百七十七話 不本意な買い物
召喚で出てきたアスタロトは全裸の美女だった。
なんとも妖艶な笑みをこちらに向けてくる。
「え? これがアスタロトなの?」
「フォ~~~~~~!!」
ルディーがなにやらモニョモニョ言っているが、それどころではない。
俺のテンションは爆上がりなのである。
「体が小さくなったのはいいけど、このままじゃ街には行けないよね」
「フォー! フォーーーー!!!」
やべえ、メッチャタイプだ。顔も体型も。
あの膨らみに飛び込んで頬ずりしたい。
「ねえ、マスター。聞いてるの?」
下は? 下はどうなっている?
クソッ、座り方が悪い。またがっているヘビが邪魔で肝心なとこが見えないのだ。
透明なヘビだったらよかったのに。
――そうだ!
「アスタロト。これからお前は参謀として俺に付き添ってもらう。だが、その座り方では違和感がある。女性らしさがない」
俺がそう言うとアスタロトはニコリと笑い、体をクルリと回転させた。またがる姿勢から横向きに腰かける姿勢へと。
「おお~!!」
今見えた。足を持ち上げた瞬間に、バッチリ見えた。
だが、ほんの一瞬だった。
こともあろうかアスタロトはそのまま足を組んでしまったのだ。
これは! これでは! ――もう見えないじゃないか!!!
「アスタロト君、足を組むその態度はどうかと思うぞ。わたしはあるじなのだ。もうちょっと敬意というものをだな……」
「こうかしら?」
アスタロトは組んだ足を下すと、パカリと両足を開いた。
「ふぉーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
丸見えである。
「あんまり、見ないで♡」
「むほーーーーーーーーー」
たまらん。こりゃたまらん。
「ちょちょっと、マスター」
「フォーーーーー、フォーーー!!!!」
――――――
ルディーにしこたま怒られた。
仕方がないので街から女用の服を持ってくることにする。
チッ、あのままでも良かったのに。
「最低~」
ルディーがなんか言ってくるが、知ったことではない。
見たいものは見たいのだ。
まあいい。ルディーがいないところを狙えばいい。
チャンスはいずれ巡ってくるさ。
扉をくぐってオプタールの城下町へ。
洋服がいっぱい飾られている店へと向かう。
店の扉を開くと、カラリンコとベルが鳴った。
「たのもー」
「こ、これはサモナイトさま」
一瞬の間ののち、店員がスッ飛んできた。
え? ゲッ! ヤバ! みたいな表情の変化がおもしろい。
そんな店員に、アスタロトの服を見繕ってくれと伝える。
「美しい……」
しかし、店員はアスタロトを見た瞬間、固まってしまった。
布を体に巻き付けたアスタロトは、まるで女神のような美しさだ。
見とれるのは、まあしゃーない。
とても凶悪なボス悪魔には見えんしな。
ゴリゴリのオッサンだったことなど、もはや遠い彼方だ。
とはいえ仕事を優先してもらわなきゃ困る。
店員の目の前で両手をパチンと叩くと、再度服を見繕ってくれと伝えた。
「少々高くてもいいから」
「ちゃんと下着もね」
ルディーが横から付け足してくる。
チッ、うるせえな。分かってるよ。
「下着も頼む。なるべく面積少な目でな」
なんならヒモみたいなのでもエエんやで。それか用を足しやすいように、真ん中が開いているやつとか……。
そんなかんなで買い物をすますと、ふたたび扉をくぐりフォーモリアの南へ。
ネビロスの言っていた農地に適した土地へと向かう。
「ここか」
なるほど。たしかに緩やかな傾斜のある大地に、穏やかな川が流れている。
川の根元をたどれば湧き水だ。遠くに見える山の雪解け水が湧いてきているのだろう。
「よ~し。デッカイ畑を作っちゃる」
サッと手をかざすと、あたりに生えていた木が宙に浮いた。
根っこからズッポシだ。今まで見たことのない異様な光景である。
「スゴッ!」
何百本の木が、根っこごと宙に浮いている。
我ながら凄まじい力である。
アスタロトを配下に収めたことで、さらに力は増してしまった。
なんというのか、人間どころかもう生き物かすら怪しい。
とはいえ、やることは変わらない。
引っこ抜いた木々を木材に加工していく。
太い幹は板状に。枝は柵をつくるための程よい長さの棒へと。
「ソイヤッ!」
棒を次々と地面へ突き刺していく。
そこへ横に棒を通し、ドライアドのイバラで固定する。
農地を囲む害獣よけの柵が、一気に出来あがった。
「ぬおおおお」
次は大地だ。
俺を中心に炎が外へと広がっていく。それは地面に生える雑草を灰へと変えると、柵の手前で鎮火した。もう炎の動きすら自在に操れる。
それから大地を掘りおこし、まじぇまじぇ。
ウネのある広大な農地が完成した。
「こんなもんかね」
「すご~い」
あとは悪魔に任せるか。
タネをまいて、水をやって、荒らされないように警備させよう。