【最終話】調和の夜明けと愛しき日常、ただで終わらないのが主人公の宿命
エンディングの”その後”みたいな話です。あれから皆どうしているのかな。という感じで書いてみました。書いていたらとても長くなってしまいました。
勇斗、ゼルス、リアナ、エリス、ミュリエル、玲奈の順で書いてあります。”兄妹の異世界譚”グランドフィナーレの開幕です。
星々が瞬く虚空の玉座に、三柱の神が集っていた。
その中心に座すのは――
意思と調和の神、ユウ=アマルティア。
……のはずなのだが。
彼が着ているのは、白を基調とした膝下までの長衣に、腰帯をひと結びしただけの簡素な装束。足元は裸足に草履のような履物で、やけに風通しが良い。
ユウはというと、落ち着かない様子で裾や股下をそわそわと弄り、円卓の向かい側でにこやかに微笑む女性へ助けを求めるような視線を送った。
「あの、ミリディアさん……この服、すごくスースーするんですけど……」
ミリディアは手を合わせ、まるで新人歓迎会の幹事のように明るく声を弾ませる。
「ユウ、とっても素敵ですわ。これであなたも立派な神。私たちの一員ですもの。これから仲良くしていきましょうね」
「うっ……よ、よろしく……」
勇斗――いや、ユウ=アマルティアは力なく笑い、円卓に座すもう一柱へと視線を向けた。
「あの、エルムさん……今日からよろしくお願いします」
「……うむ」
ノクスは短く頷くと、瞑想するように静かに座している。
ユウはしばらく待ったが、その後に続く発言はなかった。
にこやかに微笑むミリディアと瞑想するノクス。
虚空の玉座に三柱の神が揃ったというのに、その中心にいるユウだけが、どう見ても“場違いな空気”を漂わせていた。
初日から失敗は許されない――そんな妙な緊張感がユウを襲っていた。
虚空の玉座に並ぶ二柱の先輩神。
対照的な二人を前に、ユウは意を決して口を開く。
「あの……神様って、何を、すればいいんですかね?」
その瞬間。
ノクスが静かに開眼し、虚空そのものが震えたような気配が走る。
ミリディアは口元を手で覆い、「まぁ……!」と大げさに仰け反り、目をまん丸に見開いた。
その視線はまるで「嘘でしょ!? 本当に何も聞いてないの!?」と問いかけてくるようだった。
「え? いやいや……その……アストレイアから何も聞かされてなくて……引き継ぎとか……ありましたっけ?」
ユウはたじろぎながら釈明するが、二柱は同時に肩を落とし、深いため息をついた。
(えっ、二人同時に? そんなにヤバい質問だったの……?)
ユウは頭に手を当て、「まいったな……」と小さく呟いた。
その仕草が妙に人間くさくて、ミリディアは肩を揺らし――
プッ、と吹き出した。
「へ?」
唖然とするユウをよそに、ミリディアはお腹を抱えて笑い始める。
ノクスは再び目を閉じ、静かに言葉を落とした。
「問題ない」
低く澄んだ声が虚空に響き、その上からミリディアの明るい声が重なる。
「ゴメンナサイねユウ。今までこんな世代交代みたいなこと、なかったから。ちょっと“神の洗礼”をしてみたの。ほら、あなたポコポンに天罰を与えてたでしょ? そのお返しよ。お返し、ふふっ」
二柱の表情に笑みが戻り、ユウはようやく胸をなでおろした。
「び、びっくりした……」
「それとね、ユウにはもう一つサプライズがあるのよ。――ペタ、いらっしゃい」
ミリディアが人差し指を立ててウィンクした瞬間、ユウの目の前でポンッ! と破裂音が弾け、白い煙が渦を巻いた。
煙が晴れると、そこには一匹の狐がちょこんと座っていた。
狐は尻尾をくるりと巻き、円卓の上で丁寧に頭を下げると、飄々とした声で自己紹介を始めた。
「はじめましてユウ。貴方のお手伝いをするため、地獄の門を蹴破って帰ってまいりました……なんちゃって。お久しぶり、勇斗くん」
「その声……お前、ポコポンか!!」
ユウは狐を両手で鷲掴みにし、そのまま天高く持ち上げた。
「僕はペタっていうんだ。ペタ=コーン。これでも立派な神の使いなんだぞ。だからそんな、ペットみたいに扱わないでよ」
不満げに言いながらも、狐――いや、ペタの尻尾はぱたぱたと忙しなく揺れていた。
「お前、本性は狐だったのか。モフモフだな……。とにかくよかったよ。お前の助けがあったから、なんとかなったんだ」
ユウは気にする様子もなくペタを抱え込み、満面の笑みでワシャワシャと頭を撫で回す。
「も、もう……くすぐったいってば……。でもね、あのゼルスに勝っちゃうなんて、本当に信じられなかったよ。僕だけじゃない。純魔の子どもたちも、きっとすごく喜んでたと思う」
その言葉に、ユウはふと天を仰いだ。
「マジョルカ……あいつも、喜んでくれたかな」
ペタはするりとユウの腕を抜け、背中を回って肩の上に軽やかに飛び乗ると、天へ向かって小さく吠えた。
「うん。きっと皆、いずれまた魔胎泉から生まれてくるよ。その時、もっと喜んでもらえるように……この世界が元に戻るように……」
「……おっし。元・地球神の腕前、期待してるぞ! よろしくな、ペタ!」
ユウが気合いを入れた時、ペタは尻尾をぴたりと止め、どこか言いにくそうに口を開いた。
「その事なんだけど……」
ペタの言葉に、ユウは息を呑んだ。
胸の奥が冷たくなる。
ミリディアが円卓へそっと手をかざすと、銀色の光が渦を巻き、やがて一対の天秤が姿を現した。
皿は静かに揺れ、今は互いを支え合うように、ぴたりと中央を指している。
「これが――アストラル大陸の均衡の秤」
ミリディアの声は、いつもの明るさを潜め、静かにユウの胸へ染み込んでいく。
「この均衡を、私たちは見守っているの。神が直接、下界に影響を与えることは“禁忌”。それを破れば……ユウ、あなたはもう知っているわね」
その囁きは、ユウの心臓を強く締めつけた。
ミリディアは続ける。
「私たちは何も出来ない。この世界をただ見守り、その行く末を案じるだけ。神ができるのは……せいぜい、“加護”を与えることくらい」
「そんな……」
ユウの声は震え、言葉の先が続かなかった。
ミリディアは悲しげに視線を落とし、天秤の銀光が彼女の頬を淡く照らす。
ユウはただ、世界の仕組みの残酷さに打ちのめされ、言葉を失った。
虚空の玉座に、重たい沈黙が降りていた。
ペタはユウの足元に寄り添うように尻尾を丸め、まるで眠ってしまったかのように動かない。
ノクスは相変わらず瞑想に沈み、自分の世界へ完全に閉じこもっている。
ミリディアは時折、小さくため息をつき、退屈そうに髪先を指で弄んでいた。
その光景を見渡しながら、ユウは思わず舌打ちした。
そして――
「……つまらん」
ぽつりと呟いた声は、虚空に吸い込まれるように消えていく。
だがユウは目を閉じ、胸の奥に溜まっていた鬱憤を押し出すように、次第に語気を強めていった。
「つまらん」
ミリディアが顔を上げる。
「つまらん……!」
ペタの耳がぴくりと動く。
「つまらん、つまらん、つまらーーん!!」
虚空の玉座にユウの叫びが轟き渡った。
ミリディアはぽかんと口を開け、ノクスは瞑想を続けたまま微動だにせず、ペタは「ふわぁ……」と大きなあくびをした。
「ちょっと、ユウ、一体――」
ミリディアの戸惑いを無視して、ユウは円卓を勢いよく叩きつけるようにして立ち上がった。
虚空に乾いた音が響く。
「皆さん、このままでいいんですか?」
語気が荒くなる。
「神さまって、偉い存在じゃないんですか? ただの傍観者って……ただ指くわえて見てるだけって……そんなの、ただのニートと同じじゃないですか!」
ミリディアが目を丸くし、ペタはむっくりと起き上がってミリディアの隣の空席へトコトコ移動し、座に登る。
そしてユウに向けて視線を合わせた。
ユウの苛立ちは止まらない。
「世界中の人たちが困ってるんですよ? 不安で、苦しくて、それでも必死に生きてる。その姿を見て、何もしない“選択肢しかない”なんて……そのルール、可笑しくないですか?」
ペタは尻尾を揺らしながら、ユウの言葉を静かに受け止めている。
「我々は神だ。神はなんでもできるはずだ。ここで手をこまねいている必要なんてない。出来ることはやりましょうよ。この世界をアップデートしましょうよ!」
ユウは一気にまくし立て、最後に荒々しい鼻息を吐いて、どすんと乱暴に座へ座る。
ミリディアは困惑した表情で、しかし優しさを含んだ声で語りかける。
「ユウ……あなたはまだ日が浅いわ。そんなに慌てる必要はありません。神の力は強力です。その力が悪用されたり、暴走すれば、また世界は混乱するでしょう。だからアストレイアは干渉を禁じたのです。それでも結果的に暴走してしまったけれど……あなたのお陰で人族と魔族の対立は収まった。ですから――」
「待って!」
ユウは手を突き出し、ミリディアの言葉を遮った。
ミリディアは口をつぐみ、虚空の玉座に再び緊張が走る。
「ミリディアさん。禁忌なのに……なぜ俺の前にアストレイアは現れたんです?」
ユウは先ほどまでの激情を抑え、驚くほど冷静な口調で問いかけた。
ミリディアは一瞬だけ目を泳がせ、静かに答える。
「それは……ゼルスが暴走したからよ。緊急的な措置として、禁忌である干渉を“許可”したの」
ユウは黙って頷き、今度はノクスへ視線を向けた。
「エルムさん。俺が助けられたあの精神世界……本当はあれも禁忌ですよね。でも、あなたも干渉を許可された」
ノクスは目を閉じたまま、静かに一度だけ頷いた。
ユウは何度か小さく頷き返し、人差し指を立てて続ける。
「つまり――」
声に自信が宿る。
「二人は“禁忌を犯した”。でも“干渉を許可されていた”から、ゼルスのように罰せられなかった。そしてアストレイアは責任を取って神の座を降り、今ここにはいない。……そういうことですよね?」
ミリディアは首をかしげながらも頷き、ノクスも静かに肯定するように首を揺らした。
その様子を見て、ペタは口角をきゅっと上げた。
まるで――「ユウ、やるじゃん」と言っているかのように。
ユウは二柱へ視線を向け、はっきりと宣言した。
「じゃあ――今は禁忌には当たりません。干渉を許可されたままアストレイアは神の座を降りた。つまり、俺たちは気にせず干渉を続けられるってことです」
「え……?」
ミリディアの戸惑いの声が虚空に溶ける。
ノクスはゆっくりと目を開き、フッと鼻で笑った。
ユウはその反応に満足げな笑みを返す。
「よし! じゃあ何から始めようか。サポートは僕に任せて!」
ペタは尻尾を勢いよく振り上げ、「コーン!」と元気よく鳴いた。
「ちょ、ちょっと待って! あれは一時的な緊急処置であって、ずっと許可するつもりじゃなかったのよ! アストレイアだって、そういう前提で話していたはずよ!」
ミリディアは青紫の髪を揺らしながら、反論する。
だがユウは、まるでアストレイアを真似るように目を閉じ、両手をゆっくりと広げた。
そして――冷酷なほど抑揚のない声で告げる。
「私はユウ=アマルティア。意思と調和の神として、アストレイアの跡を継ぐ者。ゼルスのような横暴は許しませんが……全知全能の神の力は、有意義に使います」
目を開き、唖然とするミリディアを前に、ユウは賛同者の挙手を求めるように手を上げた。
ペタが右前足を円卓にちょこんと乗せる。
ノクスもゆっくりと片手を顔の前に上げた。
ユウは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ミリディアへ視線を送る。
その顔に――ミリディアは底知れない恐怖を覚えた。
「も、もう……このルーキーは一体、何を考えてるのよーー!!」
ミリディアの悲鳴にも似た声が虚空の玉座に響き渡り、静寂の中へ消えていった。
◇
絶対的な虚無。
光すら飲み込む”絶対不可侵の沈黙骸門”の奥底へと引きずり込まれたゼルスは、永遠の責め苦と己の消滅を覚悟していた。
(この俺が……こんな暗黒の牢獄で朽ちるというのか……!)
無限の落下が続く――そう思われたその瞬間、ふっと背中の圧が消え、ゼルスは硬い床にドスンと尻餅をついた。
「……む?」
予想外の感触に目を開くと、周囲の景色がゆっくりと輪郭を帯び始める。
仄かに揺らぐロウソクの炎が、薄暗い空間をぼんやりと照らし出した。
そこは――無数のドクロのオブジェが壁に飾られ、黒を基調とした禍々しい……しかし妙に生活感のある四角い部屋だった。
部屋の隅には使い込まれた暗黒のクッション。棚には整然と並ぶ書物と骨のコレクション。どう見ても“誰かの趣味部屋”である。
「……ここは何なんだ」
恐るべき神々の牢獄“虚空の狭間”を想像していたゼルスは、思わず間抜けな声を漏らした。
その声に反応するように、部屋の奥で小さな音が響く。
――ズズッ……。
視線を向けると、ちゃぶ台のような黒曜石の机の前で胡座をかき、くつろぎきった様子のノクス=エルムがいた。
その手には、かつて地球の神・ポコポンが愛用していた“渋い湯呑み”がすっぽり収まっている。
ノクスはゼルスを一瞥すらせず、ただ静かに立ち上る湯気を眺めながら――ズズッ、と茶をすすった。
沈黙の神の、あまりにも日常的なティータイム。
アストレイアが告げた“幽閉”の真意。そして、あの悪趣味なドクロ装飾の門の正体。
すべてを理解した瞬間、ゼルスは神としての威厳も忘れ、部屋中に響き渡る声で絶叫した。
「ただのプライベートルームかよ!!」
ゼルスの渾身のツッコミが木霊する中、ノクス=エルムはやはり一言も発することなく――ほう、と息を吐くと、再び湯呑みに口をつけた。
◇
翼人族のトゥーリが、ひらりとリュミエ村へ舞い降りた。
その懐には、各地の話題をまとめた羊皮紙が収められている。
暗黒の森にも、“平和の日”の宣言と、二人の勇者が活躍したという吉報が届けられたのだ。
「ねえレナ、これ……前に村に来たお兄さんのことじゃない? すっごい有名人だね。サインでももらっとけばよかったなぁ」
ミリナは猫耳をぴくぴく震わせ、夢見る乙女のように両手を胸に寄せる。
ここは、玲奈・ミリナ・リアナが切り盛りする定食屋「アマギ亭」。
森で採れる薬草や獣肉を使い、安価で温かい料理を提供している。
村人たちは仕事の合間に立ち寄り、最近では他国の行商人や、暗黒の森のダンジョンを目指す冒険者も増えてきた。
村には、確かに“新しい風”が吹き込んでいる。
暗黒の森に突如現れたダンジョン――ネザレムが作り出したという地下五十階層の本格的な迷宮。ラスボスには“本物の魔王”が出るらしい、という噂まである。
ドロップ品も豪華で、冒険者たちは連泊し、村にも活気と恩恵をもたらしていた。
「寡黙な勇者って……お兄ちゃんぽくないな」
玲奈は“平和の日”の記事を読みながら、首をかしげる。
「えー? クールなとこあるじゃん。ねえリアナはどう思う? 一緒に旅してたんでしょ」
ミリナが明るく声をかけると、仕込み作業をしていたリアナが手を止めた。
「え? ええ……とても優しくて、頼りがいがあって……いい人、ですよ」
そう答えながらも、リアナの表情はどこか硬い。
勇斗がネザレムへ向かったあの日から、彼女はずっと村で帰りを待っていた。
――なのに。
ある日突然、玲奈が「お兄ちゃんは国へ帰ったよ」と当たり前のように言い出した。
その頃から、リアナは勇斗の話題が苦手になっていた。
胸の奥に、説明できない“ざらつき”だけが残っている。
村は交流が増え、活気に満ちていた。アマギ亭の仕事にも慣れ、生活に不満はない。
けれど、どうしても引っかかることがある。
勇斗が村に戻らなかったのに、玲奈はまるで気にしていない。
面識の薄い真理さんの死には涙を流したのに、兄の安否には不思議なほど無関心。
(どうして……?)
胸の奥に小さな棘が刺さったまま抜けない。だが、この穏やかな関係が壊れるのが怖くて、玲奈に問いただすことさえできなかった。
そんな時に舞い込んだ、“二人の勇者”の活躍ぶり。
レジーヌ。ユウト。
どちらもよく知っている名前だ。なのに、記事を読むほどに胸がざわつく。
(どうして私を連れて行ってくれなかったんだろう……あんなに真理さんの行方を心配していたのに……その真理さんが死んだこと、知ってるのかな……)
考えれば考えるほど、不安ばかりが頭をよぎる。
答えの出ない疑問が積み重なり、リアナはそっと意識に蓋をした。
――考えてはいけない。
考えたら、何かが壊れてしまう。
そう思いながら日々を過ごしていた。
◇
「……あの、ゴメンナサイ」
「いいよ。最近忙しかったし、今日はゆっくり休んで。後は私たちでやっとくから」
「気づけなくてゴメンね、リアナ。また夕方、様子を見に来るね。お大事に」
パタン。
扉が閉まる音が遠くに消えていく。
リアナは枕に顔を埋めた。
無意識に気負いすぎていたのだろう。熱で身体が重く、頭の奥がじんじんと痛む。
ミリナと玲奈を心配させてしまった後悔が胸に広がる。
目を閉じたまま、意識がゆっくりと沈んでいく。
『あー、あー……聞こえてるの、これ? もう始まってる感じ? え? いや、よく分かんないけど……とりあえず全員に挨拶しておこうと思ってさ。立場? いや、とにかくさ……やってみようよ。ちょっと、黙って。今から喋るから』
暗闇の中に、懐かしい声が聞こえる。
リアナは瞳を動かしその声の主を探すが見つからない。
(ユウト様?)
リアナは息を呑む。
勇斗に会いたいという願いが、熱に浮かされ幻聴になったのだ――最初は、本気でそう思っていた。
『えー、本日は、晴天なり、晴天なり。え? はいはい、わかったよ。わかったから、ペタはちょっとあっち行って。ほら、シッシッ。
オホン、失礼。私は意思と調和の神、ユウ=アマルティア。この世界を統べる神の一柱です。
一言、挨拶させて頂きます。この世界は変わりました。勇者と魔王の盟約により、いがみ合いは終わりました。
意識を変える時が来たのです。この世界には神がいることを知っておいてください。神は決して諦めたりしません。
新しい未来を皆さんが作り上げることを、天から見守っています。
以上、終わり。ペタ、配信止めて。ペタ、おいペタ。拗ねるなよー、もぅ……』
再び、静寂。
(……あれ? これで終わり?)
あまりにも変な“幻聴”だった。
ユウト様の声に似ている気もするし、全然違う気もする。
でも――
胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。
懐かしい気分に包まれて、重かった心が、ふっと軽くなった気がした。
いつの間にかぐっすり眠っていたようで、再び目を覚ました時、傍らで心配そうに見つめる玲奈の顔があった。
「……あぁ、気がついた。今、果物剥いてるの。少し食べられそう?」
玲奈の柔らかい声が、まだ熱の残るリアナの耳にそっと届いた。
リアナはお腹を押さえ、少し恥ずかしそうに小さく頷く。
玲奈が背中を支えながら、ゆっくりと上体を起こした。
窓から差し込む光は赤く染まり、部屋の中に夕日の色が満ちている。
頭の重だるさは少し和らぎ、代わりにお腹がきゅうと疼いた。
玲奈はいつもの優しい笑顔で、剥いた果物をそっと手元に置いてくれる。
リアナの瞳がすっと潤んだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
玲奈の気遣いが、弱った心にまっすぐ触れてくる。
リアナは首を振り、皮が可愛らしい形に切り取られた果物を口に運んだ。
シャクッ。
新鮮な果肉の歯切れの良い音が、じんわりと脳に刺激を送る。
「……美味しい」
小さく呟き、二口目を口にする。
その小気味よい咀嚼音に、玲奈はほっとしたように微笑んだ。
夕暮れの赤い光の中、二人の時間はゆっくりと流れていく。
「ねぇ、そういえばリアナも聞こえた? あの変な放送」
食器を片付けながら、玲奈が何気なく尋ねてきた。
「え? 放送って……」
「寝てたから分かんないか。なんかねぇ、ユウなんとかっていう神様が喋っててさ。変なこと言ってたんだよ。それがさ、耳元っていうか……頭の中に直接流れてきた感じで。私もミリナも、お客さんもみんなビックリしてたよ」
玲奈は笑いながら、その時の様子を楽しそうに話す。
その言葉に、リアナの胸が跳ねた。
「ユウト様の、声が……」
思わず漏れた声に、玲奈が振り返る。
「ん? 何か言った?」
リアナは慌てて口を手で覆った。
(……あの声、幻聴じゃなかったんだ)
胸の奥が熱くなる。
そして、帰り支度をする玲奈の背中に向かって、リアナは勇気を振り絞った。
「あの……その声、ユウト様に似てませんでしたか?」
「え? 勇斗?」
玲奈は天井を見上げ、少し考えるように目を細めた。
その仕草に、リアナの心臓がどくんと鳴る。
「最近あんまり聞いてなかったから分かんないけど……言われてみれば、勇斗っぽいかも。なんでだろうね。ふふっ、ちょっと笑っちゃう」
その瞬間、リアナの中に一筋の光が差し込んだ。
今まで胸を覆っていた霧が、ぱっと晴れていくような感覚。
(あれは……ユウト様だ。きっと事情があって、私たちとは別の場所にいるだけ。でも……悲しくない。だって、雲の上から見守ってくれているんだから)
「ん? なんか顔色良くなったね。明日は出られそう?」
玲奈が嬉しそうに覗き込む。
「はい。明日からまたよろしくお願いします!」
リアナは元気よく顔を上げた。
栗色の三つ編みにした髪と、夕日に照らされたその笑顔は――かつて勇斗に向けていた、あの太陽のような笑顔だった。
◇
薄暗いダンジョンの回廊に、三人組の冒険者の笑い声が軽く反響していた。
男二人、女一人。余裕たっぷりの足取りで、「この階層は楽勝だな」と談笑しながら進んでいく。
その先に――場違いなほど整ったメイド服姿の女性が一人、壁沿いに背中を預けて座っている。
男たちは一瞬で鼻の下を伸ばし、目を合わせると、我先にとメイドのもとに駆け寄った。
「お嬢さん、こんな場所でどうしたんです? お仲間とはぐれたんなら、俺たちと一緒にどうです?」
「そうそう、こんな迷宮に一人なんて危険だって」
女性冒険者は眉をひそめる。
「ちょっと……なんで迷宮にメイドがいるわけ? 絶対おかしいでしょ」
女性は二人の男に詰め寄り、眉間にシワを寄せる。
男たちは女性をなだめながら、緩みきった顔をメイドに向ける。
しかし、そこにいたはずのメイドの姿がない。
白銀のお団子頭と、淡い紫の瞳。
メイド服を纏った――エリス=タイプβ。
冒険者たちと距離を取り、その疑問に反応することなく、ただじっと見つめている。
「……ダンジョン内での油断は禁物です。危険区域につき、速やかな退避を推奨します」
その声は、感情の欠片もない、冷たいアナウンスのようだった。
男たちは意味を理解できず、にやけたまま近づこうとする。
その瞬間。
――ガルルルルル……ッ。
闇の奥から、低い唸り声が響いた。
すぐに魔犬の群れが影のように飛び出し、冒険者たちへ襲いかかった。
「うわっ!? ちょ、ちょっと待て――!」
「きゃああああ!!」
悲鳴が回廊に反響する。
エリスの姿は――音もなく、迷宮の暗闇へ溶けるように消えていった。
迷宮最深部の管理室。
魔力灯が淡く揺れ、壁一面に浮かぶ魔導スクリーンには今日一日の戦闘ログが流れていた。
その中央に立つのは、編み込んだ長く豊かな黒髪を揺らしながら端末を操作するイザベル。
「――で、今日の結果は?」
呼びかけに応じて、エリスの姿が光粒子とともに現れる。
「はい。本日の迷宮挑戦者、総数二百三十一名。うち、五階層突破者四十七名。十階層突破者十二名。十五階層突破者三名。死亡者ゼロ、重傷者七名。全員、転送陣により地上へ帰還済みです」
エリスは淡々と報告する。
その声には感情がない。だが、その内容は十分に“軍事データ”として価値があった。
イザベルは頷きながら、スクリーンに映る戦闘映像を早送りで確認する。
「ふーん……十階層の精神耐性テスト、やっぱり効きすぎね。あれじゃ三分で泣くわ」
「調整しますか?」
「いいえ、そのままでいいわ。ルミナ兵に対しては”基準値”を上げるのが目的だから」
イザベルは指先で魔導端末を弾き、次のデータを呼び出す。
「それと――あなた、またやったわね?」
エリスは首を傾げる。
「……何を、でしょうか?」
イザベルはスクリーンを指差した。
そこには、二十階層で冒険者パーティが“エリスの反射魔法により全員まとめて吹き飛ばされる”映像が映っていた。
「これ。“軽い牽制”って言ってたけど、どう見ても殺す気だったわよ?」
「……出力を三割に抑えました」
「三割であれ? あなた本当に加減が下手ねぇ」
イザベルはため息をつきながらも、どこか満足げに笑う。
「でも、いいわ。あなたの戦闘データは軍の強化に直結する。今日もよく働いたわ、エリス」
エリスは静かに頭を下げた。
「ありがとうございます。明日も、最適な戦闘データを収集します」
「ええ、お願いね。――ただし、死者は出さないこと。“表向きは観光ダンジョン”なんだから」
「了解しました。致死ラインは厳守します」
イザベルは満足げに頷き、魔導端末を閉じた。
「さて……ミリカにも報告しておかないと。“今日の目玉シーン”を編集して、冒険者ギルドに流してもらわなきゃ」
エリスは瞬きもせず、淡々と返す。
「ミリカ様は、“二十階層の全滅シーンは宣伝効果が高い”と評価していました」
「でしょうね。あの子、商売の嗅覚だけは本物だもの」
イザベルはくすりと笑い、椅子に深く腰掛けた。
迷宮は今日も、軍事強化と外貨獲得のために静かに、しかし確実に動いている。
◇
クラウスから聞かされた計画に、天才魔導師ミュリエル・ノワールは即座に反応した。
守れなかった悔しさ。
魔法が使えなくなった衝撃。
そして――勇斗がいない現実。
胸にぽっかりと穴が開いたような喪失感を、少しでも埋めたくて、彼女はクラウスの計画に乗った。
だが、レジーヌの厚かましさと、クラウスの腹黒い思惑に巻き込まれる日々は、彼女の心をじわじわと蝕んでいった。
(……私、? 何だっけ、何か、違う)
目標を見失いかけていた、その時だった。
――あの声が、世界中に響いた。
『私は意思と調和の神、ユウ=アマルティア――』
その瞬間、ミュリエルの胸に走った衝撃は、言葉にできないほど大きかった。
(……ユウトだ)
確信は一瞬だった。
そして次の瞬間、彼が“生きている”と知った喜びが、全身を駆け巡った。
青い瞳が震え、彼女は思わず口元を押さえた。
ミュリエルは、クラウスから託された聖刀アウルリアを手に取る。
静かに抜刀し、刀身に映る自分を見つめた。
「主は……神様になった。――お前は、どうしたい?」
問いかけに、アウルリアは沈黙したまま。
しばしの静寂。
やがて、刀身が淡く、かすかに光を帯びた。
それはまるで、勇斗の意思が遠くから応えてくれたかのようで――ミュリエルの胸に熱いものが込み上げてくる。
(……そうだ。私は、ユウトのために演じる)
決意が、静かに形を成した。
その時、部屋の扉が二度、控えめに叩かれた。
ミュリエルが扉を開けると、そこにはルミナ王国近衛騎士団長、レオニス・ヴァルクが立っていた。
その手には、ノルディア帝国の紋章が刻まれた羊皮紙が固く握られている。
レオニスの表情は、勇斗を迎えたあの日のクラウスのように憔悴していた。
◇
「この国の未来はお前に託した。くれぐれも無茶な行動には出るなよ!」
入場ゲートに控えるレオニスは低い声で、小柄な黒髪の少年へ念を押した。
レオニスの言葉に、少年の格好をしたミュリエル――いや、勇者ユウトは静かに一度だけ頷くと、歓声の響く光の方へ歩き出した。
「絶対、無茶はするな!」
レオニスの声は、押し寄せる大歓声に飲み込まれた。
円形に広がる巨大スタジアムは、熱気と興奮と、野太い声援で満ちている。
ここはルミナ王国西方魔導演習区にある模擬戦闘闘技場。
最奥に位置する古代兵器の発射口は完全に閉ざされ、今は魔法耐性を備えた“優美な闘技場”として機能している。
入場ゲートから姿を現した勇者ユウトは、バッファローのように鼻息荒く闘志を燃やすノルディア帝国・グラント皇帝と真正面から向かい合った。
皇帝は丸太のような腕をぐるりと回し、分厚い胸板をドンと叩く。
その衝撃だけで、頑強なはずの闘技場がわずかに震えた。
まるで戦争の最中に見せた、“戦いに飢えた獣”の姿。
その本気度が、闘技場の空気を震わせている。
甲高い金属音が鳴り響き、戦いの幕が下りた。
グラント皇帝は待ちわびたように顔を歪め、短い足を交互に踏み鳴らしながら突進を開始する。
地響きが闘技場全体に伝わり、土煙が舞い上がって観客の視界を奪った。
いつの間にか、霧のような煙幕が闘技場に降りてくる。
だが皇帝は構わず突進。
勇者との距離――わずか十メートル。
使い込まれた傷跡が刻まれた戦斧が、暴力的な音を立てて天へ掲げられる。
「砕けろ!!!」
雷鳴のような怒号。
目にも止まらぬ突貫。
空気を裂く衝撃波。
それでも勇者は――まるで地面に縫い付けられたかのように微動だにしない。
衝突の瞬間――。
「静眠の紋!」
ほぼ同時に展開された魔法陣。
淡い光が二人を包み込む。
直後、天地を揺るがすほどの地鳴りが発生し、大量の土煙が闘技場を覆い尽くした。
歓声は一瞬で静まり返る。
やがて土煙が薄れ、視界が戻る。
そこにあったのは――横たわる巨体。
地面に転がった戦斧。
そして、聖刀アウルリアを抜刀し、その場に佇む勇者の姿だった。
魔力は減衰しているはずなのに、魔法と剣戟を組み合わせた一撃は圧倒的だった。
「いやぁ、あの場で魔法を発動させられるとは、してやられたわい!」
グラント皇帝は上機嫌に笑い、レオニスが注いだ酒を豪快に煽った。
模擬戦終了後の宴席。
豪快な笑い声と酒の匂いが渦巻く中、レジーヌは隣の席で背中を丸め、額に汗を滲ませながら小さく酒を啜っていた。
理由は――前哨戦。
ルミナ王国とノルディア帝国の勇者対決は、ノルディア帝国の勝利。
皇帝は敗れたが、レジーヌは勝った。
その結果、”ノルディア帝国の勇者レジーヌこそ世界最強”という名誉が、全大陸に知れ渡ることとなった。
誇り高きドワーフたちは、酒樽を叩き割らんばかりの勢いで歓喜している。
――もちろん、これは茶番。
皇帝もその事実を知らない。
だからこそ、レジーヌは今にも泣きそうな顔で震えていた。
(……この状況、あとで何か……“最強の勇者”として鍛錬に付き合えとか……ぐぬぬぬ、ミュリエル殿……話が違うではないか!)
叫びたい衝動を必死にこらえ、隣にちょこんと座る黒髪の少年に視線を向ける。
そこでミュリエルの毒舌が今日も静かに、まるで独り歩きするように顔を出す。
「井の中の、蛙」
レジーヌの背中がビクンと跳ねた。
酒の入った杯がカタリと揺れる。
(師匠!……助けて!……)
ドワーフの歓声よりも、皇帝の笑い声よりも、無知なるミュリエルの一言がレジーヌの心臓に深く突き刺さった。
そんなレジーヌの内心などお構いなしに、ミュリエルの関心は、目の前に置かれたデザートへ移っていた。
連邦特製“月光ゼリーと星砂の飾り”。
スプーンをそっと差し入れると、抵抗もなくすっと沈み、夜空のような半透明のゼリーがぷるんと揺れた。
散りばめられた星砂――
魔光石の微粒子を模した細かな光が、宴会場の灯りを受けてきらきらと瞬く。
ミュリエルはその一匙を丁寧にすくい、まるで儀式を締めくくるように口元へ運んだ。
舌に触れた瞬間、ゼリーの柔らかな甘さがふわりと広がる。
喧騒に満ちた宴会の中で、その一瞬だけ世界が静まり返ったように感じられた。
ミュリエルは目を細め、幸せそうに微笑んだ。
◇
玲奈は考え事をするとき、決まって一人でエル=ノアの環へ向かう。
水晶柱の前で目を閉じていると、時を超えてルミエラと対話しているような気がして、胸のざわつきが不思議と落ち着くのだ。
「今日は……あの話をしようかな。変な神様が、私たちに語りかけてきた話」
玲奈は床に膝を立てて座り、その膝を両手で抱え込むようにして、丸くなると、顔を埋めて独り言のように語り始めた。
水晶柱は青白く光を揺らし、まるで玲奈の言葉に応えるように静かに周囲を照らしている。
玲奈の記憶は、ミリディアによって一部が書き換えられている。
この場所も、ルミエラの私記を手に入れて以来、最深部に行った記憶はない。
そこでミリディアと出会い、世界に祈りを捧げたことも忘れている。
だが、玲奈の中には“夢のような曖昧な感覚”だけが残っていた。
勇斗と喧嘩したこと。
香草入りのスープを飲ませて咳き込ませたこと。
そんな些細な思い出は鮮明なのに――
その後、急に視界不良になる。
暗闇の中、勇斗の声だけが、ぽつりと残っている。
『俺、ルミナ王国へ帰るよ。勇者として、妹の名に恥じない立派な戦士になる。だからお前は、好きに生きろ。この村で、皆と仲良くな。それじゃ』
十年ぶりの再会だったのに、あまりにもあっけない別れだった。
本当はもっと話したかった。
勇斗の話も、聞きたかった。
なのに――突然の別れ。
戦争は終わり、勇斗はこの世界で勇者として活躍している。
そんな記事を読んだけど、どうしても実感がわかない。
(……世界には同じ顔が三人いるって言うし。ユウトっていう同姓同名の人がいて、その人が世界を席巻してるだけなんじゃ……)
勇者は一人じゃない。
兄とは別な人が、兄の代わりに活躍しているだけ。
そんな疑念が、玲奈の心に小さな傷として残り、今も疼いていた。
ふと、身体が温かい空気に包まれた。
目を開けると、そこに広がっていたのは円形の祭壇――“沈黙の泉”。
中央には、翼を広げたルミエラの立像が静かに佇んでいる。
「あ……ここ、“沈黙の泉”。あれ……?」
玲奈は足元の窪みに満ちた透明な液体を覗き込んだ。
その水面に、羊皮紙に描かれた古代文字のような絵がゆらりと浮かび上がる。
玲奈の瞳が揺れた。
古代文字は形を変え、玲奈は、導かれるように口を開いた。
「――今日、またあの夢を見た。光の中から歩み来る“境界を越えし者”。その者は人の姿をしていながら、人ではない。天の理に触れ、やがて天と地のあわいへ昇るだろう。
世界はその変化に抗い、古き王たちは座を失う。
だが、あの者がもたらすのは破滅ではなく、新たな調和の兆し。
私はまだ、その名を知らない。
けれど――その声は、どこか懐かしい」
読み終えた瞬間、玲奈の脳裏に、ゼルファ村で読んだ予言めいた古文書の一節とあの“変な神様の放送”が重なり合った。
断片として残るかすかな記憶が、玉虫色に変わり、一気に輪郭を持ち始める。
「天の神は試練を下す」
『――意識を変える時が来たのです』
「世界は抗い、王は滅ぶ」
『――神は決して諦めたりしません。新しい未来を皆さんが作り上げることを、天から見守っています』
「新たな調和」
『――意思と調和の神』
「懐かしい声」
『――はいはい、わかったよ。わかったから』
「その名は」
『――ユウ=アマルティア』
玲奈の目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
玲奈の頬を伝った涙は、沈黙の泉の光に溶けていった。
――そして、季節は巡り。
柔らかな陽光が差し込むリュミエ村の朝。
木造の家の窓を開けると、春の風がふわりとカーテンを揺らした。
「……ん、今日もいい天気」
玲奈はゆっくりと丸太の椅子に腰掛けるとお腹にそっと手を添えた。
丸みを帯びたそのお腹は、新しい命の温もりを確かに宿している。
野菜を刻む音が止み、低く落ち着いた声が聞こえる。
「レナ、起きたか。朝飯もうすぐだから」
ヴァルドが振り返り、不器用な笑顔を見せる。
「ありがとう、ヴァルド。……あ、またエプロン逆だよ」
「ん、そうか……!」
慌ててエプロンを直すヴァルドに、玲奈は思わず笑ってしまう。
その笑顔は、“今を生きる母”の柔らかい光を帯びていた。
テーブルに、湯気だった香草入りのスープが二つ並べられた。
玲奈はお腹を撫でながら、静かに微笑んだ。
「そういや、お兄さんの活躍、また記事になってたぞ、ほらここ」
ヴァルドはトゥーリから入手した羊皮紙をテーブルに置いた。
そこには勇者レジーヌと勇者ユウトが新たな魔力の源泉を発掘したという記事が載っていた。
「そうか。お兄ちゃんも、元気そうでなによりね」
玲奈はチラッと目を通しただけで、顔を上げ微笑んだ。
「今度、手紙を出したらどうだい? この子の事も相談したいしさ」
ヴァルドは玲奈のお腹にそっと手を伸ばし、やさしく撫でた。
「いいよ、勇斗は勇斗、私は私なんだから」
玲奈はふと外の景色に目を向けた。
窓の外では、村の子どもたちが笑いながら走り回っている。
世界は変わった。
けれど、日常はこんなにも温かい。
そして玲奈は、新しい命と共に、この世界で、新しい未来へ歩き出していた。
冒険は終わりました。でも彼らの世界は続いている。そんな終わり方で締めさせてもらいました。いかがでしたでしょうか。最後にコメントや評価、リアクションを残して頂けると、次回作への励みになります。何卒今後もご贔屓賜りたく存じます。
常に平凡に終わらないようにと、心がけてまいりましたが、今回は週一の更新とAIアシスタントの活用という二つの挑戦を行いました。
今までは、すべてを書き終えてからの投稿だったので、読み返す時間もあったし、締切に追われるような緊張感もなく書き上げた作品でしたが、今回は6日という、それでも投稿サイトとしては長いスパンを設けて考えてきたのに、ネタが思いつかなかった時は焦りました。毎日更新している人は凄いと改めて感じてます。読み返しておかしな部分や誤字なんかは多くて、そこら辺は随時更新するので、この話を読んでくれている頃には、上手く誤魔化してあるとは思いますけど、リアルタイム更新で読んでくれた人は、読み返してくれたりすると、なおまともな作品として楽しんでもらえるのではと思います。
それと、AIチャットによるアイデア出し、文章の添削は思った以上に便利でした。ちょっとしたアイデアでも、肉付けしてくれるので、モヤモヤしたイメージを具現化してくれたり、それ以上のスケールの大きな舞台を作り上げることが出来たと思います。そこら辺のことはまた別の作品としてエッセイみたいなのりで書こうと思いますので、興味のある方はそちらもご覧ください。
えー、最後に、ここまで長い話に付き合ってくださった貴方に、感謝の言葉を一言。
「こりゃどぉもー、こったらごじゃっぺな話に付き合ってくれて、あんがとね。これからも精進すっから、また見に来たらよかっペよ。んだっぺ?」(茨城訛り)




