百七十八話 ベルゼブブに会いに行こう
農地の管理を悪魔たちに託して、魔界の門へと向かうことにした。
フルーレティが守っていた門だ。
残念ながらアスタロトは置いていく。
彼女(?)が言うには、まだ自分は門を通過できないとのこと。
なんでやねん。チッコなったやんけ。
そう口をとんがらかせて抗議するも、ムダだった。
どうやら体の大きさは関係ないらしい。持っているエネルギー的なやつが大きければ大きいほど弾かれるんだと。
磁石みたいなもんかな?
磁力が強いと反発するみたいな。
「一緒にイッテあげられなくてごめんなさい」
アスタロトはそう言いながら、俺の胸を人差し指でなぞる。
いちいちエロイな。
だが、嫌いじゃない。
「まあいいよ。その代わりここを頼む」
「はい、任せてください。あなたのものが、おっきくおっきくなるように頑張るから」
畑のことだ。丹精込めて育ててくれる的なことを言っているみたいだ。
まあ、すでに大豊作だけどな。ナニがとは言わないが。
「じゃあ行ってくる」
「はい」
ひゅ~んと飛んで魔界への門へ。
そのままくぐると、お馴染みの真っ暗な空間が広がっていた。
この先はベルゼブブが統治する場所へと繋がっているはずだ。
さてさて。待ちかまえているか、それとも……。
――――――
「クルリンパと」
華麗に宙返りすると、地面へ降り立つ。
どうやら魔界側の門は宙に浮いていたようで、足を踏みいれるとそのまま真っ逆さまに落ちたのだ。
高さ自体はたいしたことがない。下にワナが仕掛けられていることもなかった。
――ただ。
「うっ!」
「なにこの匂い?」
俺もルディーも慌てて鼻を手でおさえる。
あたりに充満していたのは、不快な香り。
息を吸うたびに、ムカムカと胃の中のものがこみ上げてくる。
「なにか腐ってる?」
腐敗臭には違いないが、それだけではない。生臭さやドロ臭さ、酸っぱいような刺激臭など、さまざまな悪臭が混ざり合ったような感じだ。
エゲツナイほど臭い。
「ここも魔界なの?」
ルディーと眉をひそめる。
たしかに違和感があるよな。
魔界は多種多様の顔をしているというが、なにかがちょっと変だ。
匂いだけではなく、周囲の景色もどこかおかしい。
足元に広がるのは湿り気を帯びた大地だ。赤く波打ったようなヒダがいくつもある。
しかも、感触が変だ。やけに柔らかく、弾力がある。
踏みしめる俺の足を、ブニョリとやさしく受け止めてくれるのだ。
いやな予感がする。
ここは本当に外か?
赤い大地は、はるか前方でせり上がり、そのまま天井へと繋がっている。
前も後ろも。
そう、巨大な袋にすっぽりと入ってしまったような感じなのだ。
ここは建物の中か?
だが、光源はどこだ?
頭上には太陽もなければ星もない。赤い大地が、周囲を覆っているだけ。
マグマや炎だってない。それなのに、なぜ見えるのだろうか?
――もしかして、大地そのものが光っている?
「あれ? なんかケムリでてない?」
ルディーが指さすのは俺の足元だ。
湯気のようなケムリのようなものが、俺の靴から立ちのぼっている。
――まさか。
「げ! 溶けてる!!」
足裏を確認してみると、焼け焦げたように、靴に穴があいていた。
「これは……」
遅れてやってきたフルーレティもなにやら戸惑っている。
どうも自分がいたころと様変わりしているらしい。
環境が変わった?
いや、というよりは……。
「ねえ、マスター。わたしイヤな想像しちゃったんだけど」
ルディーの言葉にうなずく。
うん、俺も。
「ここ、もしかしたら誰かの体内なんじゃない?」