百七十六話 真の姿
「よ~し。急ピッチで食料を増産するぞ。ノーム、頼んだぞ」
ノームを召喚で呼び寄せると、食糧増産計画を伝える。
これから俺は帝国へ手を伸ばす。とにかく食料が足らないのだ。
「やれやれ、お主は土地だけでなく仕事もどんどん増やすのぅ」
「しょーがねーじゃん、俺はもう農場へいけないんだから」
ノームはブチブチと不満を言うが、仕方がない。
俺が精霊の世界へいけない以上、精霊たちに託すしかないのだから。
危なかった。俺が精霊の世界へ入った瞬間に管理者権限をはく奪する。
そうすれば、俺は二度と人間の世界へ戻れなくなる。
それが神の策略だったかもな。懐柔できなければ閉じこめるつもりだった。
アスタロトに話を聞いていなければ、気づくことができなかっただろう。
なんつーイヤラシイ手を打ってくるんだ。神のヤロウ。
「うわ! なにあれ?」
ルディーが指さすのは農場へのトビラだ。
巨大な木が器用に枝を畳みながら、勝手に入ってきている。
「こくたんの木だよ。ドライアドに動かしてもらってるんだ」
トビラも増産しなきゃいけない。
人間界の街と街をトビラでつなぐ。
なんかあったとき、サッと駆けつけなきゃならんからな。
とにかく時間との勝負だ。
俺が二度と農場に入らないと気づいた神が、精霊の世界を封鎖するまで、できるだけ物資を運びださなきゃならない。
すでに出来ている農作物は、すぐさま収穫、こちらへ運ぶ。
農作物の増産は間に合うか微妙なところだが、やっておくに越したことはないだろう。
管理者権限が必ず奪われると決まっているわけではないからな。
もちろん、人間の世界にも巨大な畑をつくる。
収獲まで時間がかかるが、そうも言ってられない。
いずれ必要なことだ。だったらこの際、推し進めてしまおう。
「コレハ、コレハ、アルジさま。お早いオカエリデ」
慌ただしく指示を出しているところへ来たのはネビロスだ。人間界に残してきたコイツには、周囲の状況を探ってもらっていた。
「思っていたより早くコトがすんでな。それで状況はどうだ? いい場所があったか?」
「ハイ。ここより数キロ南、傾斜の緩やかな土地がアリマス。スイゲンも近くにアリ、ノウサクブツを育てるにはイイ場所カト」
おお~。ダメもとで指示をだしていたが、見事畑に適した土地を見つけてきたか。
コイツは内政むけなのかな? 人と関わらん仕事を任せたら、意外と能力を発揮するのかもしれん。
ちなみに今いる場所がフォーモリア。ネビロスが守っていた門があった街だ。
東に行けばフルーレティが守っていた門がある。
次は東の門をくぐりベルゼブブを取りこもうと考えていたが、先に農地を作っておくか。
畑さえ作っておけば、悪魔どもに種まきさせられるしな。
「でかした!」
「ホホ、ソレホドデモ」
俺が褒めると、ネビロスは分かりやすく上機嫌になった。
お調子者だな。致命的な失敗をしないように注意しておこう。
「タダ、北のホウガクですガ、オカシナモノを発見しましタ」
「おかしなもの?」
「ハイ。トウメイな壁のようなものがアリ、ワレらが通過できまセン」
「……結界か?」
「オソラク。捕まえた野ウサギをホウリこんでみましたガ、ソレは問題ナク通過しまシタ」
「なるほど」
北か。
帝都がある方角だ。
帝都には神をまつる大聖堂がある。もしかしたら、そこを中心に結界が張られているのかもしれないな。
ネビロスには引き続き調査をさせよう。
「アルジさま。それでアノ……」
ネビロスが遠慮がちに聞いてくる。
わかってるよ。気になるもんな。
「アスタロトなら無事契約を結んだよ。俺の下で働いてくれるってさ」
「ホオオ……」
嬉しそうな、悲しそうな、微妙な態度のネビロス。
まあ、気持ちはわからんでもない。
冒険者で言うなら、新しいパーティーに鞍替えしたところ、元パーティーのリーダーも後からやってきたみたいなもんだろうな。
力関係といい、気まずさといい。なかなかのもんだろう。
とはいえ別に対立するわけじゃない。
イヤと言うなら指揮系統も分ければいいしな。
新たに加わったアスタロトのポジションは軍師だ。
未来が見えるヤツには、俺のそばにいて逐一報告してもらわにゃならん。
さっそく召喚するか。
門はまだ通過できないが、召喚すればすぐにこられるし。
が、問題はその大きさだ。
あんなドデカイものを連れて歩くことはできんし。
どうしたもんか……。
――よし、やるだけやってみっか。
サイズを指定しての召喚。以前、依り代を使ってルディーを召喚したら、二回りぐらい大きくなってきた。
今の俺ならそんなもんに頼らずとも、自由に大きさを変えられるんじゃないか?
ただ、小さくなってもネズミに乗った素っ裸の男なんだよな……。
服は後で着せるとして、もうちょっと見栄えがよくならんかな。
「アスタロト召喚! ただし、もっと見た目カワイク!!」
魔法陣から出てきたのは人の大きさほどの空飛ぶヘビ。
四本の鋭い爪と四枚の白い翼もつ。
そして、その上にまたがるのは一人の女だ。
透きとおるような白い肌に黄金色の長い髪。
くびれた腰に、張りのある豊満な胸。
めちゃくちゃ美人だ。
しかも、服をまったく着ていない。
超素っ裸。
「フォ~~~~~~! エッロ! エッロ!!」
俺の目はまさに釘付けである。
※アスタロト もともとは中東から地中海沿岸あたりの豊穣神らしい。
女神であるイシュタルやアフロディーテとも同一視される。
主人公の願いが、その頃の姿を取り戻させたようだ。