百八十話 とにかく前進
開いた穴に向かって突き進む。
穴の断面からは、なんかデロ~と赤い液体が流れているが、シールドで防ぎつつ先へ。
「血かなあ?」
「さあ? グロいからやめてほしいよな」
俺は元冒険者だ。血には慣れている。とはいえ、グロいのは好きじゃない。
ルディーの問いに肩をすくめて返事をした。
「ひど~い。自分でやったクセに~」
「いや、閉じこめるやつが悪いんじゃんか」
やらなきゃ溶かされるだけだしな。
反撃するのはいたしかたあるまい。
「でも、ここ本当に体内なのかな?」
「う~ん。それは出てみないことには」
というのも、穴の先に進んだものの、景色は代り映えしなかったのだ。
赤いヌメヌメした大地が広がるばかりだ。
「胃が何個もあるのかな?」
「さあ? でも、いったんは胃の外にでないとおかしくね?」
臓器ってのはピッタリくっついているわけではない。それぞれが管でつながっている構造のはずだ。
だがら穴をあければ、いったん脂肪やら肉やらの腹のどこかにでる。
人間でなくとも、動物の体はそうなっている。まあ、悪魔は別かもしれんが。
「腸?」
「いや、腸も同じっしょ。ニョロニョロ長いだけで」
重なり合った部分に穴をあけた可能性もあるが。
「まあ、いいや。とにかく前進!」
ドゴン、ドゴンと魔法で道を作っていく。
真っすぐにさえ進めば、いずれ外にでるだろう。
「ねー、マスター。手当たり次第には破壊しない感じ? もしかして、アバドンとも契約しようと思ってる?」
破壊しているのは前方の壁だけだ。
殺さないように手加減してるのか? ってことなんだろうけど、そうでもない。
べつに殺してしまってもかまわない。
「いや、道に迷ったらいやだからさ。真っすぐ穴を開けてればどう通ったかよくわかるし」
とりあえず、今は外にでること優先だ。
もはや悪魔ひとりとの契約など、どうでもいいのだ。力を得ても誤差ていどだ。
ベルゼブブと契約しようとするのは、その軍団ふくめて頂戴したいからだ。
単に迷子になったら困るのだ。
体内ならば方位磁石も意味ないし、目印も溶かされちゃうだろうし。
が、そのときだ。
はるか先の大地に何かが見えた。
「なんすか? あれ?」
「なんか地面がうねってない?」
白い波のようなものが、怒涛の勢いでこちらに近づいてくる。
胃液か? 俺たちを一気に押し流そうとしているのだろうか?
「よ~し、粉砕」
波にむかって電撃を放つ。
またたくまに白い波は蒸発して消えてなくなった。
「すっご!」
われながら、凄まじい威力だ。
全方向にブッパしたら、すべてのものが消えてなくなりそうな勢いだ。
「あ、また来た」
今度は逆方向だ。
白い波のようなものが押し寄せてくる。
「フッ、何度やっても同じこと。蹴散らしてくれるわ!」
ふたたび電撃を放つ。
しかし、なんということでしょう。
押し寄せる波は真っ二つに割れ、電撃を華麗にかわしてしまったのだ。
「うっそん。あれを避ける?」
そんなアホな。
電撃の速度はすさまじい。見てかわすなど、まず不可能だ。
「動きを読まれたんじゃない? さっきから電撃ばっかり放っているから」
なるほど。ワンパターンがバレたわけか。
手をかざした瞬間に回避行動をとられたと。
くやしい! 胃液ごときに。
「ならば、コイツでどうだ。鬼火!」
左手に炎を灯す。
「と見せかけて、やっぱり電撃」
ダダダダダっと広がるように電撃を放つ。
白い波はあらゆる方向に散っていたが、全部きれいに消滅させてやった。
「ふはは、ダマされよってからに」
「べつに鬼火関係なくない?」
まあ、手をかざした時点で攻撃だとバレるしな。
たしかに鬼火がどうとか関係ない。
「どう転んでも負けることはないからな」
シャレだよ。
風と念動力で障壁をはっているから、押し寄せられたとてって感じだ。
「油断だねえ」
「フッ、強者の特権よ」
とは言え、そこまで油断はしていない。
これまで、さんざん油断した相手に付け込んで来たんだ。
慢心に足をすくわれることぐらい心得ている。
「あれ? またなんか残ってるよ」
ルディーが指さすのは白い人型だ。
プルプルと体を左右にふるわせている。
そいつはベタンとうつ伏せに倒れると、デロ~と体を溶かしながらこちらに流れてきた。
「あー、これもしかして」
たぶん先ほどの白い波は、こいつらの集合体だろう。
スライムみたいにデロデロ流れてきたんだ。
「てい!」
鬼火を放つ。
白いゼリー状の物体は一瞬で蒸発した。
「あれも悪魔の一種なのかな?」
さあ? どうだろう?
「アバドンの体の一部かもしれないな。抵抗するようなやつを退治する兵隊みたいな役割なのかも」