案は間違っていない。


 敵に機密技術を渡すくらいなら自爆する、なんて考えも間違いではない。


 問題は、心情としてそれをパイロットである男が許すがどうか。


「……………………火器はあるか?」


『ありません』


「無いんかい!!!!!!!!」


 覚悟を決めて呟いた言葉を真っ向から否定されてパイロットは叫んだ。


「いや、当たり前か。捕まる前に弾切れしたし、爆発物も死ぬくらいならってみんなありったけ投げてたもんな…………」


 思い出したくもない地獄の戦場を思い出し、頭を抱えようとして手が頭まで届かないことを思い出す。


 そうなると素手以外で機体を解体できる術はない。


 どこからか都合のいい鈍器でも生えてくればなー、と心に無い考えを彼は思い浮かべた。


 みしり、と浸食された『アクティブ』の右腕から音が鳴る。


「え」


『不明なユニットのうち1つの機能が解析完了しました』


 AIの声と共に右腕が変形し、何かが飛び出してくる。


「待て待て待て待て!すっごい違和感がある!なんだコレ、変な感触ががががが」


 明らかな違和感に叫びながらも腕の変形は止まらない。


 様々な不快感が襲い掛かり、ジュクジュクと肉を裂く音を奏でながらソレは飛び出した。


『不明なユニット改め、『肉と骨と鉄骨が鋭利となった槍のようなもの』です』


「せめてAIらしく名前を付けてくれ!?」


 文字通り生えてきた右腕の槍に身も蓋もない名づけに男は再び叫ぶのであった。


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