ネザレム突入!暴走する加護
勇斗たちの行動に入ります。真理、そしてマジョルカの行方を探すために、勇斗たちが奮闘します。
暗黒の森を抜け、険しい山肌をよじ登るように進んだ一行は、ついに山頂にそびえる漆黒の城――ネザレムへと辿り着いた。
勇斗たちは魔族兵の鎧を身にまとい、その先頭には、灰色の肌に尖った耳を持つ男――グレイヴが立つ。
城を見上げたグレイヴは、背後の三体の魔族兵に低く問いかけた。
「……本当に、行くんですね?」
返ってきたのは、擦れた金属が軋むような音。魔族兵たちは言葉を持たない。
ただ、鎧の奥で光る瞳が、グレイヴの問いに応じるように揺れた。
グレイヴは小さく息を吐き、魔胎兵が守りを固める巨大な城門へと歩を進める。
ネザレム城の内部は、外観とは裏腹に静まり返っていた。
強硬派のスパイとして潜伏してきたグレイヴは、すれ違う魔族兵たちに自然な仕草で挨拶を交わしながら、まるで自分の城であるかのように堂々と歩く。
その後ろを、勇斗たちが“魔族兵のふり”をして続く。
鎧に包まれた身体は重く、歩くたびにガチャガチャと金属音が響く。魔族兵の不規則な挙動を真似るため、勇斗たちは時折首を揺らし、ぎこちない動きを混ぜた。
城内の空気は冷たく、どこか“巨大な生き物の体内”を思わせるような不快な湿り気があった。
勇斗は喉の奥がひりつくのを感じながら、グレイヴの背中を見失わないように歩みを進める。
(真理とマジョルカが、この先にいる)
その思いだけが、勇斗の足を前へと押し出していた。
グレイヴは周囲を素早く見回し、木箱が積まれた倉庫の片隅へ身をかがめた。
勇斗たちもその影に滑り込み、息を潜める。
安全を確かめた勇斗は兜を外し、大きく息を吐いた。蒸れた熱気が一気に解放され、頭から白い湯気が立ちのぼる。
一方、ヴァルドとラグスは兜をつけたまま微動だにせず、まるで本物の魔族兵のように沈黙を守っていた。
「まずは、どこを調べるんで?」
グレイヴが声を落として尋ねる。
「闇雲に動いたら怪しまれるだけですぜ」
勇斗は額の汗を拭いながら答えた。
「真理は『俺を探している』って嘘をついた。何か意図があるはずだ。……まずはマジョルカを探す。魔胎泉は近くにあるのか?」
グレイヴはぽかんとした顔で首を傾げた。
「魔胎泉の場所? いやぁ……噂で聞いただけで、詳しくは……あれ? 言ってなかったっけ?」
あまりに軽い口調に、勇斗の目が吊り上がる。
「おい、グレイヴ……!」
「あー、あー、わかりました! 何とかします! だから乱暴はやめて!」
グレイヴは慌てて両手を振り、ひとつ咳払いして立ち上がった。
勇斗たちは頷き、再び兜を深くかぶる。
倉庫の薄暗い空気を抜け、グレイヴの案内でネザレム城の奥へと歩みを進める。
松明の炎が揺らめく回廊はどこまでも続き、先の見えない闇が足取りを重くしていた。
そんな中、グレイヴがふいに立ち止まる。
通路の先――螺旋階段の入口に、ひとりの魔族が立っていた。
背筋を伸ばし、目を閉じたまま微動だにしない。まるで石像のようなその姿に、グレイヴは一瞬だけ勇斗たちへ視線で合図を送った。
彼は腰を落とし、軽快な足取りで近づいて恭しく声をかける。
「これはこれは、ヴァルキス様。警備のお仕事、ご苦労さまでございます」
ヴァルキスと呼ばれた魔将候補は、ゆっくりと顔だけをグレイヴの方へ向ける。瞼は閉じたままだが、その気配は鋭い刃のようだった。
「混血魔族が何用だ。ここより先は誰も通せん。帰れ」
突き放すような声音。だがグレイヴは笑顔を崩さず、軽く頭を下げた。
「いえいえ、その……こいつらを“例の場所”へ連れて行けと、ドレイヴァス様から伝令がありまして」
「ドレイヴァス様が? 混血魔族である貴様にか?」
ヴァルキスの眉がわずかに動く。
「はい、今は混血魔族も一丸となって戦うべきですから。ああ、申し遅れました。私はずっとドレイヴァス様の命で他国へ潜入任務をしておりました、グレイヴと申します」
グレイヴは帽子を脱ぎ、仰々しいほど深いお辞儀をした。
そのまま手を揉みながら、明るい声でまくし立てる。
「それに、気高い魔将候補様に雑務などさせられません。ヴァルキス様も、我らをどうぞ存分にご利用ください。全身全霊で対応させていただきますとも!」
そして今度は人差し指を唇に当て、左右を素早く確認すると、ヴァルキスに顔を近づけて小声で続けた。
「ですが……まずは“例の場所”に行かなくては。早く対応しないと、ヴァルキス様にもご迷惑が……」
グレイヴは巧みな話術と身振り手振りで、“相手に言わせる隙”を作っていく。
「ほら……あの……例の……“泉”に関わる……」
ヴァルキスは鼻で笑った。
「ふん。儀式の間のことか」
後ろで聞き耳を立てていた勇斗の心臓が跳ねた。
(儀式の間……?)
「魔胎泉へと繋がる“鍵”だ。しかし混血が近づいていい場所ではないと思うが……」
グレイヴは内心でガッツポーズをしながら、表面上は恐縮したように頭を下げた。
「そ、そうでしたか! いやぁ、でもおかしいなぁ……」
だがその瞬間――
ヴァルキスの瞼がゆっくりと開いた。
赤黒い光が、勇斗たちの鎧の奥を射抜く。
「……貴様ら。魔胎の気配が薄いな」
空気が凍りついた。
「そこの……兜を取ってみろ」
グレイヴの顔から血の気が引く。
「い、いやこれは、その――」
「偽装か」
直後、ヴァルキスの気配が爆発した。
「処分する」
床が砕け、ヴァルキスの蹴りが三人を襲う。
勇斗は何とか耐えたが、二人は鎧ごと壁に叩きつけられ、石片が飛び散った。
「ぐっ……!」
「ヴァルド! ラグス!」
ヴァルキスが勇斗へ迫る。
「ほう、あの攻撃に耐えたか。しかし無駄だ、滅せよ」
「させるかッ!!」
勇斗は両掌を突き出した。
”颶風掌弾”――!
瞬時に圧縮された風の弾丸が掌に集約し、炸裂。ヴァルキスの身体を後方へ吹き飛ばす。
石壁に深い亀裂が走り、砂埃が舞い上がった。
「今だ、行くぞ!!」
勇斗が叫び、倒れたヴァルドとラグスを引きずり起こす。
四人は螺旋階段へ駆け込んだ。
直後、耳をつんざくような警鐘が鳴り響く。
城全体が震え、無数の魔胎兵たちの禍々しい咆哮が通路の奥から響き渡った。
「警報が……! まずい、囲まれますぜ!」
「構うな! 上へ登れ!! 儀式の間を探してくれ!」
勇斗たちは螺旋階段を駆け上がるが、背後からの追手が迫る。
「ユウト殿、ここは我らで食い止める。先に向かわれよ!」
振り返った勇斗は息を呑んだ。
ヴァルドの鎧は先ほどの一撃で大きく破損し、露出した肩口から血が流れていた。その顔は痛みに歪んでいる。
「でも……!」
勇斗がためらうと、ラグスが勇斗の背を強く押した。
「我らは魔族だ。そう簡単に死にはしない。レナの兄よ――目的を見失うな。純魔を救い、友を助けるのだ」
ラグスはそう言って、ほんのわずかに表情を緩めた。
ヴァルドもラグスの肩に手を置き、歯を見せて笑い、親指を立てる。
「……あんたたち……!」
その時、上段から金属が激しくぶつかり合う音が響いた。
「旦那! 急いで! くそ、この野郎!!」
グレイヴの焦り混じりの怒号。魔胎兵の咆哮。
勇斗は二人を見つめ、短く頷いた。
「……玲奈のためにも、無理はしないでください」
ヴァルドとラグスは同時に頷き、武器を構えて階段を塞ぐ。
勇斗は歯を食いしばり、螺旋階段の上段へと駆け出した。
そこには、狭い螺旋階段の踊り場に設けられた扉の前で、魔胎兵の猛攻から逃げ回るグレイヴの姿があった。
剣を振り回す魔胎兵に対し、グレイヴは股の下をくぐり、壁を蹴って紙一重でかわし続けている。
勇斗は駆け上がりながら、魔胎兵の脇腹めがけて渾身の拳を突き出した。
”颶風掌弾”――!
風の弾丸が炸裂し、魔胎兵の身体をくの字に折り曲げる。
衝撃音と共に踊り場が吹き飛び、扉と壁がまとめて粉砕された。倒れた魔胎兵は目を赤く点滅させて痙攣し、やがて動かなくなる。
砂煙が晴れる中、勇斗は半壊した扉の向こうを見て、息を呑んだ。
部屋の中央――。
黒髪を揺らし、静かに坐禅を組む女性の後ろ姿があった。
「……真理!」
呼びかけに反応はない。
彼女の傍らには、黒霧を立ち上らせる禍々しい剣が置かれていた。
真理はゆっくりと剣を手に取り、立ち上がる。
「真理、どうしたんだ……?」
次の瞬間――。
刀身から黒霧が爆発的に噴き上がり、生き物のようにのたうちながら真理の全身を包み込んだ。
振り返った真理の瞳は、真紅に染まり切っていた。顔色は青白く、感情の一切が抜け落ちていた。
勇斗は金縛りにあったように動けなくなり、その瞳を見つめ返すしかなかった。
真理が一歩、また一歩と近づき――一瞬姿が掻き消える。
「危ない!!」
声と共に、グレイヴが勇斗の目の前に飛び出した。
――ザシュッ。
赤い飛沫が八方に散る。
「が……はっ……」
グレイヴの身体が力なく崩れ落ちた。
勇斗は呆然と立ち尽くす。どうして彼が、自分を庇ったのか。なぜ真理が切りつけたのか、理解が追いつかない。
真理は剣を横薙ぎにした姿勢のまま、無表情で勇斗を見据えていた。刀身からはグレイヴの血が滴り落ちている。
その光景を見た瞬間――勇斗の中で、何かが弾けた。
(お前は真理じゃない。一体誰だ……お前は誰なんだ!)
張り詰めた空気を断ち切るように、部屋の側面が轟音と共に炸裂した。
石壁が粉々に砕け、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
崩れた壁の向こうから、巨漢がゆっくりと姿を現した。
赤黒い肌に無数の傷。黒い重厚な鎧をまとい、獣のような黄色い目を光らせる。
旧魔王軍の特攻隊長ザルグ・ヴァルグレイン。
「……またネズミが入り込んだか。人間の考えることは、いちいち癇に障りやがる。魔族のメンツが丸潰れだ。そうは思わんか、勇者よ」
ザルグは鼻を鳴らし、勇斗を見下ろした。
勇斗は真理を警戒したまま、鋭い眼光でザルグを睨み返す。
「お前……真理に何をした。マジョルカはどこだ!」
「答える義理はねぇよ。どうせすぐ死ぬんだ」
ザルグの背後では、魔胎兵たちが続々と集まり、部屋の入口を完全に塞いでいく。
絶体絶命。
――その時だった。
再び強烈な衝撃が走る。
派手な爆発音と共に、別の壁が吹き飛んだ。衝撃波で何体かの魔胎兵が外へ投げ出され、咆哮を上げながら奈落へ落下していく。
舞い上がる砂煙の中から、二つの影が風に乗って滑り込んできた。
「ユウト!」
「もー! もっと穏便に潜入したかったのに!」
風を巻き上げながら着地したのは――ミュリエルとミリカだ。
ミュリエルの足元には淡い翠色の魔法陣が浮かび、風が彼女の髪とローブを揺らしている。
彼女は軽やかに宙へ跳ね上がり、勇斗の隣へ滑り込んだ。そして肩がけしていた布袋を解き、勇斗へ差し出す。
「これ、出来た。――アウルリア。調和の刀」
勇斗が刀を受け取った瞬間。
ミュリエルと勇斗の間を、真理の魔剣が閃光のように切り裂いた。
「っ!」
勇斗は壁際へ跳び退き、ミュリエルも風を纏って後方へ回避し、ミリカの元へ着地する。
結果、勇斗とミュリエル、そして真理とザルグが向かい合う形で対峙した。
ミュリエルは真理を見据え、眉をひそめる。
「……真理、様子、普通じゃない」
ミリカはザルグと背後に控える魔胎兵を指差し、泣きそうな声で叫ぶ。
「ちょ、ちょっと! あれ絶対ヤバいでしょ! ていうか多すぎ!」
だが、視線が床に倒れた影を捉えた瞬間、ミリカの声が止まった。
血溜まりの中に倒れ込むグレイヴ。
「……え? 嘘……」
ミリカは震える足で駆け寄る。
そのミリカへ、真理が無言で魔剣を向け、腰を落とした。
「やめるんだ!! 真理!!」
勇斗は受け取ったばかりのアウルリアを抜き放ち、真理へ飛び込む。
鋭い金属音が炸裂し、魔剣が弾かれた。
「排除しろ!」
ザルグが怒号を上げ、魔胎兵たちが一斉に動き出す。
ミュリエルは即座に魔法陣を展開した。
「――”清風水渦”!」
風と水が混ざり合い、巨大な渦となって魔胎兵の群れへ襲いかかる。
濁流が魔胎兵を飲み込み、螺旋階段へと激しく押し流していく。
「グガァァ!」
後続の魔胎兵たちも次々と巻き込まれ、階下へ落ちていく。
階下で交戦していたヴァルドとラグスは、頭上から降ってくる濁流の音と魔胎兵の咆哮を聞いて、咄嗟に壁をの窪みへと身を隠した。
「――”静眠の紋”」
ミュリエルが両手を掲げると、淡い光を帯びた魔法陣が真理の足元に広がった。
柔らかな光が真理の身体を包み込む。
真理は一瞬身を固くし――握っていた魔剣をカランと落すと、まぶたを閉じ、その場に崩れ落ちた。
彼女の身体を覆っていた黒霧が、風に溶けるように霧散していく。
「よし……効いた」
ミュリエルが安堵の息を漏らした、その刹那。
「おのれ、小娘――散れッ!」
ザルグが咆哮し、長剣を振り抜いてミュリエルへ必殺の斬撃を放つ。
ミュリエルは反射的に目をつぶった。
――キィィン!!
乾いた金属音が響き、衝撃波が壁に深い傷跡を刻む。
ミュリエルがゆっくりと目を開けると、自分の前には見慣れた背中があった。
勇斗だ。
彼はアウルリアを掲げ、刀身からは白い霧のような神聖な光が立ち上っていた。
アウルリアの魔導核に埋め込まれた魔光石が、赤黒い輝きを脈打つように放っている。
それはまるで、勇斗の静かな怒りと呼応しているかのようだった。
「ミュリエル、真理を連れてこの場を離れるんだ。俺はこのデカブツに聞きたいことがある。ミリカが村まで案内してくれるはずだ」
勇斗はザルグから視線を外さぬまま、静かに告げた。
ミリカは倒れたグレイヴの傍らで涙を流していたが、震える手で涙を拭い、彼の帽子を強く握りしめて立ち上がる。
「……この借りは、あとできっちり払ってもらうからね」
「……ああ、必ず」
勇斗の短い返答に、ミリカは唇を噛みしめて頷いた。
ミュリエルはミリカと共に真理を抱え、風の魔法を唱える。
その二人へ、ザルグが再び剣を向けた。
「逃がすと思うか、小娘ども――」
だが、その刃は一歩も進まなかった。
勇斗がアウルリアを構え、ザルグの剣筋を完璧に封じていたのだ。
圧倒的な体格差をものともせず、勇斗は静かに、しかし揺るぎなく立ちはだかる。
ザルグは苛立ちを露わにし、剛腕から次々と斬撃を繰り出す。
だが――勇斗は一切反撃しない。
ただ受け止め、弾き、流す。
アウルリアの刀身が白く輝き、魔導核の魔光石が激しく脈動する。勇斗の意思を読み取り、その動きに先んじて反応しているかのようだった。
腕のしなり、弧を描く軌道、弾き返す角度。すべてが“完璧”だった。
ザルグの顔に、初めて苦痛の色が浮かぶ。
「な……に……? このガキ……!」
勇斗は感情を内に秘めたまま、ただ無言で攻撃を受け流し続ける。
攻撃は一方的。消耗するのはザルグだけだ。
「ぐっ……おのれぇぇぇ!!」
ザルグは怒りに任せて猛進するが、勇斗は微動だにしない。その不気味な静けさが、逆に歴戦の魔将の心を砕いていく。
圧倒的な力。圧倒的な魔力。そして、揺るがぬ意志。
ザルグはついに、己の恐怖を払拭するかのように叫んだ。
「お前もあの娘のように魔剣に魅了されたんだろう! 娘は魔剣を手に入れるためにお前を裏切って、ここへ来たんだ! だがな――お前は魔王様には勝てない! どんなにあがいても無駄なことだ!!」
勇斗の眉間に深い皺が刻まれる。
アウルリアを握る手に力がこもり、白い霧が蒸気のように爆発的に溢れ出した。
「真理はそんな子じゃない。お前に何がわかる? 真理の願う未来は……お前には一生分からない」
勇斗の声は、酷く冷たかった。
ザルグの渾身の一撃をアウルリアが弾き返す。
その瞬間、勇斗の身体がわずかに沈み――
一閃。
がら空きになったザルグの胴へ、アウルリアが白い軌跡を描いた。
重厚な鎧は紙のように裂け、ザルグの巨体は真っ二つに分断されて崩れ落ちる。
勇斗は静かに息を吐き、アウルリアを鞘へ戻すと、グレイヴの亡骸の前に膝をつき、静かに手を合わせた。
その背後で――床を這う影が蠢いた。
まるで“躯を探す触手”のように、魔剣から漏れ出た黒霧がザルグの残骸へと伸びていく。
ザルグの身体を包み込み、裂けた傷口へ黒霧が流れ込む。動かなくなった肉体が、ビクン、と不気味に跳ねた。
ゆっくりと起き上がり、黄色い瞳に再び禍々しい命が宿る。
ザルグは立ち上がり、狂ったように剣を掲げた。
勇斗がアウルリアに手をかけた瞬間――
一閃。
再びザルグは崩れ落ちた。
黒霧が蘇らせ、勇斗が斬り伏せる。その繰り返し。
勇斗の表情は、完全に“無”だった。
怒りも、焦りも、迷いもない。ただ、淡々と肉の塊を斬り捨てる作業を続ける。
アウルリアは白く輝き、その光は次第に鋭く、冷たくなっていく。
その光景を、部屋の影から怯えた目で見つめる者がいた。
黒衣の参謀――ドレイヴァス・ミルゼン。
半面で顔を隠したその表情は、かつてない驚愕と恐怖に染まっていた。
魔族の中でもトップクラスの戦闘力を持つザルグ。純魔を吸収した魔剣によって強化され、不死となった肉体。それを、何度蘇ってもまるで雑草を刈るかのように一刀で斬り捨てる人間。
たった一人の人間が、ドレイヴァスには底知れぬ“怪物”に見えた。
彼の手は震え、声がかすれる。
「……魔王様に……知らせなければ……」
その微かな声が、ザルグの屍を執拗に斬りつける“怪物”を振り向かせた。
ドレイヴァスは息を呑んだ。
勇斗の瞳は、血のように赤く輝いていた。
アウルリアが放つ神聖な白い霧と、ザルグを蘇らせていた呪われた黒霧。相反する二つの力が勇斗の周囲で渦を巻き、空間そのものを震わせている。
いつの間にか、禍々しい黒霧は勇斗の身体へと吸い込まれるように流れ込み始めていた。
その姿は――まるで、真理が魔剣を振るっていたときのようだ。
ついにここまで来ました。が、勇斗の様子が何か変です。つまり、これは、精神世界への扉が開くときです。きっとそうです。そして神が……、神が降臨します。たぶん降臨します。
そして……、そして何かが起きます。この話の結末をここで当てたらすごいです。だって、まだ私にも……次回もお楽しみに。(逃




